世界でゲーム屋三昧 #25

超合理国家シンガポール(2) 生活と教育

二度目のシンガポール進出ブーム
さて、前回はゴールドラッシュのように外国人を誘致して、世界中から人を吸い込んでいるシンガポールについて語りました。では日本人にとってのこの国ってどうなのでしょうか。今回も超合理国家の超合理的な側面について書いていきたいと思います。

日系企業にとってシンガポールは東南アジア進出の足掛かり。実は1990年代にもグローバル化の旗印のもとにシンガポール進出は第一次ブームがありました。ところが90年代末あたりから中国の自由化と急拡大で、ぎゅぎゅっとそちらに引っ張られ、21世紀に入って低迷の時代を迎えています。それと同時に、中国市場の難しさを実感して逆流現象が始まったり、ASEAN統合のなかで東南アジアの魅力が再注目され始め、なによりリーマンショックでやはり海外に出なければという熱が沸騰したところで、この5年間はこれまでに例のないレベルで急激に進出が進んだ国なのです。

バンダイナムコスタジオのシンガポール拠点も同じ流れですが、「地域統括拠点」として既存のアジア各事業所を統括したり、バックアップする位置づけとしての、新しい展開の形式が本流になってきています。必ずしも現場人員だけでなく、マネジャーやコーポレート組織といったバックアップ機能、インフラ機能に近いところまでグローバル化を前提に進出。シンガポール自身もその兆しを受けて、もともと17%という低率の法人税を、さらに減税。地域統括拠点には15%、また企業によっては個別交渉によって5-10%水準まで法人税を免除されるという大特価サービス。

結果、2010年に2.5万人弱だった日本人は、たった5年で3.5万人と1万人以上も増加。会社数も850社。面積ではシンガポールの15,000倍を誇るカナダも、日本人の数こそ6万人(バンクーバー2.3万人)と多めですが、会社数としては350社。しかもそのうち半分が永住者なので、シンガポールの永住者が2千人と全体の1割未満に過ぎないことを考慮すると、移住の質がだいぶ違うことが伺われます。「移住して生活の場としてカナダにくる日本人」と「ビジネスのために一時的在住を前提としてシンガポールにくる日本人」、来てすぐに実感できるのは、年齢層もタイプも過ごし方も同じ日本人でもずいぶんと違うな、、、というところです。

住宅費抜けば世界一水準の都市ランク
私も家族を連れて、東京、バンクーバー、シンガポールと生活の場を変えてきましたが、移住の度ごとに「ラーメン$20はボリすぎでしょ」とか「教育費かかりすぎじゃないか」とか、ちょっとした生活の前提の違いをひしひしと感じてきました。そうした中で、純粋にすべてを比較して、どこに住むのが人生を最も豊かにするのかな、、、ということをよく考えます。一つの指標として、世界の都市総合力ランキング(GPCI5)というものがあり、3つの都市をこんな形で分類してくれています。

数字は世界主要40都市を比較した順位になっています。

数字は世界主要40都市を比較した順位になっています。

こうしてみると、、、東京って本当にバランスがいいんですよねえ。。。居住・環境・交通など生活者視点だとまだまだなところもありますが、とにかく全部にわたって高水準。シンガポールは悪名高い(というか費用対効果の悪い。サンフランシスコも次いで32位)居住環境以外はほとんど言うことなしな状態。総合力でいくとロンドン、ニューヨーク、パリに次いで4位の東京、5位のシンガポールというランキングになっています。トロント16位、バンクーバー20位は、経済系指標がどうしても他都市と見劣りがしておりますが、想像通り居住や環境としては世界トップクラス。「World’s Most Livable City Ranking」の常連ならではのポジショニングです。

敗者復活戦なしの徹底的なエリート教育
前回(No.24参照)みたように、この20年間シンガポールはうなぎのぼりの成長を見せています。なぜでしょうか。その一因が、世界一とも言われる教育水準、国を挙げての人材への資本集中投下でした。政府予算のなんと20%以上が教育費に割り当てられ(日本は約3.6%)、社会問題化すらしているほど濃密な競争環境に置かれます。小学校4年、中学卒業時、高校卒業時に能力選抜試験があり、毎回レベル分けが行われ、一度決められたコースは後からステップアップなしの一回勝負。敗者復活戦なしの競争は「熾烈」の一言で、10歳の第一選抜に向けて徹底的な詰め込み教育が行われます。塾通いは小学校低学年から常態化しています。

「小学校の時は凡庸でも、20歳くらいから天才的な才能を発揮する人材が生まれることも、低い確率だが、あると思う。でも大多数はそうはならない。小学校の時の成績とその人の脳力は相関している。シンガポールには大器晩成という例外的な人間に賭ける余裕はない」というのが有名なリー・クアン・ユーの言葉です。1962年のマレーシア連邦からの放逐など、歴史的背景・当時の状況をみればこの発言は理解できなくもないのですが、50年たってなお効率化優先文化はしっかりと現存しています。効率重視は専攻にすら影響を及ぼし、大半が理系&5割以上が工学部を選ぶという状態です。

そうした政府がまさに今我々のようなゲームづくりやクリエイティブ産業への梶切りを行っています。そもそも独立後に労働集約産業からの離脱を唱え、石油・半導体・化学などの高付加価値製造業へ70年代に大きく梶切りを行いました。90年代に入ってからは知識主導型産業としてバイオなどの領域に大きく踏み込み、21世紀に入ってからはクリエイティブ産業にその視線が集まっています。都度、その時代にあわせて大きく国民のスキルセットを政府の旗振りのもとで教育制度ごと柔軟に変えていきます。

もちろん歪みがないわけではなく、海外に出ていくエリート層の一部は子女をシンガポールの教育制度に組み込むことを嫌い、Brain Drainとして北米や欧州へ移住してしまうケースも少なくない。とはいえ、戦闘民族サイヤ人のようなエリートたちが、人々は「官僚」になっていくのです。ただ一言で官僚といってもこの国は政府と行政と民間が分かちがたく結びついており、まさに彼らが民間の一線級として産業を切り開く役割も担っているのです。ではそのエリートが織りなすスーパーな国づくり、次回のお楽しみにしていただければと思います。


atsuo-nakayama中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのシンガポール法人にて、新規事業立ちあげ中。昨年までバンクーバーにてモバイル開発スタジオを立ちあげ、モバイルゲームを複数リリース。”Pac-man 256″ でApple, Googleの2015 Best Gameを受賞。リクルートスタッフィング、DeNA、コンサルを経て現在 に至る。東大社会学修士、McGill大学MBA修了。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。