「触れ合うことの効果」| カナダ・トロントにある幼稚園の園長先生コラム。気付けば息子も大きくなりました…第91回

 私は多くの人から「いつも元気で、バイタリティーがあって、楽しそうで良いね〜。悩みなんて無いんじゃないの?」と、よく言われます(笑)。でも、実はこんな私でもうまく行かなくて、落ち込んだり、苛立ったりもしますし、溜息交じりに職場から家路に着くこともあるんですよ。

 ただ、強いて言えば、ストレスを溜め込んだり、イライラが長期化しないのは確かです。重い足取りで家のドアを開けた途端、数匹のわんこ達(我が家の子2匹とフォスター犬達)がものすごい勢いで玄関先まで駆けつけて来てくれて、我先にと顔を舐めたり飛びついて来たり。大袈裟な程の歓迎ぶりで出迎えてくれます。すると、さっきまでどんよりしていた気分など何処へやら。笑顔でわんこ達と戯れているうちに悪い出来事などすっかり忘れてしまっているのです。

 いやぁ、これはもう魔法としか言いようがありません。これこそが私のストレス解消法だなぁ、と思っていたところに犬と人間との絆について解説していたドキュメンタリーを見ました。

 〝愛情ホルモン〟または〝抱擁ホルモン〟と呼ばれるオキシトシンは、母と子の絆を強めたり、他人の気持ちを共有したり、社会的問題の解決能力を促進するホルモンとして知られていて、これは人と人のみならず、人と動物の関係にも深く関連しています。特に人と犬との間には、深くこのホルモンが関わっていて、触れ合うことで他のどの動物よりも双方共にオキシトシンの量が増加することが分かったというのです。

 オーストラリアのモナシュ大学のジェシカ・オリバ教授によると、例えばたった3分間、犬を優しく叩いたり話しかけたりするだけで、人間と犬双方のオキシトシンの血中濃度が上昇するそうです。

 同教授によると、犬好きの人が犬と接すると双方のオキシトシンの濃度が高まりますが、そうでない人が犬と接しても双方にそこまで濃度は高まらないということです。

 また不思議なことに猫好きな人が猫と接するより、犬好きな人が犬と接する方がオキシトシンの濃度は高まる様なのです。と同時に、動物が好きではない人は、動物と接してもオキシトシン濃度が高まらないことも分かっているそうです。そう考えると、犬好き(ちなみに私は動物ならなんでも大好きなんですけどね…)で犬を飼っている私には嬉しい情報であり、非常に納得出来る内容でした。

 昨年度、私は「生まれてすぐの赤ちゃんをたくさん抱っこすることが、その赤ちゃんたちの遺伝子に影響してその人の健康を、一生大きく左右する可能性が大きい」ということが遺伝子学的なレベルで医学的に証明されたとの旨、そして人間として基本とも言える人としての優しさやあたたかさ、信頼関係などを両親はじめ周りの大人を通して肌で触れ、感じ取って、それらを身につけると言われているので、生まれてすぐからの触れ合いがいかに大切であるか、を記事にしました。

 赤ちゃんや子供にしっかりと関わるためには「五感」を使い、それを養ってあげることが重要です。五感が刺激されると赤ちゃんの心身は活性化し、触れ合うことにより愛情ホルモン〝オキシトシン〟が互いに分泌することで、両親と赤ちゃん(子供)のお互いの絆・愛情が深まリます。触れ合いは、親子の絆を深めるための簡単かつ特別な技法(タッチケア)なのです。

 このタッチケアについて、親子や犬と飼い主などの関係以外、様々な医療の場面でも大きな効果をあげています。今では、痛みやストレスを抱える患者さんを対象に背中などをさすってあげる「タッチケア」を行っている医療機関が多くあるそうで、それによって認知症の徘徊が減ったり、血圧が下がるなど、触れることで出るホルモン「オキシトシン」の可能性は計り知れないと言われています。

 昔、私が日本の病院で働いていた頃、1日の初めに患者さんの元へ、バイタルサインを測りにベッド脇に行った際、必ず患者さんの手を握りながら目を見て話しかける様にしていました。当時の日本ではハグなんていう行為はもちろん、そんな言葉すら知られていなかった時代ですから、手を握る行為が私から患者さんへの精一杯のハグだったのかも知れません。でも、それでも十分だったんだ…と今更ながら嬉しく思っています。

 まずは身近で大切な人と肌と肌で触れ合ってみてください。きっと、それだけでお互いの気分が良い方向に変化するかも知れません。

池端友佳理

京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立、園長を勤める。