世界でゲーム屋三昧 #27

時は満ちた、VRゲーム市場の登場

2016年、記念すべき年。それはモバイル(携帯)が世界最大のゲームプラットフォームになったのです。しかし、えてして成長市場というものは「成長市場」と認知された時点で、すでに過当競争であり、かつピークを迎えていることが多いです。もちろんモバイルゲームも例外ではありません。1年間に10万社(もしくは個人)が15万本ものゲームを出しており(毎日500本ずつ新しいゲームが加わっているようなもの!!)、 その85%が年間100万円も稼げていない状態です。つまり損をしている。かたや上位20社が市場の8割($24B程度)を独占してしまっており、残りの$6Bを10万社で分け合っているような状況なのです。民主的でオープンすぎる市場というものは、衆愚政治と同じで危険なバトルロワイヤル状態みたいなもの。すでに成熟化したモバイル市場から撤退や、家庭用への原点回帰する企業も少なくありません。

そんなゲーム業界、「モバイルの次」を希求してやみません。まさにそこにバッチリとはまり込んだものがVirtual Reality、通称VR市場です。
bandai_namco_160601
図1のようなものをみたことがありませんか?Head Mount Display(HMD)といって、頭にバンドで固定して、真っ暗にしてヘッドフォンをつけながら、映画館のように「入りこむ」ものです。もうゲームというよりはTVや映画に近いかもしれません。構想としては決して新しいものではなく、HMD自体は半世紀前に開発され、(覚えている方は覚えていると思いますが)任天堂が20年前に「バーチャルボーイ」としてVRゲーム機を発売した時代もありました。しかし、長年商業化に失敗してきた「未来の技術」として、捨て置かれてきたのが現実です。

 それもそのはず、VRのHMDは360度見回して色々な角度で映像が楽しめるというもの。「見回せる」ということは見ていないところもしっかり動いてデータが用意されている必要があり、とにかく「重い」。画質をずいぶん落としても20分の動画で4GBと、映画の5〜6倍は「重い」。これを無線で落とすのに何時間かかり、しかもそれ一個で携帯のメモリ容量をどれほど占領してしまうか。VRは開発技術、通信速度、通信量・メモリ容量、画像処理、すべてに高度な技術・インフラが要求されます。

 そんな未来に先送りされ続けてきたVRが一躍脚光が集まったのは、ほんとうにここ最近のこと。Facebookが$2Bでこの技術のベンチャーを2014年に買収したのを皮切りに、Samsung、Google、 Intel、 Apple、Microsoftなど世界大手が続々とこの事業に乗り出します。その後たったの2年間で$3.5B(約4兆円)の投資が集まります。その先駆けを担ったGoogleは、14年にGoogle Cardboardといって「段ボールで出来たゴーグル」を$20程度で配布し、今日に至るまで世界中で200万台以上が配布されています。家庭用ゲームが2年間で約4000万台(Wii)、1500万台(360)売れたことと比べると、まだ小さいですが、それでもまずまずの数字ではあります(先述のバーチャルボーイは77万台でした)。 

 そして2016年、「VR元年」を迎えています。Samsung($99, 15年12月)にはじまり、Oculus($599, 16年3月)、Sony($399, 16年10月)、HTC Vive($799, 未定)と続々と図1のようなHMD型のプラットフォームがリリースされ、各々に100本といった単位でゲームが集まっています。業界人にとっては「あの10年前からはじまったモバイル市場の快進撃をもう一度」なのです。70年代アーケードゲーム、80年代家庭用ゲーム、90年代PC、00年代モバイルときて、この16年から始まるVRへの期待がこれでもかというくらいに高まっています。ゲーム業界全体の市場規模をみれば(図2)、2007年から始まるiPhoneが切り開き、10年ごろから急激に伸びたモバイル市場がいかに大きなインパクトを与えたか、そして16年からのVRにどのくらい期待が膨らんでいるかが想像できるかと思います。

それでもVRはモバイルのようにはうまく普及しません。前述のデータやインフラに関わる技術的問題。そして何より、人々がそれを取り入れていくだけの感性的な付加価値を、いまだ顕示できていない状態です。もともと携帯通話というコミュニケーションから発生し、Webの世界の整備とともに徐々に普及し、アプリ開発によって13年から大きく花開いたモバイルの市場は「ゲームのための市場」ではなく、「日常に不可欠なデバイスに、たまたまゲームが巡り合った」に過ぎません。ゲームがしたいからデバイスを買う、という家庭用の時代は数千万台が限界。通話も決済もすべてができる、で広がったモバイルの10億台とは2桁異なります。LINEがそうであるようにコミュニケーション需要のサブメディアとしてゲームがあるに過ぎないのです。また、例えばPS2がDVD視聴需要を取り込んで成功したように、安価で既存の提供価値をリプレイスすることも、また一つの攻め手でしょう。
bandai_namco_160602

いずれにせよ、新しい遊び方を普及させていくには「圧倒的に違う体験を、これまでの習慣を変えずに、わかりやすい形で、安い価格で提供できるか」という、ひじょーに我儘な都合のよい需要にジャストフィットする必要があります。iPhoneの前にiPadが開発されていた話はよく使われる事例ですが、PCという盤石な市場がある中でiPadは容易にその市場には食い込めません。技術的にも2000年前後の当時は優位性を築くこと自体が不可能でした。そこで入りやすいモバイルの世界にAppleはシフトし、iPhoneを先に普及させてiTunesを一般的なものにしてから、そのスイッチングコストを考慮してiPadに自然推移させることでPCをリプレイスしていったのがジョブスの戦略でした。

そうしたユーザーと歩調をあわせた浸透、という意味でいくと、VRはあまりに不利なポジションにあります。体験自体は斬新でも、価格は高く、技術的なわかりづらさもあり、かつ周りがみえないHMDに覆われた奇妙な姿は、消費習慣を大きく覆してしまうものです。よほど「それを身に着けなければいけない理由・場所・状況」とセットでなければ、普通のユーザーは嫌がります。その意味でいえばモバイルよりも「ゲームセンターのアーケードゲーム」「PCのMMOゲーム」など1人もしくは半クローズな空間で行う消費行動のほうがマッチしているでしょうし、非ゲームでいえば「映画」または「住居探し」「旅行先の検討」「車の試乗」といった領域のほうが随分と親和性は高いでしょう。過去ゲームというものはハードウェアでも2〜3万円、ソフトウェアでは5000円といった価値が20年以上にわたって値崩れのない、非常にDeflation Proofな市場でした。逆に言えば、ゲーム単体でどれほど価値が向上しても、それ以上の価格を払う理由づけにはなりません。ストレス解消という機能一点では、ここらへんが支払限界だと思われます。モバイルのアイテム課金のように、コレクションベースで個々の消費行動にあわせて課金額を変動させる仕組みもVRには向いていません。なぜに没入感がウリのVRに、プロモーション頻度と売上が連動するような小売系課金形式を組み込むと、その本質的な体験の価値そのものを著しく下げてしまいますから。

上記を踏まえるとVR市場普及のカギをにぎるのはゲームではなく、ゲーム以外の提供価値だと思われます。ただ、今回のように業界全体の流れを追うのでなく、一企業はこの「最先端」の市場に対してどう取り組んでいくべきでしょうか。個人的には、過去の流行トレンドに欠かせないポイントをたどることで、ある程度予測できるな、というのは感じます。その内容は、、、次回を乞うご期待。


atsuo-nakayama中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのシンガポール法人にて、新規事業立ちあげ中。昨年までバンクーバーにてモバイル開発スタジオを立ちあげ、モバイルゲームを複数リリース。”Pac-man 256″ でApple, Googleの2015 Best Gameを受賞。リクルートスタッフィング、DeNA、コンサルを経て現在 に至る。東大社会学修士、McGill大学MBA修了。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。