なぜ「普通の人」がアイドルアニメに夢中になるのか | 世界でエンタメ三昧【第54回】

二次元アイドルコンテンツ大戦国時代

 「アイドルマスター」「ラブライブ!」「バンドリ!」といった2次元アイドル市場が大活況となっています。アニメ・ゲームでは基本的には女の子達しか出てこない、主に学園系のコンテンツが大量生産されており、またそれは海外で受け入れられています。「ふつうの友人」と話をすると大体において「ラブライ…ブ?なんか聞いたことはあるな」という反応。絵を見せてみると、あーこれねオタク系ね、と一刀両断。でも普段ゲームもやらずアニメも見ない彼らが「知っている」こと自体が世界の変化を表しています。ニッチでオタク系と称されるアイドル系すらも、そうした位置づけから脱したガンダムやドラゴンボール、エヴァンゲリオンなど「古典」アニメと同じ道をたどっています。

 アイドル系の一つの特徴として「声優が前に出て、音楽ライブやイベントに露出し、CD・DVD・グッズで収益を立てる」といったものがあります。「バンドリ!」はそこに「声優自身が楽器を弾く」という+αがついています。アイドルの一般化に芸能界の存在は大きいです。00年代にモーニング娘⇒AKB48⇒乃木坂46と形成・熟成されてきた日本のネオテニー(幼児性)型の集団アイドルグループ活動は(ダンス・歌のプロフェッショナル性が高い韓国とは真逆で、むしろ「素人らしさ」がポイントになる)、確実にアニメ・ゲームのポップカルチャーに根付き、開花したのです。「ラブライブ!」の第一世代の声優グループu’sは2015年に紅白歌合戦へも出演、「ラブライバー」は流行語大賞にもノミネート。そして先日第二世代のAqourもまた2018年末の先日の紅白歌合戦に出演しました。


 アイドル系コンテンツの魅力はその収益性の高さにあります。図1をみると、いかにニッチでありながら、他コンテンツを寄せ付けない収益力をもっているかがわかります。「ワンピース」は900万人のユーザーが1人あたり1500円使うことで年間150億円の経済圏が出来上がっています。「アナと雪の女王」は年間300円と少額だが1600万人もの広いユーザー層まで浸透し、50億円の市場。ただ日本におけるキャラクター市場で考えると、嵐やSMAPのように600万人が年間6000円使う男性アイドルコンテンツのほうが、前者の国民的キャラの2倍以上もの市場が出来上がる。そうした中で驚くべきは、アイドルマスターやラブライブといったアニメ・アイドル達の市場です。これらは200万人程度のユーザーがコンサートやCD・グッズにと年間2万円消費することで400億円以上もの商圏を形成しており、それがファンの濃いジャニーズ系や、国民的アニメともいえるガンダムや仮面ライダーの商圏規模も抜いてしまうのです。なぜこんなにユーザーがのめり込むのでしょうか?

キャラクターの世界に入り込む

 そもそもキャラクターを流行させて商圏をつくるマーチャンダイジング市場の始まりは手塚治虫の「鉄腕アトム」でした。1952年から10年以上にわたって雑誌で書き溜めたアトムを、大赤字で制作しながら1963年に史上初の週間アニメ放映を実現します。それが明治製菓のマーブルチョコにメインキャラクターで登用され、売上は1961年から3年間で3→30→58億円と20倍規模まで爆発的に膨らみます。まだキャラメル全盛時代に、新規のチョコという菓子市場はパッケージのアトムキャラとともに浸透していったのです。こうしてキャラクターをブランド化させて商品展開で儲ける「キャラクター市場」が出来上がります。

 60年代に玩具・お菓子だったものが、70年代に模型・プラモとなり、80年代にマンガ雑誌・アニメとなり、90年代にはアニメ・映画・ゲームに、00年代にはアニメDVD・ゲームへ派生して「どのメディアでコンテンツを語り続けるか」のパイプラインを変えてきました。その時代時代の語り方にあわせてユーザーはストーリーとキャラクターを消費します。90年代後半からの数十年はずっとアニメが中心であり、そのアニメから展開されるグッズやゲーム、ライブなどによってユーザーのコンテンツ世界への紐づきが強くなります。それは一昔前に毎週少年ジャンプで最新話を読み、平日友達とその話題に盛り上がりながら翌週を楽しみにし、ときにはクリスマスプレゼントでキャラの玩具をそろえて満足していた時代と同じことなのです。我々コンテンツ屋が鋭敏になるべきは、今ファンタジーを消費したいユーザーがどのメディア・チャネルを一番熱心に見ており、そのチャネルにあわせてどうやって語り方・浸透の仕方を変えていくかということなのです。

創り手も受け手も共有する「投資の失敗」

 スマホ時代における消費者は常に「投資の失敗」を気にしています。マンガもゲームもデジタル化・運営型コンテンツとなるにつれ、重いサービスコストを維持できない規模の売上だと、すぐにサービス終了告知でシャッターを下ろしやすくなっています。ガチャをいっぱいまわしたアプリが半年で運営終了、といったことも珍しくない中で、「消えモノにならない確かなもの」の価値がどんどんあがっています。それは実際にファン達が集まっていくライブコンサートやイベントもそうですし、キーホルダーやサイン色紙のようなコレクションアイテムも同様です。そのキャラの魂を司る声優自身というヒトも同様でしょう。

 「作っては消す」の新陳代謝が激しいデジタルコンテンツにおいては、消費者は自分が好きになったコンテンツが永続するものだという前提に「投資しがいがあるかどうか」を常に見極めるようになります。コンテンツの選択には、きちんと作品として維持し、ファンの需要を満たし続けるかという創り手側の覚悟がみられます。だからライブやグッズなど含めた全面的な展開のなかで「我々は好きになってもらった分、供給し続けます・面白いものを作り続けます」というメッセージを発信し、「ファンになってもらうこと」に応え続けます。

 ユーザーの体験を昇華させる最たるものが「ライブコンサート」です。1万人が集まる会場で、周りの人々が自分と同じ「推し」アイドルのグッズを身に着け、ライトセーバーを振り回しながら、演奏と同化する。アニメ・ゲームで体験してきた個の世界を全員で共体験するその感動は、宗教的な集団活動とも近いレベルでカタルシスをおこしてくれます。

 よくカードゲームにしてもモバイルゲームにしても「タダのものを高価に売りつける、いい商売ですね」というニュアンスを他産業の方から指摘されることもありますが、とんでもない!ヒット率の低さ、創り込むために必要な初期投資、浸透に必要なプロモーション、そういったものを加味すれば事業としての投資リスクはかなり重いもの。営業利益も業界全体の平均でも5〜10%と決して潤沢ではない水準になっています。なにより当たるか当たらないかわからない、でも最初から在庫リスクも含めて投資していかないとアニメで好きになったユーザーの手元に、そのタイミングに商品が届かない。だから我々は一発大きなコンテンツを、アニメを作る傍らで、ゲームの開発から商品の製造まですべてを一気に進めるのです。機を逃しただけでそのポテンシャルを失ったキャラクターコンテンツはゴマンとあります。だからこそタイミングが最も重要で、投資リスクが大きくなってしまうのです。

 アイドル系コンテンツについても、実はその清純なるストーリーの背景で、壮大なる投資と人力がかかっているものだ、ということがこれらの話から少しは伝わるのではないかと思います。少なくとも、こうしたコンテンツを立ち上げる「プロデューサー」なるものが、いかに多くの創り手・演者を巻き込み、無数かつ無限のコンフリクトの調整や決定の末にできあがってきたのかという過程を直接見守った人間として、無事立ち上がり「流行している」状態になったものに対する畏敬の念を、強く強く感じるようになった今日このごろです。


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中山 淳雄

ブシロードインターナショナル社長​。リクルートスタッフィング、DeNA、​デロイト​を経て、バンダイナムコスタジオでバンクーバー、マレーシアで​新規事業会社設立後、現在​シンガポールにて日本コンテンツの海外展開中。東大社会学修士、McGill大学MBA修了​、早稲田大学MBA非常勤講師​。​著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。