【第2回】『トラスト・ミー!』|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方


 「トラスト・ミー」とは、「信用してくれよ」「任せてくれよ」という意味ですね。こんなことを言われたら相手を信用するのが人の常。まして相手が配偶者であったらなおさらでしょう。
 オンタリオ州では、法的に婚姻関係にない夫婦(事実婚配偶者)の財産についての法律が確立されていません。そのため、事実婚を解消することになった場合、夫婦間の信頼や委託を背景とする争いが法廷に持ち込まれることはめずらしくないのです。

 そこで、事実婚配偶者の信頼関係の崩壊と事実婚解消時の財産分与についてケン・ネイソンズ弁護士に聞いてみました。

法律婚vs.事実婚

 オンタリオ州には、「法的に婚姻関係にある夫婦が同居していた自宅は誰の名義であっても別居時点の時価を夫婦間で折半する」というルールがあります。しかしこれは事実婚には適応されません。

 また、預貯金など婚姻中に築いた他の財産も、名義によらず夫婦二人のものです。けれども2019年1月現在、オンタリオ州の事実婚配偶者には相手名義の財産に対する法的権利はありません。

 したがって、事実婚を解消する際に同居中に築いた相手名義の財産の権利を主張したければ、法的手段に訴えなければなりません。この名義をめぐる財産争いは大きく二つに分けられます。 

 名義上の所有者ではないが、実際にはその財産への権利が認められる「コンストラクティブ・トラスト」そして、名義上の所有者だが、実際にはその財産への権利が認められない「リゾルティング・トラスト」がその二つです。

コンストラクティブ・トラスト(名義人ではないが事実上権利がある財産)

 自分の名義が加えられていなくても、ローン返済に協力した自宅や、二人で営んできた家業に対する権利を簡単にあきらめられないのも無理はありません。たとえ収入のない専業主婦であっても、夫の事業や雇用を支えてきた「内助の功」が考慮されてしかるべきです。

 この内助の功を考慮した財産分与こそが、法的に婚姻関係にある配偶者に自動的に認められているものです。一方、たとえ20年、30年という長期間であっても、その関係が事実婚であった場合、財産分与の権利を主張するためには「不当利得返還請求」を申し立てなければなりません。

 2011年、「事実婚配偶者の財産への権利」が問われた最高裁の判決で 「不当利得返還請求」の判断基準が確立されました。財産が二人によって築かれたものであり、名義人が財産を独り占めすることが不公平であることが立証されれば、事実婚の配偶者にも財産分与に代わる代償金が認められるとするものです。

リゾルティング・トラスト(名義人であっても事実上権利の無い財産)

 一方、財産の名義人がその財産を得るための資金を全く調達していない場合もあります。「支払いの終わっていた単独名義の自宅に配偶者の名前を加えて共有名義にした」といった場合がこれに当たります。

 また、自宅などの資産を購入する際、あえて配偶者のみを名義人とする場合もあります。事業主である夫の所得で購入した自宅を妻の名義で登録しておくことは、万一事業に失敗して破産を申請しなければならなくなった場合でも、全財産を失わないようにするための予防策として頻繁に使われます。
 しかし、この「名義借り」は、事実婚解消の際に問題化します。資金を出した方が「名義人と実際の所有者は一致しない」と訴え、その財産の本当の権利は自分にあると申し立てるのです。

 この場合の法廷の判断基準は「配偶者名義にした時点で、その財産を配偶者に贈与する意思があったかどうか」です。しかし「自分が資金を出していない自分名義の不動産が相手からの贈与であること」を立証するのはとても困難です。ここでは、贈与の意志を示した文書の存在が問われることになるのです。

対策:約束は文書にすること

 さて、法的権利が確立されていない事実婚において、財産に対する権利を守るには、あらかじめよく話し合い将来の方針を決めておくことが必要です。夫婦の約束を契約書にすることは、けっして居心地のよいものではありませんが、万一の場合には、居心地の悪さなどとは比較にならない苦痛に苛まれることになると考えれば、契約の長所が納得できるでしょう。

 カナダでは、結婚や同居に際し契約書を作成しておくことは一般的です。しかし、万一の場合の財産の行方をあらかじめ決めておくことを受け容れがたいと考える日本人はまだまだ多いようです。しかし、エキスパート弁護士によって作成され正しく署名された契約書は、究極の約束としての効力を発揮します。

 そこで次回はドメスティク・コントラクトと呼ばれる配偶者間の約束について詳しく説明していきましょう。

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。


ファミリーローセミナー@ネイソンズ・シーガルLLP

日時: 2月13日(水)午前10~12時
 参加費無料 リフレッシュメント付
場所: Madison Centre(4959 Yonge St. Suite 2408)
 地下に有料駐車場有
 10:00~10:40 結婚の経済: 共有名義?
 10:40~11:00 リフレッシュメント Q&A
 11:00~11:40 判例から学ぶ財産分与
 11:40~12:00 Q&A
講師: ケン・ネイソンズ(スペシャリスト認定弁護士)
モデレーター: 野口洋美
講義は英語で行いますが、日本語で補足いたします。
参加申し込みはhnoguchi@nathenssiegel.comまで