ファッションデザイナー 粟井 浩 Hiroshi Awai

日本人デザイナーが全米で仕掛けるファッション・ブランド「CREEP」

creep01


トロントを拠点に全米のファッション業界にそのブランドはじわりじわりと浸透しつつある。ブランド名は『CREEP』。メンズ・ファッションブランドだ。同ブランドの全てのデザインを手掛けるデザイナーであり、クリエイティブ・ディレクターを担うのはトロントに来て11年目の粟井浩さん。にスポットを当てた。

creep02「きっかけは音楽でした。DJをしたり作曲をしたりして音楽活動に力を入れていていたときに、自分の好きなスタイルに通ずるアーティストがたくさんいるのがトロントだと知って、『面白そうだな、よし行ってみよう』と思ったのです。」これだけ聞くと、一見ファッションやデザインなどとは縁のない生活かと思いきや、実は本来CREEPは、粟井さんのお兄さんによって1997年に大阪に設立されたものだった。
「当時、兄が手掛けていたCREEPは、もともと独自でデザインした女性ブランドを海外に発信し、それを拡散していくことをコンセプトとして数多くのブランドを海外に送り出してきました。それゆえもともと海外進出の基盤はできてはいたけれども、兄は今のビジネスを今以上にもっと海外に広めていきたいという考えをもっていました。そんな背景もあり2005年にトロントで生活していた僕に兄からCREEPのセールスに携わってみないかという話が出てきました。」
この話を粟井さんは快く引き受ける。自身にファッション業界の経験はなかったが不思議と不安や迷いはなかったという。新しいことを始めることができるワクワク感と、海外に自分が住んでいることで兄をサポートできるという喜びの方が大きかった。その後しばらく働いていくうちに、セールスだけでなく、生産管理にも携わるようになった。生産管理に携わる過程でどういうふうに生地を探し、そしてデザインをして製品を生産し、どのようなルートを通って出荷されるのかという全ての工程を自分の目で見て経験を積んだ。
「当時は毎日新しいことを学べることが楽しくてしかたなかったです。転機は2008年に全事業責任を担うデザイン・ディレクターとして兄からCREEPを引き継ぐことになりました。今までとても楽しかったのですが、“全責任”という言葉がのしかかった時、初めて不安に襲われたのを覚えています。全くデザインの経験もない僕にデザイン・ディレクターなどができるかと…?と。でもここで後戻りすることもできない。今まで培ってきたもので全力投球していこうと思いました。」

粟井さんと息子さん。

粟井さんと息子さん。

しかしデザインができなければ話は始まらない。せめて基礎的なことはできるようにしようと思い、粟井さんはGeorge Brown Collegeでデザインのコースを履修することにした。そしてコースを修了後、Annexエリアの自宅に小さなデザインスタジオ『CREEP』を設け、デザイナー・粟井浩としての人生を始まめることになる。

「とても楽しく仕事していましたよ。だけどやはり初めは試行錯誤の連続でした。最初の頃は“デザイナーのエゴ”みたいなものが出てしまっていたんですね。『自分がデザインしたんだ!』って自分を誇示することで得られるわずかな満足感のために、格好をつけて余計なデザインまで足してしまうことが多々あって、本当に反省の繰り返しでした。」

しかし数多くのデザインを手がけるようになり、気持ちに余裕ができるとそこには“気づき”があったそうだ。

「初めからエゴやプライドを押し出すよりは、余計なことは考えず、ある程度必要な要素をデザインに組み込んで、あとは見てくださる人の判断に任せる。そうすると不思議と自然に『良いね!』『面白いね!』という反応が集まってきたのです。エゴやプライドで飾りたてられていない、ありのままの自分“粟井浩”が描く自然体なデザインに価値があること、エゴやプライドを全面に押し出すだけでは人の支持は集められないということを、周りの人たちが気づかせてくれたのです。これは、やりたいようにやっていた初めの頃には決して気づけなかった大きな学びでした。」

謙虚さの中に垣間見える粟井さんの力強い意思と、飾らない自然体な人柄が、シンプルでありながらさり気なく個性を主張するCREEPブランド。CREEP by HIROSHI AWAIのデザイナーになり来年で4年目。「現在CREEPの洋服をカナダやアメリカなどキーとなる店舗で取り扱ってくれているので、今度は百貨店などの大きな店舗などで置いてもらうことが目標です。あともう少し大きいことを話すと、ランウェイでショーもしてみたい。そしてどんどんCREEPという名前を世界に広めて行きたいですね。良いお話があればどんなことでも挑戦してみたいです!」

最後に現在奮闘する全てに勇気がでるメッセージをもらい、今回のインタビューを締めたい。

「先の将来に関係ないと思えることも、とにかく何も考えずにまずやってみるのが大事。そうすれば何らかの形で肥やしになって、後から必ず結果がついて来ます。」