日本美術 in Toronto 第2回
第2回 Camera Atomica(カメラアトミカ)展
アートギャラリー オブ オンタリオ(AGO)
今日はアートギャラリー オブ オンタリオで7月8日から11月15日まで開催されている「Camera Atomica」展についてお話したいと思います。展示会はブリティッシュ コロンビア大学のジョン オブライアン教授により企画されたもので、原子力に関する写真を200作品ほど展示しています。この中には、日本を主題にするもの、そして日本の写真家の作品も含まれているので、トロントに住んでいらっしゃる日本の方、または日本に興味のある方々には関心をもっていただけるのではないかと思います。
実はジョン オブライアン教授は私がバンクーバーで博士課程をしていたときの博士論文の監督でもありました。彼は主にアメリカの戦後美術評論家であるクレメント グリーンバーグやフランス人画家マティスを専門にしていましたが、近年は写真という媒体の中で表象される原爆と原子力についての研究をしていました。数年前に研究のために1年間京都の立命館大学に滞在したこともあります。私がバンクーバーにいる頃から、この展示会のプロジェクトの話をしていたので、数年越しの企画になります。彼の生徒でありながら、実は「原子力と美術」といわれても始めはピンとこなかったというのが正直なところで、彼の研究の重要さを知ったのは2011年の大震災、そして福島第1原発でのメルトダウンが起きてからです。彼が福島第1での事故よりずっと前に原子力問題の重大さに気付いていたことに尊敬の念を抱いていますが、日本への原爆、原爆実験、冷戦、キューバ危機など戦後を北米で生きてきた彼にとっては原子力と世界危機というテーマは生活のバックグラウンドにあったのかもしれません。
展示会自体は、3つのセクションに分かれています。始めのセクションは広島と長崎の原爆に関する写真です。写真はジャーナリストやプロの写真家が撮ったもの、雑誌などに掲載されたものなど様々なジャンルのものが展示されており、原爆のキノコ雲や被爆者が身体に受けた傷などが被写体になっています。このセクションでは日本人では土門拳(どもんけん)、山端墉介(やまはたようすけ)、東松照明(とうまつしょうめい)、石内都(いしうちみやこ)氏など著名な写真家の作品が含まれています。2つ目のセクションは、「Test and Protest」と題されていて、戦後の原子爆弾開発や実験の廃止を求める世界各地での原爆反対運動(バンクーバーで始まったグリーンピースの活動など)についての作品が飾られています。日本に関する作品では、濱谷浩(はまやひろし)氏の安保闘争を記録した写真が展示されています。最終セクション「Radiation and Uranium」では、原子爆弾の実験により被爆したアメリカの住民、チェルノブイリ事故、そして1999年の東海村臨界事故、2011年の福島第1原発メルトダウンに関わる作品などが見られます。日本人作家のものでは、原発に関心を払い続けてきた作家として知られる樋口健二(ひぐちけんじ)氏の写真が2点含まれています。日本人作家の作品以外にも、アメリカやカナダの作家の興味深い作品が多数含まれています。
「Camera Atomica」展の重要なところは、原子力という日本でもまさに今議論の最中にあるこの問題についてグローバルな視点でアプローチすることができる、ということです。もちろん地震大国日本における原子力発電の安全性ということについて議論するのは当然大切なことですが、原子力事故の可能性や危険性というのは原子力発電所がある国では重要な問題であり、この問題について考えなければいけないのは日本だけではありません。特に、オブライアン教授が高い関心をもっていたのが、「平和の国」と考えられる事が多いカナダと原子爆弾原子力発電との関わりです。この点については、実は展示会の入り口にあるJulia + Ken Yonetani氏(オーストラリア在住の日本人作家)の緑色に光ったシャンデリアが象徴しています。福島での事故をうけて作られたシャンデリアは世界各国の原子力所有量の比を作品のサイズで表しているもので、今回の展示会で展示されているものはカナダの原子力量を表したものです。
また、カナダの原爆と原子力についての関わりは、展示会の最後にあるパネルに明確に記されています。最後のスペースでは、カナダの日本に落とされた原爆との関係性(たとえばカナダ政府が、アメリカが原爆を開発したマンハッタンプロジェクトといわれる実験に関わっていたこと)が言及されていますし、またカナダが原子炉やウランをインドや中国に輸出していること、そしてオンタリオ州がフランスに続いて世界での原子力エネルギー生産量が世界で2位であることが説明されています。これらの事実をふまえた上で、来場者が原発に賛成か反対か意見を交換する場所をツイッター上に設けるという工夫もされています。カナダという日本から遠い土地に暮らしていて、福島の原発事故の影響を毎日の生活の中で直接受ける事はない私ですが、オンタリオ州にいくつも原子力発電所がありながら、メルトダウンの可能性や危険についての討論が公共でそれほど行われていない今のカナダの現状を考えると非常に恐ろしく思いました。
いう日本でもまさに今議論の最中にあるこの問題についてグローバルな視点でアプローチすることができる、ということです。もちろん地震大国日本における原子力発電の安全性ということについて議論するのは当然大切なことですが、原子力事故の可能性や危険性というのは原子力発電所がある国では重要な問題であり、この問題について考えなければいけないのは日本だけではありません。特に、オブライアン教授が高い関心をもっていたのが、「平和の国」と考えられる事が多いカナダと原子爆弾原子力発電との関わりです。この点については、実は展示会の入り口にあるJulia + Ken Yonetani氏(オーストラリア在住の日本人作家)の緑色に光ったシャンデリアが象徴しています。福島での事故をうけて作られたシャンデリアは世界各国の原子力所有量の比を作品のサイズで表しているもので、今回の展示会で展示されているものはカナダの原子力量を表したものです。
また、カナダの原爆と原子力についての関わりは、展示会の最後にあるパネルに明確に記されています。最後のスペースでは、カナダの日本に落とされた原爆との関係性(たとえばカナダ政府が、アメリカが原爆を開発したマンハッタンプロジェクトといわれる実験に関わっていたこと)が言及されていますし、またカナダが原子炉やウランをインドや中国に輸出していること、そしてオンタリオ州がフランスに続いて世界での原子力エネルギー生産量が世界で2位であることが説明されています。これらの事実をふまえた上で、来場者が原発に賛成か反対か意見を交換する場所をツイッター上に設けるという工夫もされています。カナダという日本から遠い土地に暮らしていて、福島の原発事故の影響を毎日の生活の中で直接受ける事はない私ですが、オンタリオ州にいくつも原子力発電所がありながら、メルトダウンの可能性や危険についての討論が公共でそれほど行われていない今のカナダの現状を考えると非常に恐ろしく思いました。
7月の展示会のオープニングの際に行われたオブライアン教授によるキュレイタートークに出席しましたが、非常に興味深いものでした。というのも、講義の後の質疑応答の中で、質問者が反原発か原発賛成のアクティビストばかりだったからです。「原子力を廃止する請願書に署名してください」や、また逆に「原子力に対する恐怖は馬鹿げている」などという質問者(実際には主張ですが)が多く、私が出席した美術に関する講義後の質疑応答の中では1番緊迫したものではなかったかと思います。美術(または美術と政治との関わり)に関する質問はほとんどでませんでした。それを少し残念に思うと共に、原子力というものが、原爆で生命を破壊すると意味でも、原子力発電で人々の生活を「活性化」するという意味でも、それだけ人々の生活に影響を与え、感情的にし、それゆえ政治的議論の的であるのだな、と身をもって実感しました。
「Camera Atomica」展入場料は一般の入場料に含まれています。10月23日から25日にかけては、「Through Post-Atomic Eyes」と題された学会(会場はOCAD大学とトロント大学)が予定されており、誰でも無料で出席することができます。詳細はwww.postatomiceyes.netをご参照の上、参加ご希望の方は、レジストレーションの手続きをウェブサイト上でお願いします。展示会、学会ともに是非、足をお運びください。
池田安里/Asato Ikeda
ニューヨーク•フォーダム大学美術史助教授/ロイヤルオンタリオ博物館研究者(2014-2016)。ブリティッシュ•コロンビア大学博士課程を首席で卒業し、カナダ政府総督府より金メダルを受賞。著書に「Art and War in Japan and its Empire 」(監修 ブリル出版)、 「Inuit Prints: Japanese Inspiration」(共著 オタワ文明博物館出版)等。