「怖いおじさんに怒られるから、しちゃダメ」 | トロントの日系幼稚園の園長先生コラム【第83回】

 先日、家族揃ってレストランで食事をしていた時の事です。近くのテーブルにグループで来ていたお客さんの子供達が店内を走り回り始めてしまいました。大人達は食事も終わって話に夢中。途中1人の子供が、両手にお皿を持って運んでいたウエイターにぶつかりそうになり、ようやくその子達の両親も気づき、注意を促しテーブルにつかせていました。

 息子の健人が「あれって、親がちゃんと見ていてくれないと本当に困るんだよねー。」と、自らもステーキハウスで働いていたことのある経験から言いました。その日はそのレストランでも子供用のアクティビティブックとクレヨンが提供されていましたが、子供達も時間が経つと座って何かをするのも飽きて来て、また子供が何人も集まったので嬉しくなってしまったのです。周りの人たちも文句どころか、嫌そうなそぶりもせず暖かい目で見ていたものの「こう言うシチュエーションって、僕が働いてたレストランでもそうだった。いつまでも親が注意しないと、子供達もだんだん調子に乗ってくるし、そうしたら周りの人たちにもうるさくなって来てやっぱり迷惑が掛かって、なんでお店のものが注意しないんだ、ってなってチップ減らされるかもしれないし…かと言って注意したらしたで、その子供の親がムッとしてチップ減らされるかもしれないし〜。どっちにしてもチップにかかってくる。」と、現実的な話をする健人。

「お母さんだったら、〝サーバーにぶつかってお子さんが怪我をされたら大変なので、座ってアイスクリームでも食べてもらおうと思うのですが、お出しして良いですか?〟って親に聞いてから、お店のマネージャーに説明して、アイスクリームを小盛りでも良いから出して大人しくしてもらうかなぁ〜。そしたら、チップも弾んでもらえるかも!」と笑って話しました。

「それはなかなか良いアイデア!そしたら、日本みたいに〝お店の人に怒られるから静かにしなさい。〟ってお店の人が悪者にならなくても良いね〜。」と健人が笑いながら言ったのを聞いて、変なところでびっくり。え?あれって、日本人独特の言い回しなのかなぁ。
 
 ナーサリーでも実はよくあります。「廊下走ってたら先生に叱られるよ〜!」と子供に注意する保護者達(笑)。公共の場で何気に登場する〝怖いおじさん(?)〟やバスの運転手さん。時にはおまわりさんまで話に出て来て「捕まっちゃうよ!」などなど…子供にとっては怖い人だらけです。しまいには「ママに見つかったら怒られるから、食べちゃダメ。」と、おじいちゃんおばあちゃんによるとママまで怖い人にされちゃうこともあります(笑)。

 でも、それでは実際、注意にも躾にもなっておらず、ある程度の年齢になると〝見つからなければしても良い〟という知恵がついて来ますし、それを肯定していることになってしまいます。

 きっと、お父さん・お母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも頭ではわかっていると思うのです。ただ、それをどう口で説明して良いのかが難しいのですよね。他の人に迷惑が掛かる、というのも漠然としすぎていて、子供にはそれが一体どう言うことなのか分かりにくいものです。

 例えば、ナーサリーの玄関先から駐車場に飛び出した時に「先生に怒られるから飛び出しちゃダメでしょ!」と怒る親はいません。飛び出すと車に轢かれてしまうかも知れず危ないから、と、それはいたって説明が簡単だからです。 

 廊下を走っているとぶつかって、自分や自分より小さな子も怪我してしまうかも知れなくて危ないから。ご飯の前におやつを食べるとお腹が膨れてご飯が食べられなくなってしまうかも知れないからご飯の後(明日)まで待つ。などなど、ちゃんと説明してあげれば納得してくれるはずです。

 また、公共の場で「大きな声を出さない。」と言う注意も子供にはわかりにくい時があります。「今こうしてお母さんとお話ししている声が〝お部屋の声〟だよ。叫ばなくてもちゃんと聞こえるよね。」と声の大きさやトーンを具体的に教えてあげれば分かりやすくなります。

 前述のレストランでの場面のように大人同士が夢中になり過ぎて子供が野放し状態も困りますが、子供の仕草や話っぷりは見ていて微笑ましく可愛らしい事も多々ありますから、危険でなく、周りに迷惑が掛からなければ、周りに気を使い過ぎて子供をがんじがらめにし過ぎる必要もありません。

 要は、怒ったり、叱ったりする人だらけの世の中を作ってしまうよりも、身近な人が優しく分かりやすい説明で躾してあげる方が子供にとって身につくという事なのです。あと…子供は何度言っても同じ事を繰り返すものです。なので、何度でも説明してあげてくださいね。


池端友佳理

京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。