ペットは相続人になれるか?|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第22話】

 ハリウッドのスターや世界の大富豪が亡くなり、遺言書の中で、残されたペットに大きな遺産をのこして話題になることがあります。残されたご家族のケアは、遺言書の内容を考えるときに考慮する第一の材料ですが、この「ご家族」の一員に、愛するペットが含まれる方も多いのではないでしょうか。今回は、飼い主の死後に残されたペットの対応について、エステートプラニングの視点からお話しします。 

遺言書の中で対応する

 生き物であるペットは、飼い主が亡くなった後も引き続きお世話が必要です。そこで、遺言書の中で、愛するペットについてどうするかを決めることができます。  

ペットは「財産」である

 まず、ペットの法的人格ですが、ペットは「財産」(Property)であり(厳格には、動産 – Personal Property)、個人や法人のように法的人格はありません。そのため、「財産」は他の財産を所有できないという理由から、ペットは相続人(Beneficiary)になることはできません。

 したがって、「私の愛犬ポチに2万ドルをのこす」や、「自宅は愛犬タマに相続させる」という遺言を残しても、そのような遺贈は無効になります。それでは、死後に残されたペットが心配な場合、どのような準備が必要になるのでしょうか。 

1.家族や遺言執行人にペットについて知らせておく

 自分に「もしも」のことが起こった場合に備えて、遺言書の保管場所、利用銀行の名前、不動産やモーゲッジについての情報など、大事な財産情報をまとめておくことは、残されたご家族や遺言執行人にとって、救いの手となります。

 ペットについても同様で、ペットの名前、ふだん預かってくれるペットの世話人、かかりつけの獣医の連絡先、ペットの食事時間や服用中の薬などについてもまとめておくと、残されたご家族は助かるでしょう。

2.新しい飼い主を指名する

 最も一般的なのは、遺言書の中で、家族や友人など、自分の信頼する人にペットを託す方法です。親の死後に未成年の子の親権者を指名するのと同様に、誰にペットの新しい飼い主になってもらうか指名することができます。ちなみに、遺言書を残さずに亡くなった場合、ペットも遺産の一部として、法定相続人に相続されることになります。

3.新しい飼い主に現金と一緒にのこす

 生き物であるがゆえ、ペットの世話には、飼育費や医療費など、何かとお金がかかります。そこで、遺言書の中で、新しい飼い主に対し、感謝のしるしとお世話のための初期費用として、現金を一緒にのこすのもよいでしょう。 

 私が過去に扱ったケースでも、遺言書を残さずに亡くなった方が、ペットを残されたことがありました。里親が見つかるまでのお世話代や医療費が必要になった際、ペットのための費用の支払いをいくつもの銀行にお願いしましたが、どの銀行もそのような支払いを聞き入れてくれませんでした。その結果、遺産管財人が大きな立て替えをしなければならなかったことがありました。 

 通常、遺言書を残さずに亡くなると、いったん故人の銀行口座は凍結されますが、自宅の光熱費や火災保険費、税金など一定の必要経費については、銀行が口座からの支払いを許可してくれます。しかし、ペットの世話費や医療費は、「遺産」の保全費用であるのは確かですが、実際問題として、銀行がそのような支払いを承諾するのは難しいようです。 

4.ペットのために信託(Trust)を設立する

 あまり一般的ではありませんが、愛するペットが生涯不自由なく生活できる資金を遺産の中から信託に入れ、その信託資金の管理をする受託人(Trustee)のもと、ペットのための資金を管理するという方法もあります。

 ペットは相続人になれないため、信託では、新しい飼い主を受益人(Beneficiary)として、資金の使い方について細かい条件をつけることが可能です。そして、ペットが亡くなった時点で、信託が終了します。

 このように、ご自分の死後、残されたペットのことが心配な方は、遺言書の中でペットのことを盛り込んで準備するとよいでしょう。

[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。

スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。