第5回カナダ・マネジメントセミナー

Deloitte. & トロント日本商工会 共催 第五回カナダ・マネジメントセミナー 「在加日系企業における人材マネジメント」を開催

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6月9日、今年で第5回目となるトロント日本商工会とデロイト共催のビジネス・マネジメントセミナーが開催された。
第一部は、「ヒューマン・キャピタルの最新トレンドとカナダで求められる人財活用の施策」をテーマとし、デロイトカナダのシニアマネージャを務めるCarolyn Lawrenceさんを講師に迎え、セミナー形式で進められ、モデレーターとして同社の烏田朝美さんが重要ポイントを日本語で補足した。当該セミナーでは、デロイトが毎年実施している、ヒューマン・キャピタルの課題に関する継続的な調査としては世界最大級と評価される“Human Capital Trends 2016”の調査結果をベースとし、グローバル規模における人材、人事の課題から主に日本とカナダの特徴を比較して解説が為された。グローバル・日本では組織デザインの変革が最も重要な課題とされている一方、カナダでは、社員の会社に対するエンゲージメントの向上を最優先の課題とする特徴的な動向が興味深い。これは、カナダがHRのデジタル化に後れを取っていることから、多様化する働き方・雇用形態・職務環境に対応できておらず、社員のニーズを正しく理解することが第一の課題と認識されている為のようだ。テクノロジーの進化が人々の生活・働き方を急速に変え始めている昨今、グローバルレベルで企業側もいかにこれらの変化に迅速に対応し、従来の体制から変革していくかが急務とされる中、世界のトレンドからOut of Sync.なカナダでは、より早急な見直しが求められているといった問題提起に多くの参加者たちが熱心に耳を傾けた。
第二部では、規模や業界の異なる3社からゲストを迎え、「カナダにおける人材活用の課題・対処法」をテーマにパネルディスカッションが行われた。ゲストスピーカーはMitsui&Co.(Canada)Ltd. President&C.E.O.の丸岡利彰さん、Weins Canada Inc. Presidentの宮原漢二さん、Torys LLP PartnerのDon Bellさんの3名で、ファシリテータをデロイトの福岡宏之さん、山岸康徳さんが務めた。経験豊富な日本人トップマネジメント2人からの視点、そして日系企業を多く顧客に持つカナダ人の視点から、カナダにおける人事の課題や職場における日本人とカナダ人とのコミュニケーションなどについて、参加者の多くが日々直面する話題を中心にディスカッションは進められた。

従業員の評価と昇格について
在加日系企業にとって、カナダ人従業員の評価は避けて通れない部分かと思います。皆さんは評価の際にどのような対応をされていますか?

丸岡さん:評価する側の立場として最も意識している事柄は説明責任、そして評価の座標軸をずらさない、ということです。この点は駐在をしてきた米国、そして現在のカナダに限らず日本でも同じように意識しています。評価をすれば当然、被評価者から疑問をぶつけられることもあるので、評価者として論理的に自信を持ってなぜその評価となったか説明することが必要です。また、弊社ではフィードバック面接を実施していますが、日本と比べてアメリカ、カナダでは被評価者から積極的に意見が出されますので、説明責任については特に意識するようにしています。もう1つ重要な点だと考えているのは好き嫌い評価をしない、という点です。人間誰しも好き嫌いはあるものですが、評価の際には自分の意思を排除し、被評価者の目標設定がどれだけ果たされたか、その点を冷静に判断するようにしています。ですから、評価面接はもちろん大事ですが、目標設定時に議論を尽くしておくことが重要です。また、昇格についてはポストがないと昇格させられない、という問題点がどこの組織にもあるかと思いますが、特別ルールを使ってしまうと後々問題があると考えている為、特別ポストを作るという考え方は基本的にありません。悩ましい点ですね。

Donさん:弊所の評価プロセスでは、被評価者の直接の上司だけではなく関係する全ての上司、同僚、部下からの評価を含めて総合的な評価レポートが作成されます。この点は日系企業と大きく違う点かもしれません。また、昇格については必要な資格を満たしている者にのみ機会が与えられることになっていますが、報酬については実績と密に繋がっているという考え方(pay for performance)を採用しており、実績が出ていなければ報酬も上がりません。
また、弊所の話とは逸れますが、私が実際に聞いたことのある話では、アメリカやカナダの企業と比べて日系企業では業務で実績を残しても評価に大きな差が出ず、報酬にも反映されにくいことを不満に感じている人もいるようです。

宮原さん:弊社は営業の会社ですので、定量的な評価については比較的わかりやすいこともあり、あまり不満が出ることはありません。それ以外の定性的な評価の際に最も意識しているのは、「曖昧さ」を取り除くことです。評価している点、問題のある点を如何に明確にしておくか、ということを評価者にしっかりと意識してもらっています。また、公式の評価以外の場でも評価者と被評価者が議論になった場合は全て書面で内容を残すようにしています。両者の考え方に齟齬がある場合でも、お互いがどのような考え方であったのか、という記録を残すことは意味があると考えているからです。また昇格については、なるべく社内から人材育成をして管理職を輩出していくという考え方を明確に表しています。その考え方を前面に打ち出しているのは、弊社の哲学や考え方を理解してくれる従業員が残るような仕組みとしての意味合いもあります。
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従業員とのコミュニケーションについて
従業員との日ごろのコミュニケーションは非常に大事かと思いますが、皆さんが気をつけている点などありますか?

Donさん:カナダ人視点から、従業員とのコミュニケーションについて気をつけられることをお話ししたいと思います。1点目は、フィードバックをすぐに要求する若者が増えてきている、ということです。自身のパフォーマンスはどうだったのかすぐに知りたがり、中々評価がわからないと不満に思うこともあるようです。フィードバックを与えること自体はお金も時間も余りかかりませんので、そういった若者が多い傾向にある、ということを意識しておくと良いかもしれません。2点目は、部下に対して話す際の態度です。例えば何か仕事を依頼する際にも、命令形の表現だと気になる者もいるようです。単にThank you.やPleaseをつけるだけでもかなり効果的です。3点目も比較的若者に多いようですが、自身の業務が組織全体の戦略にどのように繋がっているのかを知りたがる者が増えているようです。依頼された業務の内容説明だけではなく、それが組織全体にどう関わっていくのか、説明を求められる場合があるかもしれません。最後は、カナダの人権法について理解しておく必要がある、ということです。日系企業がカナダの人権法を深く意識せずにトラブルになるケースもあるようですし、特に人権法で問題とされる行為は対象が拡がることもあるので、常に敏感である必要があります。また、英語でのコミュニケーションにおいて、特に従業員に注意をする際に気をつけて欲しいのは、個人に対してではなく、仕事の内容や結果に絞った内容で話をするという点です。個人に対する表現になってしまうと中傷のように受け取られてしまう場合があります。

丸岡さん:私は日本人代表としてお話しさせていただきますが…皆さん、臆せず英語で会話して欲しいと思います。我々はこの地では外国人ですから、流暢に英語を話せなくても仕方のないことです。しかしそこで日本語が通じる人とだけ話をしていては、特定の人としかコミュニケーションをとらないことになります。そうならないためには、多少下手でもどんどん英語で会話をすることだと思います。さらに大事だと考えているのは、部下を注意しなければならない場面で大きい声は出さない、ということ。こちらの英語環境の中で大声を出して怒ってしまうと、少しおかしな空気になってしまいます。怒った時にこそ冷静になって、できるだけロジカルに話をするようにしています。

宮原さん:期待しているから厳しく注意する、といった考え方は、こちらでは中々理解されにくいかもしれません。私自身、従業員に指導をする際は、最後にどう相手の気持ちを持ち上げるか、ということを事前に時間をかけて考えてから話をするようにしています。また、丸岡さんのお話にもありましたが、大声は出さないということに加えてボディランゲージも極力抑えるよう心がけています。また、叱る場面と褒める場面を明確に分け、日々の業務で従業員の気持ちを如何に乗せていくか、という点は非常に重要ですので、小さなことでも褒める点、評価をする点を意識して見つけるようにしています。

人事関係での課題や苦労している点について
皆さんそれぞれ置かれている立場や状況は異なると思いますが、苦労している点、苦労された点はありますか?

宮原さん:実は弊社では、突然、労働組合の立ち上げの話が出たことがあります。結果的に組合は結成されませんでしたが、全く予期せぬ形でしたので本当に大変でした。その際に非常に興味深かったのは、「何が一番問題だったのか」を突き詰めていったところ、私自身が考えていた給与や福利厚生の面ではなく、コミュニケーションがうまくいっていなかったことに一つの要因があったようです。部下にとっては、自分を知っている直属の上司が業務上の疑問等に答えてくれることが大事だ、ということを痛感する出来事でした。それ以降、管理職一人ひとりが人事としての役割を担っていることを意識できるように見直しを進めています。

丸岡さん:情報が中々上がってこないことです。私は去年4月に着任してからオープンドアポリシーを続けていたり、会議でもバッドニュースファースト、と常々話しております。その上で、欲しい情報は自分で取りに行く、というのが私の方法です。
また、皆さんもお悩みかと思いますが、大事に育ててきた人材が突然辞めてしまう、ということもあるかと思います。弊社でもそのような件で悩むマネージャーが多いのですが、これは仕方がないことで、育てた結果、市場で売れる存在となってしまった、ということだと解釈するようにしています。常に起こり得ることですので、弊社では若手そして中堅の人材育成は絶え間ない責務であると考えています。

Donさん:日系企業が北米企業に投資をしたり、買収したりする件を担当することが多いのですが、多くの日系企業が苦労しているのが「PMI(Post Merger Integration)」と呼ばれる買収後の統合プロセスです。日系企業は買収前には慎重に準備を進めますが、統合プロセスに関しては外部の意見をあまり取り入れない傾向が見受けられます。PMIの専門家のアドバイスを取り入れ、各階層の従業員とも話し合いながら、今後どのように親会社のポリシーを取り入れていくか、という点は時間をかけてケアをするべきだと思います。結果としてどのような導入の仕方になったとしても、その過程に従業員が参加したのとしていないのとでは受け取り方が全く違ってくるからです。
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第一部のセミナーでは、ヒューマンリソースの最新トレンドについて知識を深めると共に、第二部のパネルディスカッションでは、参加者にとっても身近で重要なテーマについて各業界の生の声を多く聞くことのできる非常に充実した内容となった。業界は違えど、カナダ市場において抱える問題は似通った点も多い日系企業同士、さらなる深い繋がりが生まれる良い機会となった。

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