「マシュマロ実験」 | トロントの日系幼稚園の園長先生コラム【第85回】

 先日、小さな子供を持つママさん達と話す機会があったのですが、その中のママの一人が、私が以前書いた記事の中で「オンタリオ州のデイケアセンター内にはスナックテーブルと言うものが部屋の中に置かれていて、お腹が空いた園児は好きな時に好きなおやつを好きなだけ食べて良い事になっているところが多い。」(注意:池端ナーサリーではしていません)と言う内容に大変驚いた、と言いだされ、そこからセルフコントロール(自制心)の話になりました。「オンタリオ州の子供達はマシュマロ実験があったとしたら、全員数分以内にマシュマロを食べちゃうかもしれないね〜(笑)。」と言ったところ、「マシュマロ実験って、何ですか」という事になり…知らない方もいる様ですし、面白いので今月のコラムで取り上げる事にしました。

 マシュマロ実験と言うのは、今からちょうど50年前、アメリカのスタンフォード大学で行われた実験で、対象は当時4歳の子供達186人。

 机一つ置かれた小さな部屋に連れて来られた子供達の前に実験者はマシュマロを一つ置き、「私は用事があるのでこの部屋を出るけれど、このマシュマロはあなたにあげるね。食べたかったら食べても良いけれど、食べずに我慢して私が戻って来た時にこのマシュマロがまだあったら、もう一つマシュマロをあげるよ。じゃあ、15分したら私は戻って来るからね。」

 そして、その間に取った子供達の行動を見てみるのです。美味しそうなマシュマロを前に、子供達はどうしたでしょうか?


 結果、3分の2の子供達はマシュマロを食べ、3分の1の子供達は我慢してそのままにしておき、2個目のマシュマロを手に入れました。食べてしまった子供達が待てた時間の平均は約2分。我慢した子供達は手で目を覆ったり、部屋の隅に立ったり後ろを向いたりしてマシュマロを見ないようにしたり、机を蹴りだしたり、自分の髪を触ってみたりとなんとか気を紛らわそうとする子供もいました。

 そして、この実験の結果の追跡調査で分かったのがマシュマロを食べた子よりも、食べなかった子の方が
・学業成績が良かった
・学校や家庭で行動上の問題を抱えている率が低かった
・大学進学適性試験のスコアが平均して210点高かった

などと、セルフコントロール(自制心)や我慢強さなどの性格が、実生活では非常に重要、人生の成功にはIQよりもセルフ・コントロールのほうが重要ということが明らかになっている…と言うのです。
 
 あ、ちなみに、私自身に置き換えてみて、私が目の前にマシュマロを置かれた子供だとしたら、間違いなく、実験者の姿が見えなくなった途端、食べているタイプの子供だと思います(笑)。目先のことにとらわれ、後先考えずに行動する(これは今も変わらないかも知れませんが)…なので、我慢できた子供達が本当に偉いな、と尊敬すらしてしまいます。何よりも、我慢する行動の中で自らの意識をマシュマロからそらす術(思考の転換)を見つけ、時間を過ごすのですから、その時点で将来有望!と言うのが目に見えています。

 この実験の後の後。最近では被験者(子供達)の背景をより複雑にして実験を重ね、益々多くの事が分かって来たそうです。結果、最新の研究で示されたのは、2個目のマシュマロが得られるかどうかは「子供(家庭)の社会的・経済的背景」にも左右されるということ、そして「子供たちをとりまく環境は、その後の子どもたちの人生にとって最も重要である」という事なのです。

 やはり、子供達が持って生まれた性格もさる事ながら、子供のために周りの大人が環境を整えてあげる事が大切という事ですし、自制心を養う環境や知識も大人が与えてあげられるのは確かです。

 子供達は年齢と共に自制心も養っていきますから、前述の様にカナダのデイケアセンターで実践されている〝好きな時に好きなおやつを好きなだけ食べる〟事に抵抗があるわけですが、我慢できないタイプの私であるからこそ、自制心を養う環境を与えてあげる事の大切さを感じるのです。子供の社会的・経済的背景など、変えてあげられない要素もあるかも知れませんが、せめて変えられる環境だけでも整えてあげられれば良いのではないかと思います。でもそれは、物事に関して歯を食いしばって耐える・我慢する事を教える訳ではなく、思考の転換が出来る子になってくれれば良いな、と思う訳なのです。


池端友佳理

京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。