急増する銃犯罪…モザイク化が進むギャング抗争と無差別銃事件。その背景と解決策に迫る|特集 カナダライフBEFORE AFTER

昨年はエコノミスト誌が世界でも有数の安全な都市に選ばれたカナダ・トロントが今アブナイ!?
銃撃による死亡者数は前年比53%増、銃撃事件は13%も増加中。

昨年エコノミスト誌に世界でも有数の安全な都市に選ばれたわれらがトロント。それは社会的環境やインフラなどが揃って高いレベルにあるからこそだ。しかしその住みやすいはずのトロントに異変が起きている。7月22日の午後10時にもダンフォース・アベニュー沿いにあるギリシャ人街で男が拳銃を乱射する事件が発生した。その結果犯人が死亡しただけでなく、女性2人が死亡、13人が負傷してしまった。いま何故、こうした銃撃事件が起きているのか、トロントが抱える闇に迫りたい。

この夏急増した銃事件にデータで迫る

 6月末からカナダデーの連休にかけて「発砲事件」の文字をニュースやSNSで見なかった日は無いほど、ダウンタウンとGTAにおいて銃を乱用した事件が後を絶たなかった。折角のカナダデー連休もあらゆる場所で銃事件が発生し、楽しいはずの休みが悲しいニュースにあふれたものになってしまった。2018年の折り返し地点を過ぎた現在、殺人事件被害者は52人にも及び、その内、27人は銃事件によるものとなっている。昨年の同時期に比べて発砲事件件数自体は2倍以上、それに加えて、死亡者は50%も増加している。

 4月に起きたバン暴走事件による影響も含め現在の殺人事件被害者率はその人口比に外挿すると、なんとニューヨークシティーをわずかに上回っているほどだ。今年の銃犯罪はノースヨークからヨークビル、フィナンシャルディストリクトまでもはやトロントの隅から隅までにおいて発生しているのが事実だ。

 ここでトロント警察が発表しているデータを見ていただきたい(表1)。


 7月14日時点で、2018年の発砲事件件数は昨年を越え、死者も含めた被害者は既に昨年と並んでいる。そして特に注目したいのは、特に銃犯罪の多いD31地区(表2)。


 この地区はヨーク大学周辺、そして治安が悪いことで悪名高いJane and Finchも含まれている。こちらも年ごとの比較を見ても2018年折り返しの段階で2017年の結果に差し迫る勢いとなっているのだ。

 こうしたデータからもわかるように、これらの銃事件の増加は2005年夏に会った銃犯罪悲劇“Summer of the Gun”の再来を疑う声も上がった。一連の銃事件の中で最も残念なことは凶弾に倒れた被害者の方々は元々ターゲットにされていたのではなく、その多くが偶然その場に居合わせ、亡くなられてしまったのだ。

頻発する銃犯罪に潜むトロントの闇

 
 ではこれらの銃犯罪の原因とは何だろうか?それは単純な理由などではなく、マルチカルチュアル都市トロントだからこそ起きてしまう複雑な背景が隠れていたのだ。

人種差別が疑われCarding

 
 Cardingとは、何らかの個人情報を集めるために合理的な犯罪の疑いなしにランダムに警察が市民を止めて尋問することを言う。これが白人以外の有色人種、特に黒人が過度にその尋問のターゲットにされているため賛否が大きく分かれるものになっている。この行為が人種差別的であるとして前オンタリオ州首相キャサリン・ウィン氏の下、オンタリオ州全体で禁止されたのだ。しかしそれと同時に、このCarding禁止がトロントの銃事件増加に繋がっているのではないかという意見が出てきたのも事実だ。

 オンタリオ州ピール地域警察長ジェニファー・エヴァンズ氏によると警察による差別的な行為は許されないが、銃やナイフなどの武器を持ち歩く人口は増えており、犯罪者が今まで以上に簡単に武器を持ち歩き、犯罪を犯すことができる環境にあると述べた。

 一方でCardingの禁止が銃犯罪増加の直接的な原因であるという証拠がないという声もある。

社会格差と貧困地域からギャングのモザイク化が進む

 
 トロント市長のジョン・トリー氏は、トロントの発砲事件の75%以上が何らかの形でギャング関連であると述べているように、トロント周辺で起こる多くの発砲事件の背景にギャング縄張りやドラッグに関する争いのコンビネーションであるとした。銃事件の多くの被害者がギャングに関係しているわけではなく、銃を乱用する側がギャング関係者であることが多いのだ。

 犯罪学者スコット・ウォートリー教授によると“ギャング”の定義は非常に広いが、トロントでの“ギャング”は路上にたむろした若者たちのことを言う。それぞれのグループに名前やカラーがあることも多々あるが、当事者たちは自分たちのことをギャングとは呼ばないことが多い。

 しかし、20年前まではトロントのギャングは現在よりも大きく、統率が取れている組織だった。現在はその規模や何層もの若者を率いていくことが難しくなったことからトロントに存在する現在のギャングは大きくて50人から60人であるという。さらにトロント周辺のストリート暴力・犯罪に関わる約6千人の若者の大半が8人から15人程度の小さく非常に緩く組織化されたギャングに属している。トロントのギャング組織は各地域で発展し、関わる若者はその地域出身であることが多い。そうした若者は何十年も前に建てられた公営住宅プロジェクトなどによって都市部等から隔離された場所が殆どで、それらの場所では住人達もお互い知り合いであることからギャング組織に入ることも、抜けることも難しいのだ。

 公営住宅エリアが犯罪の温床になっているのは、これらが交通的に不便な場所にあり、貧困地域であり、社会的にも経済的にも最下層に位置する人々が集中しているからだ。車での交通量も限られているため、警察にとってもこのような地域でのパトロールは難しく、課題の一つでもあるという。

それに加えて現在の銃規制の甘さを非難する声もある。トリー市長も最早誰もが銃をいくつも合法的に手に入れることができ、その後銃がどこへ行ったかといったチェックも甘いと述べた。こうした制度の甘さからギャングメンバーたちが簡単に銃を手に入れることができるのだ。

安心・安全な街トロントに戻るための施策とは

最近はトロントで警察をよく目にする ©GTA Emergency Photography on Visual Hunt

 トロント警察署長マーク・サンダース氏は有罪判決を受けたギャングメンバーが再びトロントに戻るまでの期間を引き延ばすために刑を厳しくすることに賛成の意を示した。同氏によると、銃犯罪で逮捕された人々が何事もなかったかのように短期間で元居た場所に戻り、再び犯罪に手を染める姿を目の当たりにしてきたと言う。

 既に実行されている施策としては、有罪判決を既にされたことがある人は再度銃犯罪で告発された場合、保釈が許されないことはオンタリオ州で決定している。警察の人手不足を解決するためにも170人から200人の警察官を新たに雇用するなどして市も対策を行っている。こうしたことに掛かる費用のためには計1500万ドルの資金提供も発表された。

 長期的な対策としてはギャング問題の根幹である社会問題を解決することだ。確かに警備増強は一時的な銃犯罪の解決になったとしても、根本的な銃犯罪の問題解決にはならないのだ。

 スカボローに住むZero Gun Violence Movementの創設者ルイス・マーチ氏は、トロントは、二つに分けられた都市であることを市長も市民も認識するべきであるという。例え名前が似ていたとしてもローズデールとレックスデール、ハイパークとリーゼントパークに住むことは全く違った経験であり、片方の地域では貧困が蔓延し暴力が日常茶飯事と言っても過言ではない地域である。そして他の地域の人々がこのような地域を話題にする時は今年のような銃犯罪など暴力が急増し他の地域へも蔓延した場合のみであることがほとんどで、このことからこれらの地域の住民は同時に汚名を着せられ、見捨てられたように感じるという。

7月25日 ダンフォース・ストリートで行われた
追悼式(#DanforthStrong)には千人以上もの人が参列した


 根本的解決策の一つとして、国からサポートを受けた若者とギャングの関係を切り離すことを目的とした試験的プロジェクトが既に行われている。その対象にはトロントのいくつかのコミュニティーが採用され、300万ドルの投資を基にして、13歳から24歳の300人を対象に社会復帰を図り、その内の3分の2の参加者がプログラムを完了した。今後もこれらのプログラムは政府から1200万ドルの支援を受け、若
者や地域を対象にしたプログラムなどに投資される予定である。

 過去の例を見ても今年の銃犯罪急増がこのまま一年続く可能性は低い。かといって、市民も政府もこの問題を軽視することは非常に危険だ。解決の上で重要になってくるのはただ対策を行うのではなく、加害者を知ることである。
多くの加害者が若者であることからも、同世代の視点をさらに取り入れていく必要があるのではないだろうか。警察が犯罪・暴力の危険性にあるコミュニティーへ歩み寄り、力を合わせ、政府は特定の地域での差別や隔離問題、コミュニティサービスや教育制度の改善など深く根付いた社会問題解決に全力を注いでいくことが今求められている。