世界でエンタメ三昧 #37 ~アニメからみる動画配信市場~

~アニメからみる動画配信市場~

海外向けアニメ配信権販売バブル

前回に続き、アニメの主要ビジネスは、この5年ほどの間に「DVD」から「配信権販売」へと大きく動いています。80年代から何度か続いたアニメバブルですが、ここ最近のトレンドは海外の動画配信業者が高額でアニメの海外配信権を買うという「新しい資金の出し手」の登場によってもたらされました。この動画配信は、月500~1000円といった単位の定額サブスクリプション課金でネット回線を通じた動画見放題を提供するストリーミングサービスです。

SVOD(Subscription Video on Demand)やOTT(Over the Top)と呼ばれる領域で、このビジネスを世界中に浸透させた立役者となったのがNetflix。もともとはレンタルビデオショップだった同社が、動画配信をはじめること10年。いまや世界で1億人以上の有料ユーザーを抱え、年間1兆円に届かん勢いで配信権ビジネスが拡大しております。1億人が1人あたり年1万円払って形成される1兆円市場です。

なぜ米国を中心に動画配信が拡大しているかといえば、「前から払っていた額が安くなるので、乗り換えで市場が形成されている」という点に尽きます。ここ30年かけて国民の8割がケーブルテレビに加入して、月1万円以上も払ってきたのが米国市場。日本と全然違いますね。そこに「年間」1万円で見放題サービスが登場するのですから、アッという間に市場は塗り替わります。動画配信市場の伸びと、ケーブルチャンネル市場の減少は逆相関の関係にあります。そしてこの動画配信の主要テーマとなるのが映画、ドラマ、そしてアニメ。特に日本のコンテンツでいうと、映画やドラマはあまり売れておらず、アニメだけで海外向け配信販売の半分以上を占めているという状況。アニメは今映像としては最大の輸出コンテンツなのです。

アニメの配信権獲得に名乗りを上げるのは北米のプレイヤーだけではありません。もともと海賊版配信でアニメ人気が高まっていた中国でも、10年ほど前には一時的に政府規制によって締め付けられていたものの、ここ数年急激にブームを引き起こし、北米・中国のプレイヤーが入り乱れて配信権の獲得競争が始まっています。それは獲得に留まらず、制作にも入り込むアニメ委員会への出資という形でも表れています。

愛奇芸がGREEと一緒に『聖戦ケルベロス』に出資したり、また資本が潤沢な中国企業ならではですがHappyElementsの『アイドルメモリーズ』『あんさんぶるスターズ』、テンセントの『霊剣山』などは「単独」出資しています。負けじとNetflixはポリゴン・ピクチュアズと『亜人』を制作したり、住友商事と組んでアニメ委員会出資を展開するChruncyRollなど。こうした競争が配信権という名の「コンテンツの調達費」をどんどん引き上げているのです。

ここにバンダイナムコが中心となって海外向け配信に日本事業者として挑戦していったのがアニメコンソーシアムジャパン、Daisukiの事業者です。アニメの配信事業者は、そのコンテンツが日本のものでありながらChruncyRollやFuNimationなど米国事業者の独占領域でした。そこに日本の配信事業者として、各コンテンツホルダーからの出資を受けて配信展開をしています。最近だとサイバーエージェント・Cygamesがアニメ委員会出資の会社を設立したりと、上記のグローバル配信権獲得競争には日本の事業者も巻き込まれ、様々なプレイヤーが増えている状況です。

ChrunchyRollの近年のユーザー数の急増(図1)をみれば、アニメ動画視聴の増加も最近の傾向であることがわかります。2013年に25万人もいかない状態だったものが14年に50万人、16年には100万人の「有料会員」(月額US$6.95)に到達しています。動画配信自体が2010年代に隆盛しているところに、アニメという別軸でのブームが重なり、今アニメは歴史上一番高く売れている、といっても過言ではない状況。そうした中で、供給側のアニメ制作の数が増えているわけではないので、現在は「アニメ制作の順番待ち」が多数発生しています。2年待っても制作出来ない、といった状況に至っています。

便利すぎる日本市場、動画配信の遅れ

では日本はどうなのか…というと、実はなかなか状況が異なります。そもそもスカパー!やWOWOWといった有料衛星放送でも2-3百万人の契約しかなかった日本市場。ネットメディアのニコニコやルナルナ、クックパッドなども同規模での競争。地理的に緊密で近所にレンタルショップが併設される日本において、動画配信はそれほど現状の不便さを覆すものにはなっていません。また「動画を有料で定額視聴する」という文化そのものが、無料地上波が高品質で完備される日本ではマスに浸透していません。必要性を感じないほど便利すぎる状態が確立されてしまっているのです。

日本も実は配信の歴史自体は古いのです。2006年にはすでにワンセグでモバイル向けのTV放送を実現していました。これは伝送コストもなく、アクセス集中のネットワーク負荷もなく、権利処理も必要のない、理想的すぎるサービスでした。技術的には米国とほぼ変わらない時期に動画配信をはじめたのに…なぜ今になってここまでの差が開いたのでしょうか。それはスマホ化による技術の乗り換え失敗です。

当時フィーチャーフォンにチューナーが搭載された前提での機能であり、スマホ化のなかで「消えた」サービスになってしまったのです。ハードウェアのデファクト変更により、ソフト側の完璧な仕組化が塗り替えられる事態となり、残念ながら動画配信での日本のプラットフォーム構想は露と消えました。「視聴率によるTV広告市場」という既存のビジネスモデルが強固すぎたことも大きな一因でしょう。結局日本で動画配信が積極化したのは2014年、イギリスなどで見逃し配信してもリアルタイム視聴が棄損されないことが「実証された」のをみて着手した状況です。

そんな事情もあり、動画領域のネット化は著しく遅れています。コンテンツ市場のネット化率をみてみると(図2)、1-2兆円のゲーム市場はモバイル化によって急激に進んだ半面、4.4兆円のTV広告市場が大きすぎる動画についてはいまだ3%。着うた・着メロで通常の音楽市場とは異なる市場をフィーチャーフォン時代に切り開いていた1兆円超の音楽市場も(計測されていないライブのほうに急拡大していますが)、むしろネット化は退潮している傾向。つまり動画配信市場が急成長しているといっても、それはリプレイスすべき市場があった北米が中心であり、日本ではいまだ黎明の朝を迎えていない状況でもあるのです。

動画配信のビジネスの先に

こうした大きく遅れた状況において、日本勢の勝ち目というのはどういったところにあるのでしょうか。先述のように日本の事業者で固めて外資の参入を拒む、もしくは日本展開の総代理店になるというのは、他産業でもよく起こっている日本市場ならではの闘いでしょう。もしくはまだグローバル大手が手をつけられていない空白地帯(=途上国)を狙うというのもまた一つの手です。

iflixというマレーシア発の動画配信メディアは「Netflixが行き届かない国」にターゲットを絞り、ASEAN諸国やサウジアラビア、ヨルダン、イラク、クウェートにエジプト、スーダンなど見事に「先進国」を避けています。同じASEANでもシンガポールには出ていないという徹底ぶり。2014年設立から4年で500万人の有料会員を保有し、マレーシアでも実質Netflixの1/4程度の価格。単純計算で売上数十~100億円超といったところでしょうけれど、100円ショップのダイソーに対するワッツのような戦略をたてています(http://cpainvestor.com/?eid=285)。

また動画配信という機能自体が、一定期間ユーザーが離れないというところから「プラットフォーム」として別の収益手段へ派生させていく、というのも一つの常道でしょう。途上国向けであれば動画配信で必須の決済機能の付加価値はさらに高まります。最近ブシロードが出資したMobiClixというシンガポールのベンチャー企業があります。途上国中心ですが、世界で100万人以上もの定額課金ユーザーを保有するゲーム・動画のプラットフォーム企業であり、国の経済規模によって定額課金の幅を大きく変えています。またサブスクリプションの幅も月次ではなく週次課金です。今物凄い勢いで成長している企業であり、また別の機会で書いていきたいですが、すでに成長市場として顕在化してしまっている「動画配信」は、すでにその次を見据えるべき段階にきているな、と強く感じます。




atsuo-nakayama中山 淳雄
Bushiroadシンガポール法人COOとして日本コンテンツの海外展開に取り組む。リクルートスタッフィング、DeNA、コンサルを経て、直近バンダイナムコスタジオでバンクーバー、シンガポール、マレーシアで会社設立・新規事業展開に携わり、現在 に至る。東大社会学修士、McGill大学MBA修了。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。