もっと日本にCanLit! 第14回

第14回 マリコ・タマキ

mariko-tamakiマリコ・タマキ

『スキム』の文章担当。トロント出身。2014年春にふたたびジリアン・タマキ氏との合作でThis One Summerが発売される。


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Skim
トロントのカトリック系女子高校に通う日系カナダ人、16歳の「スキム」ことキムの青春と葛藤を描くグラフィック・ノベル。

今月は2008年の話題作、『スキム』を紹介したい。

日系カナダ人とユダヤ系カナダ人の血を引くトロント出身のマリコ・タマキ氏の文章と、彼女のいとこのジリアン・タマキ氏のイラストとによるグラフィック・ノベルだ。

1993年、トロント。カトリック系女子高校に通う日系カナダ人の「スキム」ことキムは、ウィッカ(欧州古代の多神教的信仰、女神崇拝)に傾倒して魔女になろうとする、小太りでちょっとさえない16歳。同じくウィッカを信じる親友のリサとの仲も、最近どこかぎくしゃくとしている。同性の教師に恋をしてしまうがつれなくされ、次第に厭世的になっていく。一方、学校の人気者ケイティーは、恋人にふられた直後にその恋人が自殺、そして彼の秘密が暴かれ……といった悲劇にみまわれ、次第に取り巻きとも距離を置き、孤独感に苛まれるようになる。そんなケイティーにシンパシーを感じてしまうスキム。そして二人は……。

主人公は日系ではあるが、物語のテーマは民族的なことではない。これは、複雑な家庭環境、恋愛、学校での人間関係、同性愛、大人に対する不信感、混乱、圧迫感、鬱憤などのあいだでもがきながら少しずつ前進していく、迷える思春期の少女たちの物語である。物語の一部がスキムの日記形式で綴られるが、筆者も十代の頃はそんなふうに日記に憤りをぶつけていた。何もかもが信じられず、何もかもが腹立たしいティーンエイジャーたちの苦難が新鮮に蘇ってくる作品だ。

グラフィック・ノベルという形態ながら、本作品は文学として高い評価を得た。九八年にはしかし、文章担当のマリコ・タマキ氏がカナダ総督文学賞の児童文学部門にノミネートされたのだが、イラスト担当のジリアン・タマキ氏が除外されたことで混乱が起きた。グラフィック・ノベルとはご存知のとおり、文章と絵が一体となってはじめて一つの作品とよべるものである。カナダやアメリカの著名グラフィック・ノベリストたちが協力して、ノミネーションを再考慮するよう嘆願したが、変更はなされなかったようだ。

マンガの国日本で育った私たちには、絵の描き手は作品とは切っても切れない関係で、絵と文章の担当が違う場合、たとえ原作者や文章担当者の名を忘れても、絵の担当者を忘れるということはまずないだろう。スキムにおいても、ジリアンのどこかどんよりとしたゴシック風の暗い作風が作品の成功に一役買ったはずだ。絵の作者に対して正当な評価がなされなかったというのは、なんとも残念である。
今春にはふたたび両者の合作でThis One Summerが発売される。今度も主人公はティーンのようだ。


yokoモーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。