もっと日本にCanLit! 第13回

第13回 メイヴィス・ギャラント

canlit-01-jan-2014

残念ながら邦訳は発売されていないようだが、どのコレクションも各編者が選り抜いたいわばベスト版のようなものなので、まずは1冊手にとってみよう。

canlit-02-jan-2014

パリが活動の基盤だからか、ギャラント氏の短編集のカバーはヨーロッパ風のおしゃれなものが多い。


前々回の当コラムで、本年度のノーベル文学賞受賞者でカナダの誇る短編の名手、アリス・マンロー氏を紹介したが、実はもう一人、知る人ぞ知るカナダ人ショート・ストーリー・ライターがいる。その名はメイヴィス・ギャラント。マンロー同様、英語文学界で最も有名な文芸誌の一つである、ザ・ニューヨーカー誌の数少ない常連カナダ人作家である。
なぜ「知る人ぞ知る」かというと、ギャラント氏は生涯のほとんど、とくに創作活動の場をヨーロッパに当てたため、カナダ人であるということが以外に知られていないためである。筆者もヨーロッパで暮らしているが、英文学の学生などのあいだでは人気が高いようだ。
1922年にケベック州モントリオールで生まれたギャラントは、フランス語圏のアングロフォンとして苦労しながら育つ。父の非業な死、モントリオールでのジャーナリストとしてのキャリア、結婚生活の破綻などを経験し、28歳でヨーロッパに渡る。フランス、パリを基点に紡ぎだす短編小説は、体制側は気にもとめないような個人個人の物語だ。マンローの回でも触れたが、日常のささいなある瞬間を描き出すのが短編小説の醍醐味というなら、ギャラントもマンローに負けず劣らずの名士と言えよう。
たとえば、マルセイユの病院で父を看るカナダ人青年の話。テナントだった北アフリカからの移民女性の行方を案ずるフランスの老夫人の話。徴兵制の犠牲になるある兵士の物語。作品の舞台はヨーロッパでも、その人間性や人生の一瞬を見つめる観察眼の鋭さは、オンタリオの小さな町を舞台としたマンローの作品と何ら変わりない。また、故郷モントリオールもたびたびメイヴィスの作品のモチーフとなっている。
カナダにも折りに触れて帰国している。80年代後半から90年代にかけては氏の作品がたて続けに文学賞を受賞しており、また93年にはカナダ勲章の最高位、コンパニオンを受賞している。半世紀以上をヨーロッパで過ごした今も、カナダから記者たちが取材のためにパリのメイヴィスのもとを訪れる。
ギャラント氏のほとんどの短編小説はまず文芸誌において発表されている。それらが編者によってさまざまなコレクションとなっているが、残念ながら邦訳は今のところまったく出ていないようだ。マンローのノーベル賞受賞により日本国内でもカナダ文学に対する関心が高まっているようなので、そろそろギャラントの作品集にも邦訳されるチャンスが訪れるとよいのだが。


yokoモーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。