国際作家祭(IFOA)阿部和重さん&川上未映子さん

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カナダを中心に世界各国から多数の近代文学の作家たちが招かれ、トークセッションイベントなどを開催する国際作家祭(IFOA)が10月24日~11月3日に渡って開催された。今年は日本から作家の阿部和重さん川上未映子さんがゲスト参加し、会場であるハーバーフロントセンターにて行われた各種イベントに参加。第1回目の講演会には川上さんが他国の作家たちと登壇、議論を交わし、第2回目にはヨーク大学のテッドグーセン教授を交え、阿部さんと川上さんがともに登壇。加えて第2回目講演会と同メンバーによるイベントがジャパンファウンデーションでも行われた。
阿部さんと川上さんはご夫婦で、さらに夫婦揃って芥川賞受賞作家という業界でも稀有なカップル。今回はジャパンファウンデーションでのイベント前にお二人同時インタビューの機会を得たので、今イベント参加の感想に加え、互いの作品に対する印象や創作風景を伺った。

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1.IFOAイベントで初の朗読を披露する阿部さん2.IFOA会場でイベント後にサインをする二人3.ジャパンファウンデーションのイベントでの質疑応答の様子4.各国からの作家たちと壇上にあがる川上さん


まず、IFOAでのイベント参加、お疲れ様でした。今回のイベントに参加されて、いかがでしたか?

川上さん:せっかくたくさんの作家が来ているのに、時間の関係でなかなか自分たちの参加イベント以外にほとんど行くことができないのがもったいないなと思いました。でもいくつかのイベント参加を通して、本来なら知り合うことのできないような作家と知り合うことができて嬉しかったですね。時間にしたら短いのですけど、世界にこういう書き手がいてこういう本を出しているということは、今回のような機会でもないと知ることができませんから、たとえ小さなことだとしても大事だなと思いますね。

阿部さん:僕は今回、彼女とは違って他の国の作家の人と一緒に壇上に立つということはなかったのですけれど、それでもパーティ会場などでカナダをはじめとした各国の作家の人たちの“顔”を見ることができたのは大きかったですね。実際、日本で生活をしていると外国文学というのは本という形で、作家の名前も文字として書かれた形でしか見ることしかありませんが、それを書いている人たちに触れることができたことで印象が変わりました。僕自身こういったイベント参加が、国内・国外ともに初めてで、イベントの最中におこなった朗読なども含め、初めてのことばかりだったのでしたが、とても楽しく貴重な経験ができたと思っております。

次に、お互いの作品から感じる作風や空気感といったものはどのようなものですか?

川上さん:日本には創作の歴史的な傾向として、個人の内面を描きつくすというのが大きな流れとしてあり、それは私小説などで、自分の半径数メートルの出来事を緻密に書いていき、そして内面を書いていって見事に乗り越えて自我を形成していく過程を描くといったようなものが多く、現代でもその傾向はあります。そういう中で“阿部和重”という作家は、彼にしか見ることのできない法則とかルールとかを浮き彫りにして、同じ世界を見ているのだけれども、まったく違う世界の可能性を描きだしていくとても珍しい作家だと思います。文体や文章、情報の組み合わせ方といったものもエレガントなのですよね。あまり阿部和重という作家をエレガントだという人はいないと思うのですけど(笑)彼の作品の一つに、下衆の極みとでもいうようなどうしようもない人間しか出てこない作品があるのですが、そういった作品でさえエレガントなのです。何かを極め尽くしたときに出てくるその逆のものがあるのだということを彼の作品から感じましたね。

阿部さんは川上さんの作品に対していかがですか?

阿部さん:私の場合はどちらかというと小説をリアリズムの範疇で収まる形に書いているというところがあって、現実に我々が生きる現実社会のような法則の中で起きていくような形で組み立てることが多いのですけど、川上未映子という作家の場合は、特徴としてイメージの力というのがありますね。彼女の作品には、完全に我々が生きている現実社会のルールから飛び越えているというような鮮烈なイメージが広がっていて、それは見たことがないようなものとしてのイメージであったり、言葉の組み合わせで表現しているというようなことがあります。さらにもう一つ、名づけのうまさがあると思います。彼女の小説では人物の名前やあだ名、現象や感覚といったものを名づけるセンスが圧倒的に優れているなということを感じますね。そういうところに僕自身、刺激を受けています。

“刺激を受けている”とお話にありましたが、その他にもお互いの作品に影響を受けているという感覚はありますか?

川上さん:お互いの作品を読んで、ということももちろんあるのですけど、やはり小説家同士なので、普段の生活の中でも話題として、ニュース一つに対してもそれに対する意見とかが出るのが日常的なのですよね。何かについて考えるといったことが改めてその場を設けなくても日常の中に常にある。どんなにくだらないことでもディスカッションが常にあるので、そういう影響も大きいと思いますね。彼との会話によって自分の考えがどんどんと伸びていくという体験もあります。それは時に疲れもしますが、一人で暮らすこと、また作家以外の人と暮らすこととまったく違う生活状況だと思いますね。

お二人は、別々の部屋で執筆なさっているのですか?

川上さん:実はみなさん驚かれるのですけど、同じ部屋なのですよ。

阿部さん:ですから、さらに常に緊張感が走っているような中で作業しているのですよ。日常でもフルに頭を回転させているようなものなのに、さらに仕事場も一緒で一つの大きなテーブルに向かい合わせで座り、パソコンのモニターがあるから顔は見えないのだけれど、ピリピリした空気だけは感じるという。彼女は書くのがとにかく早いので、こちらが詰まっているときにはそのキーボードを打つ音が聞こえてくるとプレッシャーを感じますね(笑)

川上さん:普段は、普通にお菓子とかも食べますよ。

阿部さん:でも、締め切り間際には緊張感がさらに高まるので、まるで家に受験生がいるようなピリピリとした空気が流れます。お互いの締め切りが重なることもあるのですが、基本的にはずれるようになっていますね。

川上さんの締め切りが終わると、次に阿部さんの締め切りがやってくると。

川上さん:今はそこに子育てが入ってくるので、二人だったら全然余裕なのですけど、子供が熱を出したりすると何もかもがストップしてしまうので、本当に綱渡りでやっていますね。

お子さんのためにも、そしてお二人の創作のためにも、早くお子さんが大きくなるといいですね(笑)

二人:(笑)