早稲田ビジネススクールで講師デビュー | 世界でエンタメ三昧【第45回】

2008年アナログ広告の危機とデジタル広告の勝機

コンテンツにとって広告はなくてはならないものです。コンテンツをメディアに乗せながら、広告でプッシュすることで興味関心を引き出す。コンテンツ業界の成長は広告業界の成長でもありました。そんな広告の時代は3つに分けられます。戦後から1991年の「成長の時代」、そして92〜2007年の「停滞の時代」、最後の2008年以降の「危機の時代」。成長の時代は経済成長・消費拡張に従ってあらゆるマスメディア・セールスプロモーション(SP)の広告費が右肩あがりの時代でした。それが雑誌・新聞・ラジオ広告の退潮し、テレビのみが残る停滞の時代に入り、そしてリーマンショック以降の危機の時代とは、すべての広告がデジタルシフトにのみこまれる過程でもあります。最近の日本デジタル広告最大手のサイバーエージェントの時価総額が6000億を突破し、アナログ広告2位の博報堂を超えたというニュースがそれを象徴的に物語っています。

日本はそれでもデジタル化のペースが遅く、いまだデジタル広告規模はテレビの2/3規模(15年で広告費全体の20%、17年で23%まで成長中)。キー局の中央集権的なテレビ業界構造が、その衰退をギリギリのところで食い止めています。北米では2017年で$70B規模のテレビ広告市場を、デジタル広告市場が上回りました。中国はもっとラディカルで、2010年ごろまで日本と同規模だった全広告費市場が、この7年間で日本の2倍近い9兆円まで急成長。驚くべきはデジタル広告比率が5年前に19.4%と現在の日本レベルだったのに、2017年には57%。半分がデジタル広告です。北米・中国などに比べると、日本はまだまだといったところ。

デジタル広告の優位性

インターネットは無数のページがありますが、広告メディアとして考えると実は現在寡占状態です。2016年世界の広告市場は60兆円。そのうち20兆円がデジタルですが、シェアでいうとGoogle31%(6兆円)、Facebook12%(2.4兆円)、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)で14%(2.8兆円)。これだけ大量にネットメディアがある中で、人々が検索したり視聴したりする「視線」自体はGoogleやFacebookに集中しており、世界全体のデジタル広告費を飲み込んでいる状況です。

デジタル広告メディアは大きければ大きいほど、また接点が細かければ細かいほど有利です。データと蓄積が優位性となるからです。広告AIテクノロジーの進化により、例えばドラえもんのゲームをブラジルで展開したい場合にも、Facebookが「ブラジル人×ゲームユーザー×課金経験」などでソートして、ターゲットになりそうなユーザーに広告配信してくれるのです。その後毎週単位でそのユーザーに「家族構成」「年齢」などを掛け合わせて、最適な購買ユーザーを抽出します。さらに、そのブラジル展開がうまくいったとき、課金額がよかったユーザーデータの類似ユーザーを隣のアルゼンチンでも抽出して展開すると、より早く投資対効果のよい結果が出ます。これらはFacebookツールの使い方がわかれば、一個人でもできてしまうのです。

どのくらいデジタルの効率が良いかというと…CPM(1000回視聴してもらうための広告費)という指標があります。例えばテレビCMの全国枠3000万円(15秒×30回)で合計視聴率150%(=1.5億人)となった場合、1000人が視聴するコストとしてのCPMは200円になります。もちろん高齢者から子供から商品のターゲットにならない視聴者もいるでしょう。またTVを見て認知はしていても、購入までは至っていない潜在ユーザーも大量にいます。対するデジタル広告のCPM、図2でUSAのOnlineDisplayのCPMの変化をみてみましょう。2000年代でまだデジタル広告が一般的でない時代は確かに安く、1000人視聴で$4〜5。なによりデジタルの場合はターゲットが世帯や視聴率でなくダイレクトに個人を特定でき、その後のユーザーの変化までKPIで追えます。CPCといってそこからクリックに至った比率、CPIでインストールに至った比率、ROASでインストールした後に3〜6カ月のプレイ期間で実際にいくら課金したかの比率。このROASが高かったユーザーのタイプをセグメント化して広告配信をして、さらに効率的な広告ができます。

広告技術の進化によって、デジタル広告の優位性が認知され、そこに大量の広告費が集まるようになったため、14〜16年とCPMが急増し、$24.7まであがる結果となったと思われます。私も12〜13年にデジタル広告を出したときはやれ数字が違うだの、やれAPIが機能せず特定のメディアの数字は入っていないだの、ツールの不整備の話が目につきました。ところがこの数年で各社のツールが安定し、ROASのような後工程まで数字をたどれるようになっていて驚いた経験があります。同時にモバイルゲームのようにデジタルでのプロダクトが増えたことも成長の理由でしょう。テレビ視聴⇒店舗訪問⇒購入、とユーザー認知からアクションまでの距離が長いアナログに対して、広告視聴⇒クリック⇒インストール⇒購入とすべて指先だけでアクションまで至れるデジタルのほうが広告とアクションの距離が近づくのは当然です。モノであってもECが充実することでデジタル広告が有利になるでしょう。

他のデータも引用するとUSAの2014年のCPM平均数字はケーブルテレビ$15.1、ストリーミングTV$24.2、インターネットが$43です(Sqad; PR Newswire)。視聴単位でいうと、ネット広告がテレビの3倍以上の価格がついている。これが中国や北米で起きているデジタルシフトの中身でもあります。効率が良い分だけ高くなり、高くても元がとれるようになるのです。

優位性を失う広告代理店、二元軸展開のコンテンツホルダー

デジタル化は代理店の仕事自体も大きく変えました。TVやラジオのように広告の「枠」をもっているのがメディア。その枠を埋めるべく、営業・クリエイティブ・運用を使って広告主をサポートするのが代理店。本来はさやどり商売の代理店は労働集約的で、競争優位性をもたないはずの存在です。ところが日本の代理店は最大のマスメディアであるTVの成長に並走し、テレビCMの宣伝枠をある程度寡占していたところに強みの源泉があります。交通広告の代理店もそうでしょう。その代理店でしかその枠を買えないとなれば、代理店の立ち位置は限りなくメディアに近づきます。

以前の代理店の仕事は不動産ディベロッパーのようでした。会社でもっている土地・不動産のような枠自体のブランドを利用し、クライアントに出向いてクリエイティブなCMのプレゼンで出稿を獲得するといった営業獲得型のスタイル。ですが、デジタル広告は仕入れとなる枠が独占物ではありません。各代理店が次から次へと出稿を埋めていき、自動的にマッチングされる早い者勝ち・高い者勝ち。PCとにらめっこしながらバナーや動画を入り繰りし、何百もある出稿先のメディアと繋ぎこみながら、毎週のようにクライアント向けのレポートを送り、広告の成功・失敗を議論する運用型の取引。オペレーショナルエクセレンスを目指して時間と人を投入するかという代理店の仕事は店舗マネジャーのようなサービス産業になったのです。代理店の中では「デジタル蟹工船」とも呼ばれています。こうした泥沼のサービス競争に陥らないために、代理店は枠の独占契約に執着します。2011年Facebookが上陸したとき、16年Spotifyが展開されたとき、電通がその広告枠の独占販売権を獲得しようとした背景は自社のTV広告枠の強みを再現しようとしたからにほかなりません。

こうした時代にあって、コンテンツ側として広告をどう使っていくべきか。これは「違う機能として2つとも使っていく」ということだと私は理解しています。ツールに習熟し、代理店に労働集約的な作業を外部化しながら、ターゲットをピンポイントで獲得し、そのプロセスを最適化していく「広告運用」。ただピンポイントであるがゆえに、デジタル広告には「広がり」の限定性があります。皆一斉に見せるのでなく、選ばれた人にだけ見せていくからです。

音楽業界でライブが活性しているように「体験とシェア」という意味ではマス向けアナログに優位性があります。デジタルがツールとして先鋭化すればするほど、アナログは広告そのものがコンテンツとなって共体験を喚起し、二次利用される(シェアしたり、話題にのぼったり、「流行っている感」を出す)部分に特化していくことになります。デジタルには分析力と高頻度のジャッジが必要ですが、アナログにはストーリーづくりと投資勘が必要になります。クリエイターがアナログとデジタルで異なるスキルを要求される時代ですが、マーケターもまた同様なのです。


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中山 淳雄

ブシロードインターナショナル社長​。リクルートスタッフィング、DeNA、​デロイト​を経て、バンダイナムコスタジオでバンクーバー、マレーシアで​新規事業会社設立後、現在​シンガポールにて日本コンテンツの海外展開中。東大社会学修士、McGill大学MBA修了​、早稲田大学MBA非常勤講師​。​著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。