カナダでゲーム屋三昧 #22

エネルギー革命

エネルギー革命の未来
「データ資源は未来の石油。水である」、アリババ会長のジャック・マーの言葉です。21世紀に入り、ビッグデータが世間を賑わしています。Amazonは購入履歴をみながら、同じタイプの購入履歴をもつ他ユーザーのデータ分析によって、個々が好みそうな「次の本」を抽出し、レコメンドする。Facebookは年齢・性別のみならず、個人の嗜好性も日常的に分析し、「Pac-manが好きな人に対する広告」といった従来の手法では不可能であった細かい領域にまで入りこんだ広告を可能にしている。

これまで出来なかったことが出来るようになった理由は「日常的にデータがとれて(モバイル)、その膨大なデータ量を保存でき(クラウド)、それを自動的に分析し(ビッグデータ&機械学習)、サービスを恒久的に改善し続けることができる」という複数の発明が組み合わさったことにあります。また、この発明の対象がPCや携帯でポチポチ押している行動履歴だけでなく、センサー技術の進化によって顔色や感情、動きを読むことが可能になり、実際の「行動履歴」という物理的なものにまで広がってきた、というところにポテンシャルの広がりを感じます。

さて、我々の先に開かれている未来とはどんな世界なのでしょうか。ちょっと話を200年くらいとばします。人口が10億人に達したのは1804年。そこから10億人増えるのに123年(1927)かかっている。次の10億人には33年(1960)、そして14年(1974)、13年(1987)、12年(1999)、12年(2011)で70億人を突破したところです。だんだんペースは落ち、ピークを超えて、今後は「資源が維持可能なレベルでの緩やかな増え方」にシフトしていく見込みです。そうした中、今、地球をベースで考えた時に、人間にとって今後最も希少となるものは「エネルギー」です。そこに間違いなく次の産業の勝機があります。

石炭が生み出した産業革命
思えばヒトの歴史はエネルギーと、その生産性との闘いでした。ローマの奴隷ではないですが、最初は人間そのもの、その筋肉を使ったパワーが唯一のエネルギー源でした。そして社会の進歩とはヒトから木材、木材から牛馬、牛馬から水車・風車、水車・風車から化石燃料という具合に、エネルギー源のシフトと同義です。そして、歴史上の文明の多くは、そのエネルギー切れが原因で破たんをきたしています。森林伐採による砂漠化や農耕地・牧草地不足。どんどん成長しても、常に土地や自然環境の物量の限界で頭打ちになり、人口増加がストップする。マルサスの人口論よろしく、「土地を増やせないと食糧が得られない、土地を増やすには戦争、戦争すると人が減る」と土地や生産性に限界がある限り、人口は10億人を超えない、必ず成長にガラスの天井が敷かれている状態でした。

この数百万年越しのルールが破られたのは石炭という爆発的なエネルギー源の発明です。19世紀から突然人口は、土地の制約なしに爆発的に増えます。その最先鋒となったのがイギリスです。世界で12億人しかいないこの時代に、なぜ3000万人程度しかいない小さな島国のイギリスが世界の覇権をとれたのか。それもそのはず、1870年段階でのイギリスの石炭燃焼から生み出されたエネルギー量は、8.5億人分の労働者に値します。つまり世界の2/3の人口に値するエネルギーを3000万人が独占していたのです。当時のイギリス人は1人あたりに常に20人の奴隷がついているようなもので、豊かな暮らしを可能としました(ちなみに現代の我々の生活は1人あたりおよそ1000人分の労働力を消費している換算になります)。これまでの歴史の論理に準ずれば、こうした魔法の石であっても収穫逓減や価格上昇によって頭打ちとなりますが、その採掘技術からエネルギーを成長ドライバーに変える産業基盤の成熟によって、人類は栄華の時を迎えます。

では石炭・石油があるから人類は安泰なのでしょうか?1人2000Kcalがあれば生きられるはずなのに、10万年前に狩猟民族として5000Kcalを消費していた人類は、高度な農耕を始める15世紀に2.5Kcal、19世紀の産業革命時に7Kcal、20世紀後半には30Kcalと、加速度的にエネルギーを消費する存在になっています。ただ忘れてはならないのは石炭や石油、天然ガスといった天然資源もまた、長い歴史で太陽光などの自然エネルギーを消費して蓄積されたエネルギーの固まりに過ぎないこと。無限に消費し続けることなどありえないということ。

もちろん「石油は2000年にはなくなる」といった警鐘が鳴らされてきた石油ショックの時代に比べ、エネルギーの効率はあがり、天然ガスや原子力といった様々な代替手段なども生まれてきました。まだまだ成長ドライバーは機能しているし、いまだ地球は70億人を養える状態を維持しています。

スマートエネルギーの時代
そして話は戻ります。21世紀のネットワークテクノロジーの果たした役割は、まさにこうした19世紀・20世紀でガンガンに炊き上げられ消費されてきたエネルギーを「賢く使う」という方向性の変化です。現代において、エネルギーはどれくらい効率的に使われているか…といったときに、実はいまの自動車のガソリンは86%がアイドリングや動いていない時間(自家用車を「使っていない」時間は平均96%、24時間あったら平均1日1時間弱しか動かしていません。ほとんど止まっています)に消耗しています。我々の2世紀にわたる成長は、潤沢なエネルギー資源の発見によって、こうした無駄の多い粗い消費行動によって積み上げられてきたのです。

このように、「エネルギーの変換率はかなり悪い」のに、石油・石炭といった歴史的に蓄積されたエネルギー源に頼ることで我々は成長してきたのです。ちょうど前回ピックアップした話題のAirbnbは「使っていない自分の部屋」の貸し出し、昨年書いたUberは「使っていない時間の自分の車」の貸し出し。そもそもEmailから電話から情報通信産業がうみだした価値は「その人に会いに行く移動時間の短縮化」という省エネです。こうした技術のスマート化による無駄の可視化、社会の効率化によって、実は「時間という最も希少な資源の解放」が行われるわけです。

例えば、人間が私生活で一番使っているエネルギーの向け先は「住宅」と「車」です。そこにエネルギーの効率化が行われた場合、我々の所得はどうなるでしょうか?

■可処分所得の利用割合

Stefan Hack& Matt Rogers, “Resource Revolution”, 2014

Stefan Hack& Matt Rogers, “Resource Revolution”, 2014

なかなかアクロバティックな予測にはなっていますが、なんと現在消費しているお金の3割方が浮く計算なのです。15年後の世界において、予想されるのは「30%の余剰所得」です。すなわち、こうしたエネルギー革命によって、「交通・移動」と「住居」にかかっていた費用が圧縮されることが予想されているのです。そうなった場合、何が大きく変わるのか。日本でいえば年間300万円の可処分所得。100万円が住居、50万円が交通・移動、40万円が食に使われています。この費用が15年後にはそれぞれ60万円、15万円、30万円まで減ります。捻出されるのは「新しく使える100万円」なのです。これは費用でもあり、時間でもあります。

いまの状況は19世紀によく似ています。エジソンによって電球が発明された時、人の可処分時間は急激に増えました。いままでは何もできなかった「夜」という時間がそのままガラッと生産時間・消費時間として生まれたのです。電気の普及による人の生活変化は語るに枚挙に暇がありません。今我々が使っているお金・時間に3割の空きが出来たら、その時、人間はどんな生活行動をして、どんな消費性向を見せるのか。そうしたことは夢物語のようでいて、実はつい目の前の距離まで迫っているのかもしれません。

人の生活は19世紀に激変し、20世紀は実はそれほどダイナミックには変わっていません。ただ、21世紀は…違います。そこには鉄道や蒸気機関や電気といったものが切り開いた革命的な変化が待っているはずです。本当に面白い時代に生まれたな…と思います。


nakamura-atsuo中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのバンクーバー法人にて、欧米向けモバイルゲームの開発スタジオ責任者。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 に至る。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)、他寄稿論文・講演なども行っている。