カナダでゲーム屋三昧#009

空想好きが人間を進化させた

いまだ一夫多妻を貫くブッシュマン

いまだ一夫多妻を貫くブッシュマン

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Bushman, Topics of conversations, 1970s, % of total


人間が、毎日一番に話題にしている内容って何だと思いますか?都市に住んでいる人も、いまだ1万年前の狩猟生活を送っている人も、実態のところ、そんなに違いはないのかもしれません。Economistで面白い調査研究がなされました。アフリカの伝統的な狩猟民族ブッシュマンの会話内容のシェアを分析したものになります(表1)。これ、実は私自身と照らしても、あんまり違いがないな、ということが逆に非常に驚きでした。3割はComplain(不満)、3割Economic(経済的事情)、2割Joking(ジョーク)、この3つでほとんどを占めています。まあ日常生活、社会や生活の不満とお金とジョークさえあれば、特に困ることなんてありませんもんね。

ただ、この調査にはもう一つ、面白い対照実験がされています。夜、「火」を囲んで話す時には何を話しているか。夜になるとブッシュマンも例外なく、とても神秘的な人々になります。なんと8割がStories(物語)、そして1割のMyth(神話)です。不満もジョークもここではほとんど出てくることはありません。一体この調査結果は何なのでしょうか。これ、実は「火が人に与えた影響」を調べるためのものです。
人が進化した理由が色々語られています。木から草原に降りて二足歩行で手を使うようになって脳が進化した、集住して住むことで数の論理のなかで生存率を高めた、等々。しかし、その中でも間違いなく、人間を唯一無二の存在をたらしめている絶対的な能力は「言語」です。言語による意思疎通によって、人は多くの学習を遺伝子レベルによらずに継承できるようになった。言語を進化させたのは、実はとても簡単な話なのかもしれません。人は「火を囲む」ことによって、より想像力ある会話を楽しめるようになった。それは、直接生存に関わるようなものではないけれど、Entertainmentとして人を結びつけるものになりえた。つまり火がエンタメをつくり、エンタメが知能発達を促し、その結果コミュニティが生まれたではないか、というのがこの調査の結論なのです。

もう一つ、別の調査を紹介させてください。カナダでUfology Researchというグループが、過去25年間にわたりUFOが発見された14617件の事例を分析したものです。UFOが一番発見されているのはいつか?というもの。最もUFOが現れた時間帯は午後10時から真夜中、そして7月と8月です。しかし、面白いのは人間が寝静まる午前2時以降になると発見の頻度が低くなること、さらには発見されるのは金曜日が極端に多い。これは何を意味しているのでしょうか? UFOが真夏の金曜によく地球に訪れるなんて話があるはずもありません。UFOの発見は、日常と切り離されたところで気分が高揚し、想像力を働かせている時間帯ときれいに連動します。エンタメを求める時間に、UFOは最も多く発見されているのです。

夜と火と酒、そして音楽は「日常世界と切り離された『空想』に溶け込める時間」を作り出しました。それはまさにエンタメが提供してきた機能でした。演劇・講談に始まり、小説・漫画ができて、映画となり、ゲームとなり、SNSへと進化した。日々のゴシップを離れ、「空想」を生み出すことは、人が生きる上でなくてはならない行為です。出版・動画・ゲームなど「やわらかい」コンテンツ産業は、一体どんな社会の役に立っているのかということを常に問われてきました。対比して政治や教育など「かたい」コンテンツは常に上質のものとして敬意を集めております。しかし、火を炊いて物語を語ったり、ハッピーフライデーの後にUFOに遭遇したりといったことは誰に強制されたものでもありません。社会的には何の価値をもたない単なるエンターテイメントです。でもエンターテイメントは公的なお墨付きが一切ないからこそ、人間が本質的に自発的に取り組んだものであり、そうした強い動機付けがあるからこそ人の進化に一役買うことになったのではないか、と思います。

神話について話すこと、物語を語り合うこと、UFOを見つけること、これらは世界がこうだったらいいなという「人間の『面白いな』の固まり」です。我々の仕事は、この『面白いな』を再現可能にして、人の生活のあちこちに散りばめることです。人間の想像力が柔軟な空間に沿って膨らむ商品だから、状況にとても左右されます。月曜日や冬の寒い時期はあまり求められません。やっぱり真夏の晴れ渡る自然のなかで、金曜日に酒を飲みながら、特に喧騒から離れた夜という場でこそマッチするサービスなのです。

歴史上の天才は例外なく「空想好き」です。エレベーターに乗りながら「これが無限に上がり続けたら」と空想するアインシュタインなど間違いなくファンタジーの住人でした。空想は思考の幅を広げ、常識の境界線を疑います。ファンタジーな世界を作りだし、社会のあっち側から手招きをしながら、空想好きを育てる。ゲーム会社はそんな社会的使命をおびているのではないか?と遊び人の空想を嗜んでおります。ちなみにドラクエⅢで「遊び人」がLv20になると賢者になれる仕組みを考えた堀井さんは、天才だなと思います。


nakamura-atsuo中山 淳雄

1980年宇都宮市生まれ。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 はBandai Namco Studios Vancouer. Incに勤務。コンテンツの海外展開を専門に活動している。著書に『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版:第四回日本修士論文賞受賞作、2007年)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書、2012年)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHPビジネス新書、2013年)、他寄稿論文・講演なども行っている。