遺言書・相続に関するよくある質問集|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第7話】

今回は、私がセミナーなどでよく聞かれる、遺言書や相続に関する質問をまとめてみました。

Q1 30年前に遺言書を作って以来、更新していません。こんなに古い遺言書はまだ有効ですか?

 遺言書は、亡くなる前の最後に作ったものが有効になります。ただし、最後に遺言書を作ってから、かなりの年月が経っている場合、財産状況や家族関係に変化があったり、指名した遺言執行人や相続人が亡くなっていたりする可能性がありますので、定期的な見直しが必要です。 

Q2 「遺言書の見直しをしましょう」とありますが、遺言書の封を開けてもいいのですか?

 オンタリオ州では、日本のように遺言書は開封厳禁という決まりや習慣は特になく、遺言書は、好きな時に自由に取り出して見ることができます。ただし、遺言書は原本のみが有効で、紛失すると大変なので、金庫など安全な場所で保管しましょう。

Q3 私の最後の遺言書を作成した弁護士が引退しました。この遺言書はまだ有効ですか?

 遺言書を作成した弁護士の休業・引退・死亡にかかわらず、作成した遺言書は有効です。もし最後に遺言書を作成した弁護士が、その原本を保管しており、のちに引退していたことを知った場合は、オンタリオ州法律家協会Law Society of Ontario(lsuc.on.ca)に連絡し、その弁護士の遺言書を引き継いだ弁護士を探すことができます。 

Q4 自筆の遺言書やセルフキットで作成した遺言書は有効ですか?

 自筆の遺言書や、インターネットで無料でダウンロードできる「セルフキット」で作られた遺言書は、一定の必要条件を満たしていれば、法的には有効です。しかし、この節約のつもりで作ったセルフキットや自筆の遺言書は、ご本人が亡くなった後、内容が不明確であったり、有効性が問われたりして、遺産が訴訟費用に消えてしまうこがよくあります。また、家族法や不動産法など、関連する法律に配慮されていないために、後々問題が発生することがありますので、自作の遺言書にはリスクが伴うことを十分ご理解ください。

Q5 借金を残して亡くなった場合、相続人は借金も相続しますか?

 日本では、「相続は財産のリレーである」と考えられ、相続される財産は、資産も債務も全て相続人に移転します。一方、英米法体系であるオンタリオ州では、遺言執行人が遺産をいったん回収・現金化し、遺産の中から故人の税金・債務を清算した後、まだ財産が残っていた場合にのみ、相続人に分配されます。そのため、基本的に、相続人が債務も相続することはありません。ただし、共有名義の不動産のモーゲージは、生き残った名義人が残りのモーゲージを承継します。

Q6 カナダには相続税がないと言うのは本当ですか?

 カナダには、基本的に、相続人が支払う相続税はありませんが、インカムタックスという別の形で、政府に税金を納めることになります。カナダの税法上、故人は、死亡する直前に、所有していた全財産を処分したとみなされ、その譲渡益に対して、キャピタルゲイン(Capital Gain)が課税されます。また、年金やRRSPなど、財産の種類によっては、収入とみなされることで、所得税が発生します。さらに、オンタリオ州では、裁判所での遺言書のプロベイト手続きや、遺産管財人の任命手続きの際には、遺産価値に対して約1.5%の遺産管理税(Estate Administration Tax)という州税(通称、「プロベイト税-Probate tax/fees」)がかかります。

Q7 国外に財産がある場合は、カナダでの遺言書の作成に影響しますか?

 オンタリオ州外やカナダ国外に財産がある場合は、その財産の所在する州や国の法律に基づいて、遺言書を作成するのが理想的です。特に、州外・国外に不動産を所有する場合は、不動産所在地の法律に基づく遺言書を作成することをお勧めします。

 なお、カナダで作成した遺言書を使って、日本国内の銀行口座の解除や、不動産の名義変更などの手続きを行う場合、銀行や法務局が海外で作成された遺言書の対応に不慣れなことが多く、手続きがスムーズに行かないことがあります。また、両国での税的な対策も必要になりますので、日本国内に財産のある方は、日本の弁護士・税理士の助言のもと、日本の法律に基づいて遺言書を作成しておくと無難です。 

【おことわり】このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。


スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。