たかが遺言書、されど遺言書|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第13話】

 新年明けましておめでとうございます。今年も、本コラムを通して、皆様のカナダ生活に役立つ情報を提供できるよう努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

「遺書」と「遺言書」の違い

 さて、みなさんは、「遺書」と「遺言書」の違いをご存じですか。遺書は、生前の思いを伝える手紙のことで、法的拘束力はありません。一方、遺言書は、死後に残された財産の処分について指示する書類で、法的拘束力があり、遺言書の作成は立派な法律行為です。そのため、遺言書は、あなたが生前築いた財産の処分を可能にする非常にパワフルな書類なのです。 その一方で、「たかが遺言書に弁護士を雇うなんて」と思われる方もいるでしょう。

 そこで、今回は、弁護士を利用せずに作成する、自作の遺言書とその注意点についてお話したいと思います。

オンタリオ州で認められている遺言書の形式

 

 オンタリオ州で法的に認められている遺言書の様式にはいくつかありますが、一般的には二つのタイプがあります。最も一般的なのは、「正式な遺言書」(Formal Will)と呼ばれるもので、本人と立会人(Witness)の署名以外は、全てタイプされており、一定の方式に従わなければ無効になります。もうひとつは、本人がすべて手書きで残した「自筆遺言書」(Holograph Will)の作成も認められています。

遺言書のDYIと注意点

①ウィルキットの利用

 書店や文房具店に行けば、いわゆるウィルキット(Will Kit)と呼ばれる遺言書の作成セットが安価で手に入ります。また、インターネット上でも、無料でダウンロードできる遺言書のテンプレートなどが豊富にあります。ウィルキットで作成する遺言書は、遺言書が有効になる方式の一定条件を満たせば、有効な遺言書となります。しかし、次のような問題がよく起こります。

・遺言内容が不明瞭で訴訟になった。
・立会人になることができない人が立会人として署名したため、遺言内容の一部が無効になった。
・遺言書が有効になるための方式の要件を満たさず、無効になった。
・ダウンロードしたのはアメリカの遺言書だった。
・印刷されているもともとの言葉に間違いがあった。

②自筆遺言書

 オンタリオ州では、自筆遺言書が有効となるためには、全てが本人の自筆であること、遺言書の末尾に本人の署名があること、そして書面の内容が、明確で最終的な財産の処分の意思を示していなければなりません。簡単で費用もかからない自筆の遺言書ですが、手書きで残された一枚の紙が「遺言書」なのか「遺書」なのかが争われたり、筆跡証明が必要になったり、作成時期と本人の遺言能力の有無を巡って裁判になったりと、後々面倒になることが少なくありません。

③赤字で手直しした遺言書

 一度弁護士のもとで作った正式な遺言書の原本に、相続人の名前を変更したり、線を引いて削除したりなど、ご本人が赤字で添削されたように書き加えられていることが問題になることもあります。遺言書の修正は、修正とは言えども、遺言内容を変更することになり、遺言書の署名と同じように、本人が立会人の面前で、修正を行わなければ、法的効力がありません。ご本人が一人で、遺言書原本に修正を加えた場合、修正内容の解釈と有効性を巡って裁判になることもよくあります。

こんな珍しい遺言書も

 ちなみに、「自筆遺言書」として認められためずらしい例で、世界的に有名なカナダの遺言書があります。1948年に、セシル・ハリスさんというサスカチュワン州の農家の男性が、農作業中に天候が急に悪化し、ストームに巻き込まれ、泥沼にはまってしまい、トラクターの下敷きになりました。もう助からないと思って、「この混乱の中で死んでしまったら、すべてを妻にのこす」と死の直前にトラクターに石で書き残しました。その後、このトラクターの一部が有効な自筆遺言書として認められるという判決がありました。

あなたの希望をかなえるために

 このように、自分で作った遺言書は、弁護士を使わなくても、一定の条件を満たせば有効になります。しかし、遺言内容の実現には、家族法・税法・不動産法など、相続法以外の法律が影響するため、専門家のアドバイスが必要になる場合があります。遺言書を自分で作る場合は、十分にリスクを理解して取り組んでください。

【おことわり】このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。


スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。