何故カナダの不動産はこれほど上がったのか?

トロントとバンクーバーを中心に演じてきた不動産狂騒曲。今さらながらなぜ、こんなに上がったのか、そして今後もまだ上がるのか、考えてみたい。

okamoto170301
私が1992年、バンクーバーで不動産開発事業に着手した時、まだまだ不動産ブームの走りだった。1986年、バンクーバーで万博が開催された際、香港人にはバンクーバーやトロントが魅力的な都市に映った。それは97年の香港返還を控え、返還後の香港の行方が不透明なことから持てる資産を分散させようとしたこと、そしてできるなら資産だけではなく、家族ともどもいざとなれば逃げこめる場所を確保しておく必要があった。カナダがその条件を満たす絶好の国であったことは言うまでもない。

なぜ、香港人はそこまでして香港返還を恐れたのか、といえば1966年から10年ほど続いた中国文化大革命が人々にトラウマのように残っていたからであろう。毛沢東国家主席は資本主義文化の否定と新たなる国家体制樹立のため、多くの紅衛兵と呼ばれる青年活動家を介して知識人や地主、資本家を反革命分子と断じ、つるし上げ、さらし者にした。それらの全ての資産は一夜にして没収され、死者40万、被害者は1億人に上るとも言われる。中国人ですら思い出したくない暗黒の時代である。

同様に連想した台湾人にも資産分散化の動きが起き、カナダにも不動産取得資金が流れた。「一つの中国」か、否かのリスクである。

カナダの不動産はこれらアジアマネーを中心に不動産は活況期を迎える。その後、90年代後半にはアジア危機が起きるもののカナダドルの対米ドル安でアメリカ人のバーゲンハンターが大挙してカナダの不動産を買いあさる。

その次にカナダ国内でコンドミニアムが新たなるライフスタイルとして本格的に受け入れられ、完全なる市民権を得ていく。その間、年間20万人以上新規の移民が増えるカナダはその多くが一定の資産を持つか、専門的能力を持つ人材であることもあり、住宅の高い需要が継続する。

そして最後に起きたのが中国本土からのマネーブームである。このブームは厳密には二つのルートがある。一つは8000万人以上いる中国共産党党員が生み出したアングラマネーが資金洗浄の上、カナダの不動産に化けたことがある。ところが、習近平国家主席の粛清運動によりかなり厳しく淘汰された。その上、パナマ文書のリークで資金洗浄の実態が明らかになったことで更に動きにくくなった。

もう一つは中国本土の事業家のマネーである。共産主義というのは教義上、貧富の差は生まれないはずだが、実態は史上最大の貧富の差を作り上げたシステムだと言ってよい。そして富を持つ者は文化大革命のかすかなるトラウマもあり、堂々と資金が海外に渡り、不動産購入や会社買収という形で市場を席巻した。

しかし、このブームも2016年にあっさり沈静化する。理由は中国の外貨準備高の崩落があったからだ。一時期は4兆ドルあったとされるそのマネーは資金流出と中国元安でその現象に歯止めがかからず、今では3兆ドルまで減ってしまった。そのため、中国当局はあらゆる手段を使って外貨が外に出ないよう、規制を強化している。

例えば一般中国人はもはや年間5万ドルの外貨取得枠しか持たず、そのお金も不動産や短期的な投資や投機のための資金として使うことを禁じてしまった。罰則は3年間の両替禁止と監視という厳しいものである。

これが物語ることは何か、といえばカナダに流入する不動産マネーは急激に減少し、不動産の需給が悪化することであろう。

不動産開発は一般に計画から完成引き渡しまで4、5年から10年近くを要する事業であり「開発は止められない」という難点を持っている。よって昨年8月に15%の外国人課税を発表したBC州はこの中国マネーの変化を事前察知していなかったためにクスリが効きすぎ、取引件数の崩落となっている。今後、これは価格に転じてくるはずで10%程度の調整はやむを得ないだろう。

では新規取得は待てばよいのか、といえば答えはそう簡単ではない。バンクーバーの場合は産業がない一方、富裕な個人資産家層が不動産市場を形成しているため、高額不動産所有者の住宅ローンは少ない。つまり市場が安ければ売らないだけで金に困っているわけではない。よってバブルの崩壊のような事態は生じない。

トロントのようにビジネスオリエンテットの都市の場合、不動産はビジネス環境の好不況により変わる。幸いにしてトランプ大統領はオールドエコノミーと東部復権のビジネスを推進しそうなため、トロントには直接的に恩恵が来る。よって、こちらもさして心配するに値しないだろう。

カナダで最近バブルの崩壊を演じたのはカルガリーやエドモントンのような資源不況があった都市である。不動産は下支えするものがあるのかないのかによって市場の強さ、弱さはある程度推し量ることができるとも言えそうだ。

言い換えれば増える人口とビジネス、そしてマネーが集積するかどうかがそのキーだともいえる。不動産のバブルやその崩壊はある程度言い当てることすらできるだろう。中国の不動産バブルがなかなか崩壊しないのは人口の支えがあるからである。では最後にこれを日本に当てはめるとどうなるか、皆さんそれぞれ考えてみるとほぼ納得できる回答が得られるはずだ。


岡本裕明(おかもとひろあき)

okamoto021961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。