親子間の共有財産のリスクを知る|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第17話】

 「亡くなった後のプロベイトを避けたいので、家や銀行口座などの財産は、やはり子供との共有名義にすべきですか?」「子供と財産をジョイントにしておけば安心ですよね?」

 このような質問を日頃の実務や遺言状セミナーでよく受けます。今月は、成人した子供と所有する「共有名義の財産」(Joint Asset)についてお話します。  

JTWROS型の共有財産とは?

 銀行の預金口座、投資金、不動産など、夫婦間や親子間で広く利用されている共有名義の形態として、「生存者受取権付含有(Joint Tenants With Right Of Survivorship – JTWROS)」と呼ばれる共同所有権があります。 
 このJTWROS型の共有名義の特徴は、共有名義人の一人が亡くなった場合、残された共有名義人に共有財産の権利が自動的に移譲することです。例えば、ご夫婦が自宅不動産をJTWROS型で共同所有する場合、ご夫婦が生存中は、各自50%の所有権を持ちますが、仮に夫が先に亡くなった場合、残された妻に夫の所有権が移譲し、妻は100%の所有権を持ちます。 

JTWROS型の共有財産の利点

 本欄第9話で、「プロベイト – Probate」という呼ばれる裁判所での相続手続きについてお話しましたが、JTWROS型の共有財産の魅力は、名義人の一人が亡くなった後、プロベイトの手続きなしで、他の名義人が財産を相続できることや、プロベイトの対象にならないため、プロベイト税(オンタリオ州は遺産価値の約1.5%)を節約できることなどがあげられます。  

JTWROS型の共有財産のリスク

 前述のような利点から、JTWROS型の共有財産は、簡単な相続対策として、高齢の親と成人した子供との間での利用が広まる一方で、そのために生じる問題も増えています。次に、この親子間の共有財産を利用する際のリスクを「9つのD」としてご紹介します。 

①Disagreement(不調和)

共有する不動産を売却したり、モーゲージを組み直すためには、共有名義人の同意が不可欠です。もし親子関係に亀裂が生じた場合、たとえ家を売りたくても、子供の同意がないと家を売ることはできません。

②Disaster(大惨事)

財産を共有するということは、財産権の一部を子供に譲ることでもあります。共有名義人の子供が、親の口座(ジョイントアカウント)の預金を使い込む問題が生じかねません。

③Divorce(離婚)

共有名義人になっている子供が離婚する際、実質的には親が築いた財産が、子供の前配偶者との財産分与の対象にされてしまう可能性があります。

④Debts(借金)

共有名義人の子供が自己破産したり、多重債務を抱えた場合、その子供との共有財産が、債務返済の対象財産になることがあります。

⑤Disposition(処分)

通常、マイホームを売却した場合、その売却金にはキャピタルゲインが課税されません(Principal Residence Exemption)。しかし、すでにマイホームを持っている子供が親の不動産の名義人の一人になり、親の自宅を売却した場合に、キャピタルゲインの自宅免除権が全面的に適用されないことがあります。 

⑥Disability(障害)

共有名義人の一人が財産管理能力を喪失し、共有不動産の売却が必要になった場合、共有名義人の財産代理人や財産後見人が介入し、そのプロセスが複雑化します。  

⑦Dispute After Death(死後の争い)

親亡き後に残された共有財産は、生き残った共有名義人の子供のものか、それとも遺言書に基づいて子供たち全員で分け合うのかをめぐり、争いが生じかねません。死後の共有財産を誰に残すのかを書面で記録する必要があります。

⑧Disbursements #1(支出その1)

共有名義に変更するための費用、節約できるプロベイト税の額、共有名義にしたために生じる訴訟費用や予想外の税金の支払い、そして、紛争予防のための書面作成の費用など、共有財産を持つことは本当に得策なのか、コストの面でも検討する必要があります。

⑨Disbursements #2(支出その2)

もし子供が共有名義の不動産の改築・修繕のためにお金を使った場合、子供が親との共有不動産に対し、実質的所有権を主張することがあります。 

共有財産は本当に得か?

 このように、親子間での共有財産にリスクは付きものです。実際に、親子間での共有財産を巡って、親の死後に訴訟に発展することがよくあります。親子間で共有名義の財産を持つ場合は、専門家から税的・法的アドバイスを受け、共有財産についてご自身の意思を明確に書面で記録しておくことが重要です。

[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。

スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。