北のシリコンバレーを創造する人工知能および機械学習に携わるトロント大学が誇る研究者|特集 トロント大学「U of T」

 いまや徐々に日常生活においても目にするようになった人工知能(Artificial Intelligence・AI)。トロント大学はその人工知能の技術的進歩において大きな役割を担っている。AI界のリーダー的存在とも呼ばれている名誉教授を始め、今回はトロント大学が誇る人工知能及び機械学習(マシン・ラーニング)に携わる研究者を紹介していきたい。

Geoffrey Hinton氏

 トロント大学にて名誉教授であると同時に、グーグル社で研究員も務めるジェフリー・ヒントン氏。彼は人工知能の研究者の多くからも「AIの父」と呼ばれるほど偉大な存在だ。人間が持つ学習能力を機械で再現・実行する「機械学習」という技術の仕組みを作るなど、中心的な役割を担っている。その功績が称えられ、2018年には、他二名の研究者と共に「コンピュータ・ソフトウェア界のノーベル賞」として知られるチューリング賞を受賞。彼の名前がより一層、世間に知られるきっかけとなった。

 71歳になった今も、人工知能とディープ・ラーニングのさらなる発展のために日々トロントにて研究を続けている。

そもそもディープ・ラーニングって?

 ヒントン氏が特に多大な貢献をしているのが「ディープ・ラーニング」という分野。実際、「AIの父」と呼ばれると同時に「ディープ・ラーニングの父」とも呼ばれるほどこの分野においても中心的な役割を果たしている。それではこの「ディープ・ラーニング」とは
一体何なのか。

 ディープ・ラーニングは機械学習の一部である。機械学習とは一般的には人間的な知能が必要となることを機械に学習・実行させること。ディープ・ラーニングはその中でも、人間の脳の構造を機械で再現し、膨大な量のデータを機械に覚えさせる技術だ。より多くのデータを学ぶことにより、人間のように今まで遭遇したことない状況においても正しい判断を下すことが可能になるという。ヒントン氏はこれを可能にしている仕組みを作っている。

 これらの技術が用いられている身近な例として、「AIアシスタント」と呼ばれるアップルの「Siri」やアマゾンの「Alexa」がある。そのソフトウェアは人間が発する言語の理解にディープ・ラーニングを用いているという。翻訳ソフトも同じような方法で「学習」しているそうだ。

 さらに、現在ではパソコンやスマホのロック解除にも用いられている「顔認証」の技術もディープ・ラーニングの技術をもとに開発されている。将来的にはさらに正確性に優れ、電子マネーのように顔認証で支払いすることが可能になる日が来るかもしれないという。(出典:https://www.forbes.com

Frank Rudzicz氏

 人工知能に加え、言語処理や医療など幅広い分野に携わるフランク・ルジッチ氏。彼が代表を務める研究室(SPOClab)ではこの二つを合わせ、言語処理の能力を持つ人工知能を言語障害を持つ患者などに向けたソフトウェアの開発に役立てているそうだ。ある取材でルジッチ氏は、「私たちは言語処理の仕組み全てに興味がある。言語を発する際の音の作り方から脳での処理までの全てだ」と自身の研究分野の広さを示した。この技術により、現段階ではアルツハイマー病の患者に向けたロボットが開発され、患者とのコミュニケーションをより円滑にすべく研究が続いている。将来的には、この言語処理能力を通じてアルツハイマー病やパーキンソン病など、言語処理に影響を及ぼす疾患の医療に役立てていく考えだ。

Markus Dubber氏

 人工知能の技術が発展を遂げると共に、多くの人が気にするのが倫理的問題ではないだろうか。「自動運転の車は歩行者を危険にさらしてまで乗客を守るのか」、「ガンを探知する機械が判断を誤った場合責任は誰にあるのか」など、数知れぬ問題が人工知能を取り巻く。このような課題に立ち向かうべく、トロント大学法学部のマーカス・ダバー氏はトロント大学のCentre for Ethicsにおいて人工知能を倫理的観点から研究している。さらには、最新研究で新規ビジネスの発展をサポートするCreative Destruction LabにおいてもLab Ethicist(倫理学者)という役割を担っているほど。ダバー氏はある取材で、将来的には人工知能の倫理的観点による研究に特化した研究室を作りたいと語っている。

Hector Levesque氏

 人工知能の知識表現について研究を行なっているヘクター・レベック氏。トロント大学で学士・修士・博士号を獲得し、2014年まで教授として勤務。知識表現の分野においては人間特有の信念・目標・意図などといった知識がいかに機械で再現出来るか、さらには知識と知覚や行動の関係についても研究分野の一部となっている。同氏は多数の著書を出版しており、中でも「Common Sense, the Turing Test, and the Quest for Real AI」では人工知能に知識だけでなく「常識」を覚えさせる大切さについて言及。人間のように常識も兼ね備えることにより、今まで遭遇したことのない状況にも対応が可能になると述べている。「人工知能がいかにより人間らしい進化を遂げるのか」というのも、開発が続くにつれて重要な問いとなるだろう。

Quaid Morris氏

 分子遺伝学とコンピューターサイエンスの両学部にて教授を務めるクエード・モリス氏。彼の専門分野はテクノロジーを用いて生物学の研究を行う「計算生物学」だ。中でも、人工知能を用いて小児における関節炎の治療の改善に取り組んでいるという。まず、患者を症状によって分類することにより一人一人に適した治療方法を推奨する。これにより不必要な治療や副作用を最小限に抑えることが可能になるそうだ。また、人工知能とデータを使うことによりどの患者がより早く治癒し、一方でどの患者の症状が悪化しやすい傾向にあるかを判別することも可能になるのだとか。モリス氏の研究がこれから医療分野に多大な貢献を与えていくことを期待したい。

Sanja Fidler氏

 「コンピューター・ビジョン」と呼ばれる、画像・映像の理解や解析について研究する分野に携わるサニヤ・フィドラー氏。2Dや3Dの画像を把握することはもちろん、その画像について言語で説明する能力の開発にも尽力している。彼女の研究は映画などの芸術的分野にも応用されることを期待されている。ある取材では、映画製作や製作段階におけるフィードバックが人工知能によって可能になるのではと期待を寄せている。さらに、言語を用いることにより、人工知能の専門家でなくともコミュニケーションを取ることが可能になると述べている。

Marzyeh Ghassemi氏

 権威あるマサチューセッツ工科大学のMIT Technology Reviewにて「35歳未満の革新者」の一人に選ばれたマルジエ・ガセーミ氏。ガセーミ氏は主に、医療の分野において人工知能を活用する取り組みを行っている。中でも、人工知能により医療機関が扱う膨大なデータを管理し、それを患者の入院期間中の行動予測に活用するそうだ。どれほどの期間入院するのか、入院中にどのような治療が必要になるのかなど、今までは予測するのが難しかった項目もデータと人工知能を活用することにより予測が可能になるという。ガセーミ氏は現在、情報学と医学の両方の学科において教授を務めているというから驚きだ。

Goldie Nejat 氏

 理工学部においても人工知能の研究は進んでいる。ゴルディ・ネジャット教授は「人を説得することが出来るロボット」や「人と信頼関係を築くことが出来るロボット」など、人間的な感情を持ったロボットの開発に取り組んでいる。人間との距離を縮めることが出来るロボットを開発することにより、将来的には医療や介護の分野における活躍が期待出来るそうだ。日本同様、現在少子高齢化に直面しているカナダ。介護ヘルパーなど、労働者の負担軽減のためにも役立てていく狙いがある。現在、患者とともに料理をし、食事までも楽しむロボットの開発に取り組んでいる。人間がいかに行動するかを予測・判断するためにも人工知能が必要となる。この取り組みが将来医療・介護の分野において大きな貢献をすることを期待したい。