世界でゲーム屋三昧 #24

カネヒトを動かす超合理国家シンガポール

心機一転シンガポール
こんにちは、シンガポールに住み始めてはや3週間になります。2年間のカナダゲーム会社立上げを終えて、Nextミッションである新規事業創出に向けて新たな土地で生活をスタートさせはじめました。

何もないところからMobile用ゲームの開発をはじめたバンクーバーに比べて、こちらシンガポールのスタジオは50名以上もの部隊からなるアーケード・コンソール開発を含めた大型スタジオ。昨今は、アジアの開発スタジオが技術力・クリエイティブ力をつけ始め、競争力のある価格でハイクオリティなものができる時代になってきています。我々もシンガポールをハブにして、マレーシア・台湾・中国・インド・ベトナム・インドネシア・タイなどといった近隣諸国のクリエイターと連携しながら競争力をつけていく必要に直面した上でのスタジオ展開になります。

そんな大きなサイズのスタジオで、色々と新規の動きを画策しはじめる、というところから仕事が始まっております。過去23回にわたって連載を続けてきたこちらの連載も『世界でゲーム屋三昧』とタイトルを変えて鋭意連載を続けていく予定です。

カネヒトの流れが決める国際情勢
カナダで19世紀にゴールドラッシュを引き起こしたDawsonという町があります。遥かユーコン州の北方、アラスカとの国境沿いにある小さな村でした。数千人しかいないような小さなその集落に金が出るぞと噂がたち、瞬く間に3万人を擁する「町」へと変わりました。その人口の四分の三は外国人であり、サンフランシスコから流れたアメリカ人がほとんどを占めました。カナダの町でありながら、中身はほとんどアメリカ人の町。映画館もできれば売春すらも許され、カジノなども設営されます。

歴史を紐解くと、政治経済の情勢のはざまでこうした「特別な場所」が時々生まれます。香港返還時のカナダ、オーストラリアや、今まさにシリアから欧州・北米への人の流れ。シンガポールもまた、歴史が生み出す特別な場所の一つと言えるでしょう。東京23区の大きさの中に550万人(東京の人口密度の半分くらいですね)の人口を擁しますが、実際のシンガポール市民は300万人強。50万人の永住者も入れると、なんと4割が外国人で出来上がっている国、という状態になります。

bandai-namco-24-01すでにアジアにおいて最も豊かな国となり、税制優遇も手伝って日本から本社機能を移す企業も多くあり、技術のみならず大学ランキングですらシンガポール国立大学が東大を抜く(toyokeizai.net/articles/-/94995)といった事例も出てきており、とにかく注目が集まっている都市でもあります。

もっとも、天然資源も製造拠点となる土地もないシンガポールにおいてヒトを吸収するには限りがあります。世界の人の流れを1990年から5年ごとに2010年までみた図があります(www.global-migration.info)。1995年から急激に「世界的な北米の人口吸収」が始まり(欧州、インド、中国、韓国、ASEAN、南米からの人口流入)、2000年からはそのうち中国・インド・南米からの流入が集中し、2005年からはやや北米の存在感が弱まり、アジアから他地域への動きがあがってきている(図1)。こうした中で注目すべきは小さいながら「シンガポールへの流入が加速している点」と「日本が動いていない点」です。経済的には世界2位でありながら、日本のヒトの還流でいうと日本の存在感の小ささは驚くべきレベルです。

人口成長≒経済成長ですが、20世紀後半にアジアを牽引し世界2位となった日本経済に対し、1人あたりの経済効率を高め、特化したエリアで豊かになったのがシンガポールです。USドルで統一した購買力平価GDPを人口1人あたりで割ってみると、図2のように日本も一応成長は続けております。ただちょうどバブル前後に抜き去ったシンガポールは現在ダブルスコアをつけてのGDPとなっています。カナダもこれほどではないにしても、90年代後半から日本よりも1人あたりは豊かになっている状況です。

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ラストワンマイルのプロジェクトX
こうしたマクロな変化を念頭に置きながら、シンガポールで感じたこと。それは「効率性・合理性を追求するサービス」。例えば(バンクーバーもそうですが)シンガポールも電車は無人運転です。電子改札は「もちろん」機能しており、パスをつかって大量の乗客をさばいていきます。日本だと自動改札なのに人が常駐していて、しかも朝の渋滞時は乗務員が押し込みまでやっている。この光景は渋谷交差点と並んで、外国人が驚く鉄板の光景です。

例えば映画のチケット。シンガポールは完全に自動化しており、タッチパネルで全てが済みます。割引の日やカード特典など、一目瞭然。日本ではいまだ池袋や六本木など主要エリアでもチケット販売は人手の窓口がメイン。しかも受付が身分証など丁寧にチェックしながら、自分でも気づかない特典・割引などは指摘してくれます。これはこれで素晴らしい。

例えば、アイスクリーム。場所にもよりますがIKEAでは客自身がコーン片手に自動で巻き巻き。でも日本のミニストップだと35年かけてソフトクリームを開発し続け、しかもセブンもローソンも真似できない最後の勝ちパターンは「実技試験によって教育された店員の技の差」という人力部分(bizmakoto.jp/makoto/articles/1405/21/news008.html)。

通信の世界でいうと「ラストワンマイル」と呼ばれる電柱と個宅を結び付ける最後のワンマイルにおけるサービスの価値。日本はこの距離をすべからく「現場の職人」が埋め、そしてそこに生まれる人間の触れ合いと職人の技というマニュアルな世界に落とし込んで、効率化するスキを与えない。これはこれで個人的に好きなんですが、あれ、本当にここまで必要なんだっけ、、、と思わざるをえない時もあります。

今後回を重ねて色々書いていく予定ですが、シンガポールは同じ「国」として呼称するのが臆するほど、サイズ、スピード、考え方、何から何まで違います。こうした「特別な場所」であるシンガポールと、アメリカと寄り添いながらQuality of Lifeを追求するカナダ、そして「動いていない」ようにみえる日本。今後こうした比較のなかで、見えてくる面白い発見も色々ご紹介していこうかなと思っています。


atsuo-nakayama中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのシンガポール法人にて、新規事業立ちあげ中。昨年までバンクーバーにてモバイル開発スタジオを立ちあげ、モバイルゲームを複数リリース。”Pac-man 256″ でApple, Googleの2015 Best Gameを受賞。リクルートスタッフィング、DeNA、コンサルを経て現在 に至る。東大社会学修士、Mcgill大学MBA修了。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。