アートな街トロントにこれから必要なもの
本誌でコラム連載中のアーティスト武谷大介氏に語ってもらった、トロントのアートシーンにこれから必要なもの。
アートがその特性を発揮するには、アーティストだけではない、展覧会を作る人、アートを観る人、広める人、作品を買う人、教育する人などの協力が不可欠である。
アートそのものが社会のサイクルと一体化した時に初めてsustainableな(持続できる)文化となり得る。現代社会でうまくやっている大都市だと、ニューヨーク、ロンドン、パリだろう。美術館を中心とした観光、経済、教育。アートは他の産業とは比べ物にならない文化の中心としての力量を発揮している。日本でもその昔、平安や元禄をはじめとする時代の中では「生きる道筋」といっても過言でないほどアートは重宝されていた。第二次大戦後の大量消費社会の中では、アートは他のマーケティングを重視した文化アイテムにその確固たる地位を譲り渡した形となり、一部の富裕層の娯楽の為に存在するように思われがちだったが、IT革命後の環境重視の21世紀の3C思想(Consciousness, Co-existense, Collective Intelligence)のもとで一般社会に復権を果たそうとしている。
カナダのGNC(文化力:Gross National Culture)はというと、マルチカルチュラリズム(多文化主義)の社会であるが故に世界の他の国と比べるとバラエティーに富んで高いように見えて、残念ながら実に密度が低く底が浅い。20世紀スタイルで育った移民がイニシアティブを取る多様な文化基盤の中、なかなかカナダのオリジナルなアートマーケットとハイカルチャーが確立されるに至っていない。わかりやすく言うと国家統一前に戦国時代の下克上が延々と続いている感じ。数多い小規模のアートウォークやアートフェアがさらに数を増やしアート全体の裾野を広げているのはいい事かもしれないが、どこもどんぐりの背比べ的な状況で、グラント(助成金)を得たやりくりのうまいアーティストと大学で教職を得たアーティストだけが生活基盤を築いている。ある程度知名度の出たアーティストは、地元愛よりもキャリアを選びアメリカやヨーロッパに流出して自分の地位を固める以外にステップアップして作家活動を継続していく方法がなくなってしまっている。
ここで、あえてトロントのアートに必要なことを考えてみたい。
アートマーケット
トロントには、アートマーケットがないと言われて久しい。いいと思った作品に思い切って投資してみましょう。特にカナダのアーティストの作品を買ってみましょう。カナダ唯一の国際アートフェア『ART TORONTO』では、今年は『Focus Asia』としてアートを通じたアジアとの橋渡しをテーマにしている。日本からのギャラリーの出展もある。そういった国際展に出展するギャラリーやアーティストのサポートは、トロントのアートマーケットの形成と国際競争力の向上に役立つはず。
アートを観る
展覧会、アーティストトーク、キュレータートーク、シンポジウムにどんどん参加しましょう。英語の勉強にもなるし、アーティストとも友達になれて結構楽しい。
アート教育
カナダのアートをもっと良く知ろう。皆さんは、カナダのアーティストの名前を何人知っていますか?グループ・オブ・セブンだけじゃない、今の時代を作っている優れたアーティストはトロントに大勢います。そして、そういったアーティスト達とつながっていきましょう。
アートを広める
ブログや口コミ、なんでもいい。アートを語ろう。自分の好きなアートが近くに感じられれば、毎日の生活はより豊かになるはず。
ハイアート/ブランディング
トロントを拠点とする世界的なアーティストをもっと育てていく必要があるのではないかと思われる。優れたアーティスト達の国外流出を防ぎ、トロントに留まって制作発表で生活していけるような、いわゆる「トロントブランド」を打ち出していかなければ、アートの戦国時代はこれからも永きにわたって続く事になる。例えばAGOでマイケルスノー展を大々的に開催して日本やその他の国々に巡回させるくらい大胆な世界的ブランディング戦略が必要だ。アートマーケットの形成とハイアートが可能になった時、一大産業としてトロントの街が潤い、カナダのGNCは世界と肩を並べることができるはずです(地元愛:)。
たけやだいすけ(アーティスト)