「第7回マネジメント向けセミナー:カナダビジネス最前線 今、抑えておくべき重要トピックス&パネルディスカッション」ハイライト

(左から)寺田大輝氏、松代研一氏、河村祐三子氏、江川泰三郎氏、山岸康徳氏


6月22日、トロント日本商工会とデロイトカナダが共催するマネジメント向けセミナーが開催された。第1部ではデロイトカナダの山岸康徳氏と寺田大輝氏が登壇し、日系企業からの問い合わせが多いカナダ税制に関する7つの論点の解説を行い、第2部は「AIの最新動向」と題してデロイトカナダのヒューバート・チャン氏がAI基礎からビジネスで活用する方法についての講演を行った。

 そして第3部ではキャノンカナダの江川泰三郎社長、カナダ日野自動車の河村祐三子社長、そしてヤマハカナダミュージックの松代研一社長の3名をゲストスピーカーとして招き、「多様な従業員の力をどう引き出すか?」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

多様性豊かなカナダでグローバル企業を牽引する社長3名が語る
従業員の力を引き出す秘策

 毎年同セミナーのハイライトとなるパネルディスカッションでは、今年は国際色豊かな3名の現地法人社長をスピーカーとして招き、デロイトカナダの山岸氏と寺田氏がモデレーターを務め「多様な従業員の力をどう引き出すか?」をテーマにパネルディスカッションが行われた。このディスカッションではそれぞれが従業員のモチベーションへの取り組み、従業員の能力をどう引き出していくのか、そして駐在員としての役割と心構えという3つのポイントが取り上げられた。

パネルディスカッションの様子

「カナディアンらしさを軸に改善を行い、危機を乗り越えた」

ー従業員のモチベーションアップのためにまずはやる気になってもらうことが大切だと思いますが、どのようなことに取り組まれているのでしょうか?

松代氏: ここ5年間を振り返るとコンシューマー・エレクトロニクス業界は大変な時期だったと思います。オンラインで製品を買うお客様が増え、AV分野では韓国が力をつけていたこともあり、かなりの打撃を受けました。日系企業もオペレーションを縮小したり、アメリカに移転するなどの状況の中で弊社でも従業員からは「この会社はどうなっていくのだ」という緊張が高まっていたと思います。そのため、どうしたら社員がこの会社で働いていて良かったと思うかという事を考え、何ができるのかという部分に焦点を置き改善を試みました。例えばデリバリーであればこれだけ早く配達する、修理担当者であればどんなものでもより早く直す、電話対応でも留守電では必ず英語・フランス語対応をするといった取り組みを全員で相談し、実行していきました。さらにはカナディアンらしさをモチベーションにして、アメリカには負けないぞという対抗意識を盛り上げたということも大きいですね。ある意味ではアメリカに対する危機感というのも高かったのかもしれません。


河村氏: 弊社ではアメリカに兄弟会社があり、工場の従業員はアメリカに仕事を取られてしまうのではないかという不安を感じていました。このため、アメリカとのKPIの比較を見せて取り組みを説明するとカナダ人は目の色を変えて仕事をしてくれたように思います。また、カナダ人は日本人とは違う育てられ方・教育を受けて来ていて、カナダ人の子育ての多くは褒めて育てるものだと聞いています。その点を踏まえて赴任当初からスタッフと話をする時にはまず褒める事から始めています。

 その他にはなるべく自分で目標を書かせて、やる気を出してもらうという事はしておりますが、現地社員の日程感が希薄な時も多々あるので「これはいつ終わるの?」と声を掛けることを忘れないように心がけています。また、社員と詰めた話をする時は、フェイストゥーフェイスでするようにも気を付けています。メールの場合は、重要な議題であればあるほど相手からの返信が長くなり、結果的に長文のやり取りになりかねず非効率となるおそれがあります。そのため、特に重要な議題の場合は、直接会って話をするようにしています。


江川氏: 我々日本人は我慢することには慣れていますが、カナダの社員はプレッシャーのある仕事を与えられると泣きに入ってしまったり、人間関係で自分たちが解決できないものが出てくると愚痴が入ってきたりすることがあります。愚痴を聞くのはいいですが、どうするかという話はなかなか行われないこともあります。しかしながら、お互いの話をよく聞いてあげて「実はそれぞれが同じところを目指そうとしているのでは?」と語りかけてあげると自然とモチベーションもアップして問題も解決に向かうことが多いように思います。

「目標提示は簡単だが、重要なのは従業員に落とし込んでもらうこと」

ー従業員同士を同じ方向に向かせることが重要なのですね。そうした目的をどう従業員に対して落とし込んでいくのでしょうか?

江川氏: 実はこれは永遠のテーマなのですが目標を提示するだけなら簡単です。それをどのように自分のものとして落とし込んでもらうかが一番大切になってきます。目標やそれを達成するための戦略はプレゼンやメールだけではなかなか伝わりません。背景や理由も直接会話し、その価値を落とし込んでいかないと「言われたからやりました」というだけのケースも出てきてしまいます。目標を自分のものとして責任を感じてもらうことで個人のスキルも付き会社も成長しますので、この点をとても意識しています。

「数値的なパフォーマンスだけでなく日本的な良さを評価対象に盛り込む」

ーモチベーションを高めるうえでKPIを達成しなかった時や、達成した際のリターンや報酬はどのようにしているのでしょうか?

松代氏: 表彰状のようなものを作ります。アメリカでは優秀な成績のディーラーやセールスマンを祝うために大きな表彰式などを開催していますが、カナダでも規模感は違うにせよ素晴らしいパフォーマンスを発揮した方を表彰するようなことはしています。

講演を行うデロイトのヒューバート・チャン氏


河村氏: 弊社では評価システム等に基づいて給与やボーナスが決定するのですが、台数や金額という数値目標が基となる評価はありませんでした。新たに始めた取り組みとしては、目標達成に連動してボーナス額を決定するようにしています。また、日本企業の良さは短期間の実績だけでなく組織の育成やPDCAを回すという部分にもあると思い、このような項目も評価の対象にしています。

江川氏: 立場や文化の違いはあれど人間である以上、誰かから評価されたり認めてもらえることが嬉しいと思います。ですので、セールス以外にも社内アワードを贈るという取り組みを行っています。例えば、サポートをしてくれた人に対して社内SNS内で「ありがとう」を贈り、それを上司が認めるとポイントがもらえ、そのポイント数が社内で見えるようになっています。頑張っている人の可視化ができることで会社という場所が仕事をする場だけでなく、人と人が繋がる場所になることを目指しています。

 また、仕事に来るだけが会社ではないので、地域への還元にも力を入れています。環境保全として一年に一回、就業時間の3時間を使って植樹活動を行っています。同じ部署や違う部署の人と一緒に汗を流すという事が社会貢献にもつながり、思った以上の価値があることを実感しています。

「ポテンシャルのある人にチャンスが回る体制作りが必要」

ー従業員の能力を引き出すために取り組んでいることや気を付けていることを教えていただけますでしょうか?

挨拶を行うトロント日本商工会の伊東義員専務理事


江川氏: 適材適所というお話ですが、弊社ではある部門の誰かがいなくなったら引き継ぐ人材がいるのだろうかという点が不安です。人数がある程度いるため、従業員の中にはポテンシャルのある人はいるはずなのですが。それと同時に、今まで仕事を任せきれていなかった、やりがいを感じさせてあげられていなかったことなどが、会社としての課題だと感じています。

 全社的にどういう人材がいて、それをどう見出すか、従業員のポテンシャルや適正をアセスメントすることが必要と考えています。アセスメントには上司だけでなく様々な部署の人にも参加してもらい、そこでポテンシャルのある人にチャンスが回るような運営につなげていきたいと考えています。弊社の人材はタスクをあげると完遂できる人材はたくさんいます。しかしながら、AIが簡単な作業を担当していく時代になっていくからこそ、ビジネスに変化をもたらすことが出来るような人が必要です。

ー会社としても新しい取り組みだとは思いますが、これはどのようなタイムラインですか?

江川氏: これは5年を一つの目安としています。人事評価システムはアメリカのものに沿っているのですが、このアセスメントと人材発掘はカナダのイニシアティブになっています。1年やそこらでできることではありませんので、時間を掛けて取り組んでいます。

河村氏: 生産の面で力を入れている部分としては、部署を横断するようなプロジェクトを行っています。特に工場では自分の領域が決まっていたのですが、そうするとその間を埋めるような人材がいませんし、カナダの社員の間にもそのような概念がありません。ですので、大部屋という組織を作って普段所属する組織での仕事の進め方とは異なる部分を細かく決め、プロジェクトを進めるようにしています。こういった役割は耐性がありそうな方にお願いしていますが、こまめに確認は取るようにしています。こういったプロジェクトを中心になって進めていく人材には、現場で優秀な人を抜擢し、彼らも選ばれた理由を理解しているので高いモチベーションになっていると思います。

第1部セミナー講師デロイトの山岸康徳氏


第1部セミナー講師デロイトの寺田大輝氏


松代氏: 楽器は特殊な業界でして、社員には元ミュージシャンが多いため、売っているものが好きだという社員が多いことが強みです。ですが、ミュージシャンだけで組織化してもビジネス感覚とのバランスを失ってしまいます。しかし、北米では音大生であっても法律や経済といった勉強をしてきた方が多くいるため、そのような人材を活かしていくことが必要だと考えています。

ートップとしての人材戦略に取り組まれていることを教えていただけますでしょうか?

江川氏: 正直まだ試行錯誤をしているところです。まだまだポテンシャルのある人材が然るべき場所で活用されていない部分があると思いますので、チャンスを広げようとしています。その人が何を望んでいるのか、違う職種が必要であればそこに機会を作れるようにしています。カナダでは部下と話をするとキャリアパスの話題はかならず出てくると思います。たまたまポジションが空いているからここに行けるというのはレアケースだと思います。全体の組織の流動性を考えない限り、本当のキャリアパスというのは描けないのではないでしょうか。

講演に聞き入る聴衆


河村氏: 将来的に幹部候補のような方にはいろいろなポジションを経験してもらおうと考えています。先ほどのプロジェクトの話にもありましたが、パイロットメンバーには優秀な人材を抜擢していますので、選ばれた方はそれを自身のキャリアパスの念頭に置いていると思います。

松代氏: 楽器業界は人材の流動性は緩やかであるため、弊社では長く勤めている方が多いです。その中でいかに毎日良い空気感を作れるかという部分が企業文化として大切だと考えています。そのためにも社員の前でスピーチをする際はカナダで良い点や一緒に働くことができて良かったということをオーバー気味に押し出して話すようにしています。

ービッグデータとAIの時代における人事戦略について考えをお聞かせください。

江川氏: 弊社でもAIの導入を検討しています。ただ、AIを活用していくこと以上に、急速に変化する市場環境に対応することがまず求められていると思います。オペレーション関係で頑張ってきた人たちは変化を起こすという事に慣れていません。アイディアがあってもそれを出すのにためらいがあります。我々も部門横断プロジェクトで、商品を売る方法というテーマにチームで挑戦してもらいました。そのような取り組みは自分たちもできるんだという自信につながり、何か変化を起こせるのではないかという事が分かってもらえます。ですので、必ずしも全部AIに置き換える必要は無いと思っています。

松代氏: 我々の会社の場合は、本社がそういう話を積極的にしてきます。例えば、スカボローにギター好きが何人います、とAIが分析した結果をベースにスカボローのピンポイントの場所を積極的に営業するようにと話が出る時もあります。我々としてはAIがもたらすものは大事にしていきたいですが音楽はとてもエモーショナルなものです。ですので、音楽の良さに訴えることとのバランスを考えていきたいと思っています。

表情を分析するAIの実演


河村氏: ビッグデータという意味で見ますと、自動車業界ではコネクテッドというワードがよく使われます。アメリカの代理店では車体に装置を付け、車両の稼働状態が可視化されています。トラックの敵であるダウンタイムを防ぐためにもどういう時にどこが壊れやすい、ということを分析できるようになっています。そういう意味では人材を置き換えるというものよりもAIは今までできなかったことが出来るようになるという意味が我々にとっては強いです。

「駐在員は現地の目線で情報を本社に伝え、ギャップを埋める重要な役目」

ー皆様が考える駐在員の役割と心構えを教えてください。

河村氏: その人の置かれている状況によって変わってくるとは思いますが、駐在員は現地の目線で現地情報を本社に伝え、ギャップを埋めるという重要な役割があると思います。また、日本企業としての良さや強みを植え付けていくのも大切なことだと思います。

 また、女性駐在員の方々にとってカナダはダイバーシティーな環境であり、働きやすいかと思います。女性であるという事を気にせず働ける環境ではないかと思います。ですので、駐在員の方々にはこちらで経験して良いと思ったことは、日本での働き方を変えていく推進力に変えられるよう頑張りましょう、と言いたいです。

松代氏: ここ5年間、ローカルの人材を社長にする会社が増えてきています。そういった面でも、駐在者の意味合いは変わってきたのではないでしょうか。現地の方が社長になれば、駐在者はその方から評価をされることになりますので、より現地目線で評価されることになります。

第2部モデレーターデロイトの菅野友美氏


江川氏: 弊社の幹部は、自立して考えることが出来る人材が揃っています。私は最終的に彼らの意見を承認するという役割ですので、私がいなくなったとしてもその後自分たちで動かしていける会社にしていきたいです。弊社の駐在者にも語りかけていることはカナダに来て実務をこなして帰るのだけではつまらないので、自分がこれをやったと言えるものを残して帰任してほしいということですね。

 当日は参加者からも多くの質問があり、カナダでリーダーシップを発揮する海外経験豊かな社長が向き合っている課題や思考に直接触れる貴重な機会となった。多民族国家であるカナダの多様な人種と文化の中で日系企業の在り方や駐在者の役割が大きく変化していく中でどのようなケーススタディーが生まれてくるか今後も期待をしたい。