子育て世代のためのエステートプラニング|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第19話】

 今月は、「遺言書なんてまだ早い」と思いがちな子育て世代に焦点を当てた、エステートプラニングのお話です。 

子育て世代と「もしも」のための委任状

 身体的にもアクティブな、働き盛りの子育て世代。しかし、不慮の事故や病気は、年齢に関係なく起こるため、財産管理のための継続委任状(Continuing Power of Attorney for Property)、および身体の世話のための委任状(Power of Attorney for Personal Care)を作成して、生前の「もしも」に備えておきたいものです(詳細は本欄第2話)。

 例えば、事故で重度の障害を負い、財産を自分で管理できなくなり、主治医と話ができない状態になるとします。委任状があれば、財産代理人(Attorney for Property)がご本人に代わって、一切の財産・事務・法律行為を行うことができます。医療行為の判断は、身体の世話のための代理人(Attorney for Personal Care)が行います。
 一方、委任状を持たずに法的能力を失ってしまい、州政府の関与を避けたい場合は、裁判所での財産・身体後見人の任命が必要になり、残されたご家族へ精神的・経済的負担は計り知れません。そのため、元気なうちに委任状を作成する方が、はるかに簡単で安上がりなのです。

子育て世代と遺言書

(1)未成年者の親代わりを決める

 子育て世代にとって、遺言書は、遺産の行方について決めるだけのものではありません。万が一、夫婦ともに亡くなった場合に、残された未成年の子の親代わりとなる、未成年の身体後見人(Guardian of the Person)を誰にしたいかという希望を伝える手段となります。 
 オンタリオ州では、両親がともに亡くなり、未成年の子供が残された場合、両親の最後の生存者の死後から90日間の期間限定で、遺言書に任命された人物が未成年の身体後見人となります。その後は、裁判所から正式に任命を受けなければなりません。
 なお、遺言書による未成年者の身体後見人の任命は、あくまでも希望に過ぎず、法的拘束力はありません。最終的な判断は、裁判官にゆだねられますが、裁判官が未成年の子の最善の利益を第一に考える際に、両親の遺言書の内容を考慮することはいうまでもありません。 
 ちなみに、未成年後見人は、財産後見人(Guardian of Property)と身体後見人の二種類があり、遺言書の中で取り扱うことができるのは、身体後見人のみで、それぞれ別々の裁判手続きとなります。

(2)未成年者が相続人になった場合の対応

 オンタリオ州では、18歳未満の未成年者は、遺産相続を受けても、遺産金を直接受け取ることができません。特に、親が遺言書を残さずに亡くなり、未成年者が法定相続人の場合、その子供が18歳になるまでは、オンタリオ州の裁判所が遺産金を預かります。もし、相続人の教育費や生活費のためにお金を必要とする場合は、未成年者の財産権監督機関であるThe Office of the Children’s Lawyerへ申請し、裁判所の許可を得る必要があります。
 このような面倒な手続きを避けるため、通常は遺言書の中に、未成年者の相続人のための信託を設立します。この信託は、未成年者が18歳になるまで、遺産金を遺言執行人(もしくは指名した受託人)が管理し、子供の教育費や生活費などを信託財産から支払いを行うことができるように設定されます。 また、遺産金の最終受け取り年齢は、18歳以上の年齢に引き上げることも可能です。

生命保険・レジスタードプランの受取人が未成年者の場合

 生命保険やレジスタードプラン(RRSPやTFSA等)の受取人が未成年者である場合も、未成年者が受取人の場合、18歳になるまで裁判所で預けられることになります。これらの受取人指名は、遺言書作成とは違い、所定の用紙に記入するだけで済む反面、金融機関から未成年者ゆえに起こる問題を説明されないのが難点です。

 そのため、受取人を未成年者に指名する場合は、生命保険信託(Insurance Trust)と呼ばれる信託を設立したり、レジスタードプランの口座があえて遺産を構成するよう遺言書の中で対応したりと、専門家と相談し、対策を講じるとよいでしょう。 

ライフステージに応じたプランを

 このように、委任状や遺言書は、「終活」のためではなく、自動車保険に加入して車を運転するように、安心して生きていくための備えです。ご自身のライフステージに応じて、エステートプランを定期的に見直していくことが大切です。

[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。

スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。