世界でエンタメ三昧 #31 エンタメ経営論:適度に負けられる経営力

エンタメ経営論:適度に負けられる経営力

足し算のW型経営と掛け算のG型経営

今日はちょっと難しい話をします。会社経営が「労働集約的(人をかけて売上を広げる)のW型」と「資本集約的(お金をかけて売上を広げる)のG型」でずいぶんと違う、という話。僕自身、過去5社の事業を経験してきたのですが
・リクルート(派遣)、デロイト(コンサル)、バンダイナムコ(ゲーム開発)-W型
・DeNA(ゲームプラットフォーム)、Bushiroad(キャラクター・TCGほか)-G型
で、自分の動き方も頭の使い方も随分と変えてきました。

まず明確な違いが「何に一番投資をするか」です。労働集約のW型は当然「人件費」、高給でよい人材を雇うか、人数を増やすか、とにかく「事業をまわす人」に投資します。逆に資本集約のG型は機械設備やインフラなど人以外への投資が一般的ですが、エンタメ業界だと圧倒的に「広告宣伝費」です。ユーザーを集めて、見てもらうための「場づくり」に投資します。

まず人件費にどのくらいかけるのか。売上高の人件費割合は、だいたい業界で分類できます。コンサル・人材・病院など形のないサービス自体が商品だと50〜60%(いわゆる典型的なW型)、飲食店で30〜40%、薬局・アパレル・酒屋などの小売や広告業・卸売で10〜20%といったところ。G型事業は10%を切ります。W型の売上高人件費50%というのは、シンプルにいうと年収500万円の人に、年間1000万円稼いでもらわないとまわらない事業ということです(本来は管理費等入れるので2000万円くらいだと思いますが)。逆にG型は 1人が1~2億円。そうすると仕事のやり方も随分違います。

W型事業は「誰にいくら賭けて、その人にどのくらいパフォーマンスをあげてもらうか」というヒト事ばかりが気になる事業で、自然とマネジメントも細かく、行動KPIで管理していくことになります。営業は新規案件の獲得額、コンサルやゲーム開発は顧客に料金を請求できる稼働率・日数。スーパー営業マンでも成果は1.5倍くらいなので、2:6:2の法則でいうと圧倒的に6割の中間層のパフォーマンスを上げることに集中をしていた「足し算型経営」です。自分が当時注力していたのは指標化とモニタリング、個々人の気づきを促すマネジメントです。

逆にいまだに型が見えず苦戦しているG型です。図1で「ゲームパブリッシャー」だけが、人件費と売上に相関がみられません。大ヒットによる売上急増の後に、追随して人材を増やして最初2年はわりと右肩あがりですが、市場の潮目がかわると人件費を増やしてもむしろ売上は落ち、1年遅れてあわてて人件費を圧縮する、という状態。指標が読みづらく、とりあえず色々やってみるしかなく、突然掛け算のように化学反応で売上が爆発します。その成果もヒト単位で分けづらく、ヒト事よりモノ事ばかりにフォーカスしがち。管理というよりも個々人の経験と自由な動きにゆだねるしかない局面が多いです。自然と、優秀層の上位2割ばかりに目がいきがちで、マネジャーの役割って何なんだろう、、、と思うこともしばしば。ここでは自分は、競合分析と仮説構築、パートナーづくり、プロジェクト構築、エース級人材のハンティングといったことにマネジメントの力点がありました。

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G型からW型を抽出する「経営力」

W型よりもG型が経営として「良い」と思われるかもしれません。だって人を採用・育成しなくても利益があがるんですから。ただそれは結果論です。G型はトップと中小の差が激しく、ゼロイチ勝負の世界です。ここでは「1勝9敗」でも勝てる世界が広がっており、ベンチャー企業の綱渡り感が強く、本当に経営者の心臓に悪い事業です。逆にW型は人手を集めればそれなりに売上もたちますし、日銭は稼げます。人がいる分、毎月じりじりと資金繰りがあるので真綿で首絞められる感もそれはそれでありますが。

問題はここからです。W型は運営型、G型は投機型、違う能力を求められているんだ!、という単純なことではないのです。統計的誤差があらわれやすいG型事業のなかで、いかにW型で「型となるシステム」を抽出できるか、ということはG型でも変わらず模索する必要があるのです。

ゲームやアニメ・映画といった創造性産業やコンサル産業について、僕は昔から「頭をつかって、凄い人がすごいことを思いつき、ヒットすれば100倍になって返ってくる」みたいなイメージでみてました。でもそんなもの、意図的に起こせるものではない、意図せざる偶然に頼った経営など経営ではない、ということに気づきました。本来経営とは、凡人を率いて十分な成果を「継続的に」収めるための技法であり、こうした創造的にみえる産業も「一部のG型からW型の部分を意図的に切り出し、『偶然を計画的に作り出す』仕組みを整える」ことが本来の経営というものではないではないか、と最近感じています。

コンサルでもいわゆる「戦略」と呼ばれる領域は長持ちしません。新領域における知識や発見のクオリティというのは属人性が高くて安定せず、企業の永続的なニーズではないのです。そうした花形事業はブランディングや既存事業の再構築のために儲からなくてもやる意義はあるのですが、企業体としての本当の屋台骨は「システム」「業務設計」など、経験の応用可能性が高く、センスより習熟がモノを言う「W型的コンサル作業」です。ゲーム開発においても同じ。創造的なゲームデザイン作業はほんの一部で、基本的にはパターンの応用と、難易度別にわけたゲームパーツを個々人の「作業」で完成へと導く開発工程管理にこそノウハウがあります。映画もそう。アニメもそう。経営とは人々を「創造性という魔術世界」で路頭に迷わせないため、業務へのインサイトを示すことなのです。

それはゲン担ぎでも、毎朝の習慣でも、何らか「どんな状態になっても自分が継続的に続けているアイデンティティ」みたいなものがあるかどうか、が組織としての永続性を担保するのだと感じます。

勝ちすぎず、自分のフォームを守る

阿佐田哲也(坊や哲)の通り名で有名な相場師色川武大は、その投資哲学において各界に大きな影響を与えてきた人です。彼が言うには、恐れるべきは全勝している人ではなく、9勝6敗くらいの人。結局プロは相場のような魑魅魍魎の世界で、統計的誤差により突然大勝ちすることがあります。そうした時にプロは何をするか。「適当な負け星を引き込む」のです。あえて負けます。え?なんで??と思いますよね。でも大勝ちの最大のリスクは「大勝は大敗を招く」、実力でなく運で食っているときに人は自分の勝ちパターンを忘れ、その大勝を引き込んだフォームを崩してしまう。これはまさに僕がモバイル業界で5年間みてきた紆余曲折にぴたりとはまりました。2009〜10年DeNA、11〜12年GREE、13〜14年GungHo、15〜16年Mixi、この業界の最大手で2年ごとに入れ替わってきました。そしてその入れ替わりを誘発するのは、まさにこの絶対的すぎる勝者が陥る罠なのです。

具体的に言うと、身の丈にあわない広宣費投資。上場企業の平均広宣費は3.5%ですが、DeNAは好調時には人件費は4%で広告宣伝費10%くらいでした。他のモバイル系をみるとその数字はさらに大きく、人件費は5~10%、広宣費を10~20%くらい(時には30%をかけている企業もありました)。もちろん額だけでいえば、顧客単価の高いトヨタ・日産などの自動車やソニー・パナソニックなどの消費財の年間1000億円以上もの広告費には負けますが、彼らは規模こそ大きいが売上比で3〜5%。2012~14年あたりの上場企業の対売上広宣比は軒並み20%以上のMobile企業が目につきました。

もちろんそれは必要な投資ですが、任天堂・ソニーといったコンソールの母体に依存してきたゲーム開発会社が我先にと広告宣伝にお金をつっこみ、ガバガバとマスCMを買いあさる様は「フォームを崩している」ようにしか思えませんでした。W型は人が資産、開発者の創造性に最大限に注力すべきところを、急激に儲かるモバイルゲーム事業によって、その本質的なところが崩れている開発会社もいくつかありました。そして、何より自分が懸念したのは「業界的にバラバラに、それでも同じような動きをとり、業界全体のエコシステムが空回りしている状態」が続いたことです。人のマネジメントに優れた開発会社はパブリッシュ・広告宣伝をパートナーに依存し、人件費の効率化に努めるべき。パブリッシャーになる企業は、複数タイトルを使った広宣費の最適化に注力し、ユーザーを集める顔役にならんと注力すべき。いまようやく二極化が叫ばれていますが、正直ようやく本来あるべき姿に機能分化してきたかな、、、と感じます。

G型⇔W型、サラリーマン伝統企業⇔新興オーナー企業、と渡り歩いてきた今、それだからこそ見える経営のプロセスの違いを楽しんでいます。そして急上昇して頭打ちになったところで「9勝6敗でも勝ち続けている企業」が複数社、目に見えて存在感を示してくる時代になりました。あえて言及するのであれば、サイバーエージェントグループと、古巣のバンダイナムコです。10年来の産業の新陳代謝のなかで、残るべくして残っている企業をみるにつけ、本当に事業というのは面白いものだなあと感じます。だいぶ専門性に偏った話でしたが、2017年もこうした与太話経営論にお付き合いいただければ幸甚です。



atsuo-nakayama中山 淳雄
Bushiroadシンガポール法人COOとして日本コンテンツの海外展開に取り組む。リクルートスタッフィング、DeNA、コンサルを経て、直近バンダイナムコスタジオでバンクーバー、シンガポール、マレーシアで会社設立・新規事業展開に携わり、現在 に至る。東大社会学修士、McGill大学MBA修了。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。