もっと日本にCanLit! 第19回(最終回)

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Great Lakes Review Red Giant Books社の文芸誌で、筆者の短編小説を何度か掲載していただいた。現在発売中の2014年春夏号には『ダブル・イグザイル』の抜粋が掲載されている。

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Double Exile ドイツを舞台にした歴史小説。第二次大戦中に運命に翻弄され、戦後表舞台から姿を消してしまったドイツ人作家の謎を、日本人女子大生が解く。 Red Giant Books
$13.95 ISBN: 978-0-9883430-8-5


2012年12月から続けさせていただいたこのカナダ文学コラムですが、今月を持ってしばらくお休みさせていただきたいと思います。この短い期間、取り上げることのできた作家は数多の優れたカナダ作家のなかのほんの一握りでしかありません。本コラムが、みなさんにカナダ文学のすばらしさを少しでも知っていただけるきっかけをつくることができたなら、たいへんうれしく思います。

さて、カナダ人でもない私が本コラムのなかで自分の活動を記すのもおこがましいのですが、最後に少し、報告させていただけたらと思います。

先月も書きましたとおり、邦訳を担当させていただきましたカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ作『北斎と応為』が6月、東京の彩流社より刊行されました。その出版に際し、カナダ大使館にて、日加修好85周年を記念して著者ゴヴィエ氏と日本ペンクラブ会長で作家の浅田次郎氏との対談が大盛況のうちに行われました。

この『北斎と応為』ですが、題名からもわかるとおり、北斎とその娘応為(お栄)の物語です。日本人読者にとってまず不思議だったのは、「なぜカナダ人がこんな話を書き得たのか」ということだったようです。これは先月も書きましたとおり、日本の浮世絵学会としがらみのない海外作家だからこそ通説に挑むことができた、ということで説明できます。ここでもう一点ふれておきたいのは、カナダ側でも、完全に外国を舞台とした作品はたいへんめずらしい、ということです。

といいますのは、「カナダ文学」という概念は比較的新しく、70年代ごろまでは知識人はイギリス文学やアメリカ文学を読むものとされていたそうです。それからナショナリズムの高まりでカナダ文学が徐々に確立されたため、Canlitといえばカナダを舞台としたものが多いのです。

もう一つCanlitといえば、移民文学が多いのも特徴でしょう。私のようなよそ者がクリエイティブ・ライティングを始め、作品を発表できるようになったのも、そんな土壌があったからではないでしょうか。たとえば、日本で短編小説を発表しようと思ったら、文学懸賞に応募するくらいしか方法はないように思います。ところがカナダには数々の良質な文芸誌があり、新人作家でも作品を投稿できる、昔ながらのスタイルが続いています。政府が文学をアートと認め、諸々の奨励金や助成金でサポートしていることもあり、小さいながらも質の良い作品、無名作家の作品を刷り続ける、いわゆるインディーズ系の出版社もたくさんあります。そしてもちろん、このような出版文化を支える文学好きな「読者」の存在も大きいでしょう。

そうやって下積みを積んだうえで、ようやく初の小説Double Exileを刊行することとなりました。カナダではなくアメリカの出版社なのですが、私が暮らし、クリエイティブ・ライティングへの道を開いてくれたこのトロントという地に感謝したく、出版記念会はトロントで行うことになりました。ドイツを舞台にした歴史小説で、第二次世界大戦中に運命に翻弄され、戦後表舞台から姿を消してしまったドイツ人作家の謎を解くという設定で、言論の自由がテーマです。主人公の一人が日本人女子大生であり、日本の歴史にも絡んでくる内容ということもあり、日系の施設にご協力いただき、各種イベントが予定されています。7月22日(火)にジャパン・ファンデーションにてブック・ローンチ、24日(木)にJCCCで朗読会を行いますので、皆さんぜひお誘いあわせのうえお運びください。


yokoモーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。