グルメの王様のおしゃれ美食道 第45回
「美食家の三ツ星レストラン(2)」
エピキュアーの究極ランチョンも後半に入りました。フランス料理のコースには無くてはならないチーズの登場です。手慣れたボーイさんがテーブルの近くに、美味しそうな沢山のチーズを持ってくるお馴染みの光景の筈なのですが、ここエピキュアーはちょっと違いました。写真をご覧頂くとお分かりのように、ここまで素晴らしいプレゼンテーションを見せられると、本当に唖然ですね。大昔親しい品川ホテルパシフィックで、フランスの著名なシェフの会食イベントに出席した際、何種類ものチーズがお皿に盛られて来ました。てっきりその中から選ぶと思いきや、全てがデザートでびっくり。料理長始め周りのスタッフは知り合いばかりなので、流石に残せずに無理やり食べてしまい、後で苦しい思いをしたことを思い出しました。
さて、待望のデザートの登場です。1つは主役に白桃を持って来ましたね。桃のデザートが出ると、もし相手がレディーの場合、必ず「ピーチとは米語で美人のことなんですよ。このデザートは貴女にぴったり!」などとよくふざけます。フレッシュベルベンヌのシャーベット、それに生姜・アーモンド・そして赤スグリが添えられます。もう一つはフランボワーズ。フランス料理ではよく使われる食材ですね。それに生姜・メレンゲスフレ、爽やかなライムとココナツミルクを混ぜて加える繊細さに感服しました。
その後近年のお菓子の主流となったマカロンが、これまた見事な演出で登場。唖然シリーズ第2弾です。このお伽の国のお家のようなケースに他のチョコレート菓子と共に出されるのですからもう有頂天ですね。
これらの抜群のデザートの作者は、天才肌のローラン・ジャナン氏。東京のホテルでもフェアーを開くほどの親日家です。調理場に招かれ、本当に気さくな彼と日本語で冗談を言い合うとは思っても見ませんでした。食事を終え再び綺麗な中庭を散歩すると、大きな白い猫が芝生の上でのんびり昼寝をしていました。その名もファラオン、会いませんでしたがもう一匹がクレオパトラ。エジプトカップルでしょうか。とても慣れていて昼寝中ではありましたが、カメラを構えると顔をこちらに向けてくれました。間違いなく世界一のグルメネコちゃんでしょう。
極上のランチョンを終え帰路につく時、心に強く思った言葉がありました。それは「一事が万事」です。それは、一流の料理というものは、立派なキャリアを誇る一流のシェフによって創られる。そしてその料理を最大限に生かすお店のサービスも、きちんとした教育を受けたスタッフによる一流のおもてなしである。それにそのお店の食器も内装もハイセンスで一流。更にそれら全ては一流の場所(ホテル)にある、ということです。そしてそこには、いつも私が強調するレストランで最も重要な、一流のお客様達の存在がある…。この何から何までが、2番大切なのです。
辻下忠雄 エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー) 1947年東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴59年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。