ドナルドトランプ旋風 カナダ人は どう考えているか?

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「暴言王」ドナルド・トランプ。大手メディアからの批判にひるむことなく、有権者からの支持を集め続けている。隣国であるカナダの人々は彼の躍進に対して、どう考えているのか。カナダ全国紙の社説、カナダの一般市民へのインタビューを通して探ってみた。

現在進行中の米国大統領選挙、ここで一大旋風を巻き起こしている人物がいる。ドナルド・トランプだ。彼は生粋のニューヨーカーで、全米各地にゴルフ場やカジノなどを保有する「不動産王」と称される。アメリカでは、リアリティ番組「アプレンティス」への出演で知名度が増し、経歴、セルフブランディングへの努力、歯に衣着せぬ発言などで、実業家でありながらセレブリティとして脚光を浴びていた。

そんな彼は2015年6月に、共和党候補として大統領選に出馬することを表明し、実業界から政治の世界に飛び込むことを発表した。政治経験ゼロでの出馬だ。その突然の表明に注目が集まったが、本当に激震が走ったのは彼の経歴が理由ではなく、彼の「発言」だった。

出馬表明の際、彼は主にメキシコからの不法移民を話題にあげ、彼らを「あいつらはアメリカに麻薬や犯罪を持ち込む犯罪者だ。良い人もいるとは思うが」と強烈な持論を展開したのだ。さらに同年9月には、共和党から唯一の女性候補であるカーリー・フィオリーナ氏を名指しし、「あの顔を見てみろよ。あの顔に投票する人間なんているのか?あの顔が次の大統領だって想像できるか?」と外見を侮辱するような発言が話題となった。セレブリティ時代から脚光を浴びていた彼の毒舌トークはその後も留まるところを知らず、彼は「不動産王」ならぬ「暴言王」と称されるようになった。

発言だけではなく、発表した政策もかなり過激なものだった。不法移民に対しては、彼らを「本国に強制送還する」とし、メキシコとアメリカの国境に「万里の長城を築く」という政策を発表している。また、世界各地でイスラム教徒によるテロが発生している状況を受けて、「イスラム過激派のアメリカへの流入を防ぐため、イスラム教徒の入国を一時的に停止する」との政策も発表した。

そのような発言や政策を受け、彼に対するアメリカ大手メディアの報道も辛辣なものだった。ニューヨーク・タイムズ紙は彼を「経験もなければ、安全保障や世界規模の貿易について学習する意欲もない」と批評した他、ワシントンポストはトランプの不法移民の強制送還という政策に対し、「スターリン政権か、ポルポト政権以来のスケールの強制措置である」と批判した。ハフィントン・ポストにいたっては、当初、彼は滑稽な見せ物にすぎないとして、彼の動向は政治欄でなく「エンタメ欄」に掲載するという扱いだった。

しかし、このような痛烈な批判にも負けず、彼の人気は急上昇した。現在も、共和党の大統領候補の中でトップを独走中だ。アメリカの低所得者層は不法移民に職を奪われると怯え、テロの頻発によって人々のイスラム過激派への恐怖も増している。彼の政策は、そのような人々の恐怖を代弁し「今まで言えなかったことを、よく言ってくれた」と、逆に支持を集める結果になったのだ。

毎日新聞はトランプの特集記事の中で、熱烈なトランプ支持者であるコロラド州デンバーの住宅修理業を営むドン・グレゴリーさんに電話でインタビューをした。そのインタビューの中で彼は、「メキシコ人は安い賃金で何でもするから、アメリカ人の職を取っちまう」と移民への不満を話したうえで、トランプについては「大好きだねえ。彼は口だけじゃない。実行する人間だ。選挙の時だけ地元に帰ってくる政治家は約束するだけで何もやらない」と話した。このように、本国アメリカでは、彼に対する批判や支持が交錯し、いつにも増して大統領選への注目度が増している。

では、私たちの住むカナダではどうだろうか。アメリカの隣国であるカナダの人々は、トランプに対しどのような意見を持っているのだろうか。カナダ首相の発言、大手新聞の社説、一般市民の意見をそれぞれ見てみよう。

カナダの首相、ジャスティン・トルドーはハフィントン・ポストが主催したライブフォーラム上で「今はトランプ氏と対立することも、支持することもしない」と話したが、政治にうんざりした人々を惹きつける点は理解できると話した。あくまでも中立的な立場を表明した上で、トランプ旋風が巻き起こっている理由は理解できると話したのだ。

その一方、カナダの大手新聞の社説を見てみると、彼らはアメリカの大手メディアと同様、トランプへの批判的な意見を持っていることが分かった。全国紙グローブ・アンド・メールは「おしゃべりで、傲慢なドナルド・トランプは、人種差別主義者や、アメリカが抱える問題をすべて移民や外国人に起因すると考える人々の票を集め、共和党の大統領候補選で躍進している。これは決してあってはならないことだ」とコメントした。同じくカナダの全国紙のナショナル・ポストは、彼のビジネスマンとしての功績を「何億ドルもの資産を集めた、優れたビジネスマンだ」と評価したうえで、「だが、彼は自己中心的な愚か者だ。アメリカが抱える問題について、なんら具体的な解決策を持っていない」と政治家としての彼を痛烈に批判した。トロント・スターも同様に、「(米国大統領のような)政治的に高い地位には適していない。彼は政策に関して無知で、横暴で、扇動的な政治家でしかない。ニューヨーク・タイムズが言ったように、〝怒りの政治〟を展開しているだけだ」と批判している。

それでは、カナダに住む一般市民の意見はどうだろうか。筆者の友人に個人的にインタビューをし、意見を聞いてみた。友人からのインタビューであることや、少人数を対象にしていることから、このインタビューがカナダ全土の意見を表すわけではないと留意をした上で、彼らの意見を引用する。

オタワ大学の大学生である女性はインタビューで、「アメリカが、カナダに対して強力な力を持つ隣国であるという点から考えると、現状のトランプ人気はとても恐ろしいです。彼は、歴史上のたくさんの独裁者たちとよく似ています。彼の女性や他民族に対する考えや政策は、アメリカを過去の歴史に逆戻りさせるだけだと思います。私は、彼の政策や彼自身を全く支持していません。なぜ彼がここまで人気を集めているのか、まったく理解できないのです。アメリカ人の意見に対して、断定的になりたくはありませんが、彼らは今世界で起こっている事に過敏に反応しているだけではないでしょうか。過敏すぎると言ってもいいでしょう。彼に投票するということは、アメリカが、他の国や人々に対しての思いやりの心や、団結心を忘れていることを意味します。とても悲しいことです」と話してくれた。

アイルランドからカナダに移住したカルガリー在住の男性もインタビュー応じ、トランプについてこう語った。「トランプは人種差別主義の偏屈者でしかない。彼のような人物は、世界中のどの国の指導者にも適していない。それが、世界で最も強力なアメリカの指導者となれば尚更だ。彼がここまでの票を集めているという事実はとても不快だし、それを可能にしている民主主義にも不快感を覚えてしまう。北米やヨーロッパの多くの国で、政治的な大変動が起きていると思う。アメリカでも、貧富の格差が前にも増して大きくなっていて、その事実に対して希望を失った人たちが、(トランプのような)極端な政策を打ち出す人に投票をし、変化を期待しているのだと思う。(同じく極端な政策で知られる民主党候補の)バーニー・サンダースへの支持の高さを見ても、それが伺える。それに、現共和党候補の中に、他に魅力的な候補がいないのも、彼が票を集める理由だと思う。彼は他の候補者よりは〝ましな悪者〟なんでしょう。個人的には、彼や他の共和党候補が大統領にならなければいいと願う。」

一方、彼に対して中立的な意見もあった。フィリピン系移民2世である男性は、「私は、彼の事を好きでも嫌いでもありません。彼が優れたビジネスマンであることは確かですし、そのこと自体は尊敬すべき点でもあると思います。トランプがここまで人気を集めている理由は、以前からテレビに出演していたセレブリティであるからこそ、どうやったら人々から人気を集められるかを心得ているからだと思います。明らかに他の候補者より、カメラに映る姿は堂々としています。また、彼の自由奔放な発言がメディアの注目を集め、大々的に報道されることで、逆にそれが彼の支持を高める結果になっていると思います。それに、彼には他の候補者と違って、誰にも頼らずに大統領選で闘える財力があります。だからこそ、資金源の意見に揺さぶられ意見を変える他の候補者と違って、政策がぶれることがありません。それが支持される理由だと思います」とトランプ人気を客観的に述べるに留めた。

このように、著者が調べた限りでは、カナダでも批判的な意見がほとんどだった。2016年1月に実施された大規模なアンケート調査でも、67%のカナダ人が「トランプが大統領になることは、カナダに悪影響をもたらす」と答えたとされており、大多数の人々はトランプに対して否定的な意見を持つようだ。

良い意味でも悪い意味でも、大多数の民意を表すのが民主主義による政治である。どれだけ態度が傲慢でも、過激な発言があったとしても、それが大衆に受け入れられれば、善となる。大統領就任式は来年の1月20日。果たして、一種のカリスマ性を持った暴君ドナルド・トランプが、世界で最も強力な国の大統領となるのか。今後も米大統領選から目が離せない。