「約束の証明書」 プリナップ|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方【第3回】

 オンタリオ州では、事実婚配偶者の財産に関する法律が確立されていないため、財産分与問題が争いに発展しがちです。前回は、そんな争いを回避するため「約束を文書にしておくことができる」とお話ししましたね。

 弁護士のアドバイスを受け、約束の内容や交渉の方法が法的にフェアであることを確認した上で署名された「プリナップ」は、当事者だけではなくその子供や孫らの経済的安定を守るための大切な「約束の証明書」です。今回は、その「プリナップ」について、エキスパート弁護士ケン・ネイソンズに詳しく聞いてみました。

プリナップの正式名は?

 事実婚での「約束の証明書」は、事実婚同意書(Cohabitation Agreement)と呼ばれ、これによって法律で定められていない経済的責任に関する約束が交わされます。

 一方、法律婚の場合、婚姻契約(Marriage Contract)で法律と異なる取り決めを約束しておくことができます。

 どちらも「配偶者間のお金の約束を法的効力のある文書にしたもの」です。

 さらに、事実婚カップルが後に法律婚する場合、その約束がそのまま移行されるよう作成されることが多いので、両方とも、プリナップと呼ばれることもあります。

プリナップで約束できることって?

 
 繰り返しますが、プリナップで約束できることは、お金のことだけです。子供の親権や面会交流について約束したとしても法的効力はありません。

 お金の約束は、大きく二つに分けられます。

 まず「二人が別れることになったとき、自宅は誰のものになるのか?預貯金はどのように分けるのか?他の財産は?」という財産分与に関するものがあります。

 また「収入の少ない配偶者に対して経済的支援を行うのか?支援の金額は?期間は?」という配偶者サポートに関するものもあります。
 どんなカップルにもそれぞれ異なる経済的背景があります。ですからプリナップをカスタマイズするためにも、家族法の弁護士からアドバイスを受けることをお勧めします。

こんな場合は是非プリナップを!

 しかし、これから二人で財産を築いてゆく若い二人には、それが法律婚である限り、プリナップは必要ないかもしれません。逆にプリナップは必須であるというケースもあります。そこで、プレナップが役立つ例をいくつか紹介しておきましょう。

①Aさんは、40万ドル(約4千万円)で自宅を購入しローン返済もほとんど終えています。Aさんは、Bさんと結婚することになりましたが「二人が別れることになっても自宅の権利をBさんと分けなければならないのはちょっと…」と考えています。

②Cさん(65歳)は、Dさん(65歳)と再婚予定です。Cさんの自宅は、時価3百万ドル(約3億円)です。子供たちは、「Cさんが死んだときに家がDさんのものになるのは困る」と結婚に反対しています。そこでCさんは、「自分の死後、Dさんが亡くなるまではDさんを自宅に住まわせ、Dさんが亡くなった時点で自分の子供たちに自宅を相続させたい」と思案しています。

③Eさんは、いくつもの事業を営む実業家です。一方、婚約者のFさんの年収は、4万ドル(約4百万円)です。Eさんは、「離婚時に高額な配偶者サポートを支払うことになるのはいやだ」と考えています。一方、Fさんは、「納得できる配偶者サポートを約束してもらいたい」と思っています。そこで二人は、それぞれ弁護士を雇い、公平なプリナップの作成のためアドバイスを受けることにしました。

 いかがでしょう。プリナップの重要性を納得いただけましたか。他にも、将来的に高額な遺産を受け取ることになる人や事業を継承する可能性のある人は、プリナップを作成しておいたほうが良いでしょう。
 

プリナップの約束に法的効力を与えるには?

 
 さて、せっかく約束を文書にしても、その約束が果たされなければ意味がありませんね。夫婦間の約束が法的効力を発揮するためには、プリナップ作成時にクリアしておかなければならない条件がいくつかありあます。

 配偶者それぞれが、別々の弁護士からアドバイスを受けることをILA(Independent Legal Advice)といい、これもプリナップが法的効力を発揮するための条件の一つです。

 他にも幾つかの条件がありますが、オンタリオ州に住む者のプリナップは、オンタリオ州法に基づいていることが何よりも大切です。
 
 エキスパート弁護士によって作成され正しく署名された約束は、それが必要になった時、約束の証明書としてその効力を十分に発揮するのです。

前回の記事を読んだ方から質問をいただきました。

A. 事実婚だと、別れるとき何の経済的保障もないのですか?

Q. オンタリオ州の法律で、別離後の経済的支援や二人の間に生まれた子供の養育費支払いなど、事実婚配偶者の責任を定めています。しかし自宅などの財産に関しては、共有名義でない限り、基本それぞれの名義に従って分配することになります。

エキスパート弁護士、ケン・ネイソンズがあなたの質問にお答えします。
hnoguchi@nathenssiegel.comまで日本語でおたずねください。


ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law) 

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。