映画「淵に立つ」深田晃司監督 インタビュー&舞台挨拶レポート

2016年カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞 受賞作品 『淵に立つ』

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本年度のカンヌ国際映画祭で、「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』の脚本・監督を務め、若手監督として世界中から期待を寄せられている深田晃司監督。今回、初のトロント国際映画祭への出品となった本作の製作背景や「映画」に対する思い、気になる次回作についてなど、幅広くお話を伺った。

映画監督になろうと思ったきっかけを教えてください。

中学生の頃から映画が好きで、結構な量を見ていました。でも、映画を作ろうと思う機会はなかったです。むしろ、小説や漫画を描きたいという思いの方が強かったですね。でもその考えが変わったのが、大学生の頃に東京のミニシアターで映画学校のチラシを見た時です。その時に初めて、映画を作る方に回れるのだと知って、その映画学校に大学とのダブルスクールで通い始めたというのがきっかけです。

原題である『淵に立つ』と英語のタイトルである『ハーモニウム』、それぞれに込めた思いを教えてください。

まず、『淵に立つ』というのは、劇作家の平田オリザさんから聞いた言葉です。芸術家というのは、いわば崖に向かって突き進んでいっているようなものだと。芸術を作ろうとしたら、それだけ人の心の闇をのぞき込まなければいけない。だから、崖の際に立って少しでも闇に近づかなければならない。ただ、作家や表現者自身がその闇の中に落っこちてしまったら、そもそも表現も何もかもできなくなってしまう。そうならないように、淵のギリギリのところで踏みとどまる理性を保ちながら、いかに闇をのぞけるかが大事なのだ、と。

この作品自体が、そのように闇をのぞく崖の際になればいいなと思い、このタイトルを付けました。しかし、英語版タイトルの方は、インターナショナル・セールスを担当していただいているmk2という会社の方に、淵に立つという言葉に対応する英語が無いと言われまして…。そこで、3、4つ提案していただいた中で、このハーモニウムを選びました。なぜかというと、映画の中に象徴としてでてくるオルガンを指しながら、調和という意味のハーモニーとしても捉えることができるのが、家族の不調和を描いているこの作品に対して、皮肉っぽく響いて面白いのではないかなと思ったからです。

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『淵に立つ』は家族について描かれていますが、そのテーマで映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

実はこの物語を書いたのはもう10年前なので、はっきり覚えていないのです(笑)。 しかし、カンヌ国際映画祭の時にも、なぜ日本では家族をテーマに描かれている作品が多いのかと訊かれました。ヨーロッパなどでは家族の映画よりカップルをテーマにした映画が多いようなので。そこで、やはり日本社会においては良くも悪くも伝統的な家族制度というのが強く残っているからだと答えました。

カップルであった男女も、子供が生まれた途端に、男性は父親としての社会的役割、女性は母親としての社会的役割の中に納まってしまうというのが日本にはまだありますからね。そういったことから、『淵に立つ』も含めて僕の今までの作品にも共通してあるのは、人間の本質的な孤独を描きたいということです。

今後の展望を教えてください。

次の作品はインドネシアのバンダ・アチェを舞台にした青春映画になる予定です。そこはスマトラ沖地震の津波で最大の被害を受けた土地なのですが、その津波の記憶と日本の東日本大震災での津波の経験をすり合わせるような映画を作ろうと企画しています。日本人のキャストと現地のキャストが半分ずつで、言語を超えた作品になると思うので楽しみにしていてもらえると嬉しいです。

TORJAの読者にメッセージをお願いします。

僕は、映画にいろいろな国に連れて行ってもらっているのですが、やはり海外へ行くことの面白さは、自分が住んでいる日本という国を相対化して見られるし、自分自身の価値観をどんどん崩していけるというところにあると思います。なので、日本を飛び出して外国で暮らしているというのはとても羨ましいですし、日本にとっても重要な存在だと思うので、そういった方々に島国である日本をどんどん切り開いて国際化していってほしいなと願っています。是非、頑張ってください!

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このインタビューの翌日9月14日に、Bell Lightboxにて『淵に立つ』が初公開され、上映前と上映後の舞台挨拶に登壇した深田監督。素晴らしい俳優陣と共に素晴らしい映画を作り上げられたおかげで、今この北米最大の映画祭であるトロント国際映画祭に来られていると感謝の言葉を述べた。その後のQ&Aで、観客から向けられた「この映画は罪と罰を描いたものなのか。」という質問には、「よくそういう風に言われます。私は八坂というのは1つの暴力の象徴だと考えていて、それは例えば災害と言い換えてもいいと思います。

日本だと、2011年に地震と津波という大きな災害に見舞われました。それによって多くの方が苦しみましたが、果たしてそれは誰かの罪と罰なのでしょうか。私はそうは思いません。ただ、人間は生きているうちにいろいろな理不尽な暴力にさらされます。しかし、それを自分の罪だと、誰かの罰だと考えてしまう。それ自体が、人間が抱えている弱さの1つだと思っています。そういったものを表現しました。」と、映画へ込めた思いを強く答えていた。


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『淵に立つ』映画紹介

小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた家族。そこへ、夫・利雄(古舘寛治)の昔の友人である前科者の男・八坂(浅野忠信)が現われる。その日から、彼らは奇妙な共同生活を送りはじめ、初めは戸惑っていた妻の章江(筒井真理子)も八坂の礼儀正しさに心を開き始める。しかしやがて突然に、ある出来事をきっかけに八坂は残酷な爪痕を残して姿を消す。

8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから八坂の消息をつかむが、それによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。夫婦とは、家族とは、愛とは、何なのか。見る人すべてにそう問いかけながら、人間の心の奥底を揺さぶる独創的で革新的な衝撃作。



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深田晃司監督

1980年、東京都生まれ。『ざくろ屋敷』(06年)より映画監督としてデビュー。『東京人間喜劇』(08年)がローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭などに選出。『淵に立つ』の構想から派生した『歓待』(10年)が東京国際映画祭「ある視点」部門作品賞。『ほとりの朔子』(13年)が仏ナント三大陸映画祭でグランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。長編第5作となる『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞。2012年よりNPO法人独立映画鍋に参加し、代表理事を務めている。