「鬼から電話」 | トロントの日系幼稚園の園長先生コラム【第84回】

 前回号の記事で、子供が悪いことをした際に「怖いおじさんに怒られるからしちゃダメでしょ!」といった様な叱り方をする親(時にはおじいちゃん・おばあちゃん)が居る、というお話をしました。その後、その記事を読んでくださった方からとても面白い情報を得たのです。

「ちゃんと親が説明してあげないといけないって、分かってはいるんですけどね…。親の言うことを聞かないもんだから、ついつい他人さん任せ、いやアプリ任せになってしまって…。随分前になりますが、子供が言うことを聞かない時はもう、スマホアプリのお世話になっていたんですよ。」と。え?スマホアプリ?何それ??と、詳しく聞いてみたところ、日本で流行ったのは少し前との事なので、情報としては遅れているのですが、大変面白いものでした。ご存知の方もいらっしゃるでしょう。

 言うことを聞かない子供に鬼から電話がかかって来て「はい、赤鬼です。今日はどうしましたか〜?」と丁度良い具合に親の返事を入れられる様に間隔入りで鬼が話してくれます。

 スマホに入れたアプリには「言うことを聞かない時」、「寝ない時」、「歯磨きしない時」、「お片付けしない時」…等と色々なバージョンがあって、私も見せてもらったのですが、いや〜、声と言い、スマホの画面と言い、インパクトが強くてかなり怖いです!(笑)。子供の性格や年齢差などもありますが、3〜6歳くらいだと確実に効果があるでしょうね。泣きながら、言うことを聞くでしょう。

 このスマホアプリはお助け必要な親の圧倒的な指示を得ている様ですが、実は息子・健人が子供だった頃は似た様な事をしていたのを思い出しました。以前、私の兄はカナダによく遊びに来て健人をとても可愛がってくれていたのですが、健人が〝言うこと聞けないスイッチ〟ONになった時は私も手に負えず、さぁてんやわんやの大騒ぎ…と言うことが何度もありました。そんな時は、兄が街角で見かけた〝妖怪さん〟に電話し「健人くんが言うこと聞かず困ってます〜」と話した途端、健人はいきなり大人しくなり、素直に私たちの言う事を聞きました(笑)。今も昔も、言う事を聞かない子供が居る家庭環境って、変わらないのだなぁ、いや、どんどん進化しているのだなぁ、と何だか笑ってしまいました。
 
 「悪い子はいないかぁ〜!親の言う事を聞かない子はいないかあ〜!」の東北地方〝なまはげ〟も似た様なものだとネットに書いてあり、確かにそうだな、と思いました。あれは見るからに恐ろしい実物の鬼が目の前にいて、現実の世界で攻めて来ますから、子供はもう皆、可哀相なくらい恐怖に慄(おのの)きますよね。でも、なまはげの怖さの側にはいつも親の優しさが寄り添っているからこそであり、悪い事をしない様に忠告したり、してしまった悪い事へのお咎めを受けても、温かく見守ってくれる親が側についている、という安心感が子供心を救ってくれるのです。

 その反面、鬼から電話がかかるアプリも、私の兄が怖がらせていた〝妖怪さんへの電話〟も全く同じですが、使い道は注意はしないといけません。ただただ恐怖心を煽ってしまい、この怖い体験によって子供がトラウマになってしまったり、アプリやこの行動に頼ってしまってばかりいるために、本来の悪い事の本質が見えなくなってしまっては困ります。しつけと言う名の〝体罰〟に使われない可能性がないとも言えませんし、中には、逆に怖がる子供の表情や態度が可愛くて、ついつい何度も怖がらせてしまうと言った困った親もいるかもしれません。また、話してもわからないほど小さな子供には恐怖心を植え付けるだけで効果はありませんし、年齢が大きいと親の〝嘘〟を感じ取る様になってしまいます。

 あと、親の都合で鬼やお化けなどの怖いものを出してくるのも要注意です。例えば「ぐずぐずしてないでさっさと来ないとお化けがくるよ!」という一言も、してはいけない事をやめずに子供がふざけ続けて時間をとっている場合ならともかく、ひょっとすると自分のことを自分でしようと一生懸命になって時間がかかっている事があるかも知れません。成長の過程を妨げない様にみてあげる必要がありますよね。

 とにかく、子供というのは、言うことを聞かない時期があって当然です。親も、叱ったり褒めたり、あの手この手を考えながら共に成長して行くものなのです。気を張りすぎない様に、肩の力を抜いて長期戦で子育てして行きましょうね!


池端友佳理

京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。