富士フイルム 米国本社社長 山元正人氏&富士フイルム カナダ社長 近藤道夫氏 インタビュー

「撮る、飾る、残す、贈る」写真を楽しむ魅力が詰め込まれた『Wonder Photo Shop』がトロントにオープン。
富士フイルムが提案する写真の新しい楽しみ方と新しい価値の創造を実現する「フォト・ルネッサンス」戦略について聞く。

長らくフィルム事業に携わっているお二人は写真の楽しみ方や可能性について、ふんだんに語ってくれた

長らくフィルム事業に携わっているお二人は写真の楽しみ方や可能性について、ふんだんに語ってくれた

グ・テープカットの模様

グ・テープカットの模様

Wonder Photo Shopのコンセプトを注ぎ込み新しく生まれ変わったAnnex Photo

Wonder Photo Shopのコンセプトを注ぎ込み新しく生まれ変わったAnnex Photo

写真フィルムの国産化を掲げ、1934年に創業した富士フイルム。以来、80年の歴史の中で培ってきた経験と技術を武器に、デジタル化の進展によって急速にフィルム事業が縮小するという逆境を乗り越えきた。

近年は、再ブームが訪れた〝チェキ〟の多機種化やスマホと連動した〝チェキプリンター〟といった商品戦略に加え、お気に入りの写真を形に残す為のフォトブックやカレンダー等のプリントサービスなど、写真で遊ぶ楽しさを存分に詰め込んだ『Wonder Photo Shop』を世界的に展開、トロントにも同じコンセプトの店舗をローカルの写真店とコラボレーションし、今年8月にオープンをした。

今回TORJAでは、『Wonder Photo Shop』の生みの親でもある、米国本社社長の山元正人氏に写真業界の歴史や未来、今後の更なる世界での展開についてお話を伺うとともに、カナダでの展開や事業などを、今年8月に新たにカナダの社長として赴任した近藤道夫氏と今回のプロジェクトに大きく関わっている遠藤祐樹氏にもお話を語ってもらった。

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現地にある写真店とコラボレーションした『Wonder Photo Shop』トロント店のオープニングレセプションを先ほど終えられましたが、感想をお聞かせください。

山元氏:本日はカナダにいらっしゃる多くのお客様、ビジネスパートナーの皆様方に大勢ご来場いただき、非常に嬉しい気持ちです。新たなコンセプトの店舗がオープンすることに対して、皆様から高い関心を寄せられている証だと思います。皆様には大変喜んでいただいたようですので、良かったなと思っています。

近藤氏:今回オープンする店舗は、トロントに昔からあったローカルのお店とコラボレーションをする、という新しい形を実現しました。弊社が運営してきた『Wonder Photo Shop』とはまた一味違った色を出していけると思っていますし、今後もさらに良いものにしていきたいと想いを新たにしています。

カナダも含めチェキは大人気の商品となっていますが、ブームの背景にはどのようなことがあったのでしょうか。

山元氏:チェキが最初のピークを迎えたのは、発売開始から数年を経た2000年代前半で、当時は日本を中心に人気が出ていました。その後数年でピークは収束してしまうのですが、2007年に韓国のテレビドラマ内にチェキが登場したことをきっかけに、アジアの10〜20代の若い女性を中心に再び人気に火がつきます。

2013年頃からはブームは北米、ヨーロッパの若い世代にも広がっていき、昨年には販売台数500万台を記録しています。なぜ若い世代でこんなにも人気が出たか、という点ですが、彼らは写真を撮影した後、プリントをするという習慣を知らない世代であったことに大きな要因があるかと思います。彼らにとっては、撮影後すぐにプリントされて写真がリアルなモノとして出てくるということ自体が驚きであり、新鮮なこととして理解されたのだと考えています。

近藤氏:チェキは余白に何らかのデコレーションを施せたりすることで、たとえ1枚でも非常にクリエイティブなものが出来上がります。そうしたクリエイティブさが「新たなもの」として捉えてもらえているのだと思います。

山元氏:現代はSNSなどを通じて瞬時に画像等を共有することができますが、そこにはモノとしての立体感がありません。その点で、チェキはモノとしての立体感があり、さらに自分自身で自由にデコレーションをすることでアートとしての面白さも味わえますし、出来上がったチェキを誰かに見せれば、そこにはリアルなコミュニケーションも生まれます。そういったコミュニケーションツールになる点も面白いのだと思います。
今回の新店舗を見学して、『Wonder Photo Shop』のコンセプトであるところの「撮る、飾る、残す、贈る」が非常に良く表現されていると思いました。もともと東京・原宿に最初にオープンした直営店ですが、どのようなきっかけ、タイミングで立ち上げに至ったのでしょうか。

山元氏:チェキの再ブームが一つのきっかけにあげられます。もう1点は、スマートフォンの急速な普及で、写真を撮影するという行為が多くの人にとって非常に身近になったことがあげられます。1台のスマートフォンに大体2〜3千の画像が入っているわけですから、画像や写真の楽しみ方をたくさんの人に共有することができれば、デジタル化以降、苦しい状況にあった写真業界で、もっと色々なことができるのではないか、と考えました。

ただし、我々が「このプリントシステムがあればこういうことができます」と業界に対して言っても具体性がありませんから、写真店さんは当然投資に至りません。それならば、我々自身が「こういった形でこういうサービスを提供すれば、お客さんが来る」というモデルケースを示すしかない、という結論に至りました。そこから多くの議論を重ねて誕生したのが、『Wonder Photo Shop』です。様々な形で思い出を残したり、飾ってもらうことで、人々の生活に写真がリアルなものとして存在し、その価値を再発見してもらえます。それを見て業界全体が「うちもやってみよう。」と共感し、業界全体がもう一度盛り上がることができれば、という思いがありました。

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今のお話にありましたが、フィルムからデジタルに移行していく中、写真業界が厳しい状況になっていくのを、御社は最前線で見てこられたと思います。時代の流れをつぶさに見つめられてきた、そのお気持ちをお聞かせいただけますか。

近藤氏:写真業界における近年の変化には、大きく2つの波がありました。1つは、デジタル化によるフィルム市場の落ち込み、そしてもう1つはスマートフォンの登場です。スマートフォンの登場で、人々はいよいよ画像をプリントしなくなりました。写真業界は益々落ち込んでいきましたが、今は写真の楽しみ方に様々な新しい形が出てきたことで、市場が再び見直されてきています。我々としてはこの機会を逃さず、「写真でこんなことも出来るよ」ということをお伝えしていきたいし、次々に新たなものを出していかなくてはならないと感じています。

例えば、マグカップやブランケットに写真をプリントするパーソナライズ化を打ち出すと、アメリカ市場では大変大きな反響がありました。落ち込み気味だった業界で新たな可能性を見出し、ビジネスチャンスを生んでいく、そういうところに醍醐味がありますし、我々がやっていくべきことなのだと考えています。

山元氏:写真店に関するとピーク時からは世界でも3分の1くらいに減ってしまったのではないでしょうか。逆に言えば、現在残っている個人経営のお店や、小規模展開のお店というのは、フィルムからデジタルへの移行期、そしてスマートフォンの登場に至っていく時代を生き抜いてきているわけです。写真のビジネスに対して、非常にパッションを持ってやってこられたのだと思います。そのような方たちが、何に気付いて次のビジネスを展開していくか、そのきっかけを我々が作っていかなければならないと思っています。

これまでの写真店はどちらかというと「待ち」の商売でしたが、今後はお店側から様々な提案をしていかなければなりません。写真の残し方、飾り方などの提案ができ、実際に実現できるツールがお店に揃っている必要があります。そのツールを、我々メーカー側がソリューションとしてお店に提供する。そこがマッチすれば、まだまだビジネスのチャンスはあると考えています。

また、私が思うに、写真のプリントビジネスというのは、お客様が自身で完成させていく、クリエイティブなものです。お客様が「やってみよう」と思わなければ、一銭もお金は払ってくれません。しかし、お客様が「やろう」と思える価値を見出せれば、高い料金を支払ってでも〝残す〟、〝飾る〟ことをしてくれるのです。

その価値を伝えるには、我々だけではなく、写真店さんを始め、業界の皆さんと一緒にやっていく必要があります。今回のようにローカルのお店が「一緒にやろう」と弊社に相談してくれたことはその点で極めて嬉しいことです。非常に時間のかかる仕事だとは思いますが、そのような形で業界へ、そしてお客様へ写真の価値が伝わっていけば良いですね。

山元氏はWonder Photo Shopの生みの親とのこと

山元氏はWonder Photo Shopの生みの親とのこと

新たな可能性を見いだし、ビジネスチャンスを見つけ、業界を活性させていきたいと語る近藤氏

新たな可能性を見いだし、ビジネスチャンスを見つけ、業界を活性させていきたいと語る近藤氏

今後、『Wonder Photo Shop』は世界でどのような展開を考えられていますか。

山元氏:主要国や主要都市においては、直営店を展開していきたいと考えております。それぞれの地で実際にお店を見ていただき、触れてもらうことで、その土地周辺の小売店さんに我々のコンセプトが伝わっていく形が理想的です。各店舗の品揃えや形状が多少違っても、「写真で人生を豊かにする」という同じ思いでお客様に接してもらえれば、世界中に共通のコンセプトが広がっていくと思います。

スマートフォンに素材はいくらでも入っているわけですから、写真店はその素材をさらに素晴らしく、いつでも旬な形で提供できる、いわばレストランのような存在になっていければと考えています。

近藤氏:今回のように、ローカルのお店から弊社に相談を持ちかけてくれる、という例は世界でも増えてきています。その流れの中で、トロントの店舗が理想の形だ、と思ってもらえる存在になることができれば、写真業界を盛り上げるきっかけになるのではないか、という思いを持って取り組んでいます。

フィルムからデジタルへ、そしてスマホへ…と変化してきた写真業界ですが、今後も技術の進化によるさらなる変化が予想される中で、写真にまつわる価値もまた変わっていくと思われますか。

山元氏:変わる部分、変わらない部分、どちらもあると思います。当然、技術の進歩により撮影の仕方、加工の仕方、送り方などに変化は出てくると思いますが、「撮る、残す、飾る、贈る」という楽しみ方、その価値は変わらないでしょう。そして、人間は本質的に、良いものが欲しくなる傾向にあります。

ですから、進化していく利便性、変わらない価値を通して、「より良いものを残す」という方向性が出てくると思います。例えば、弊社では壁アルバムという商品を出していますが、自分の家を高品質のプリント写真でデコレーションするなどの新たな形がブームになってきています。そうした新たな形を実現できる技術の進化は、当然必要です。先ほどのイベントでも話しましたが、私が言う「フォト・ルネッサンス」というのは、単に過去だけに戻れ、と言っているわけではありません。

「フォト・ルネッサンス」は、新たな技術を弊社をはじめとしたメーカーが提供した上で、本質的な写真の文化や価値を乗せ、更なる新たな価値をお客様に提供することで初めて実現可能となります。技術があり、変わらない価値があって、そこから新しいものが出来る。その点、弊社は技術だけではなく、その技術を駆使して新たな価値を生み出すところまでの方法を知っています。そこは我々のユニークな部分であると自負しています。

先日もチェキ愛用ブロガーを集めたイベントを企画・開催するなど様々な仕掛けをしている遠藤氏

先日もチェキ愛用ブロガーを集めたイベントを企画・開催するなど様々な仕掛けをしている遠藤氏

今回の新店舗はもちろんチェキの事業にも深く関わっている遠藤氏

今回の新店舗はもちろんチェキの事業にも深く関わっている遠藤氏

カナダでの事業についてお聞かせください。北米市場の中で、カナダ市場はどのような位置付けになっていくのでしょうか。

遠藤氏:カナダ市場は、アメリカ市場に比べると規模も小さい分、フットワークが軽く動けると感じています。その点を活かし、アメリカ市場では中々実現しにくいことを、ここカナダ市場で一歩先んじて色々とやっていきたい、という意識で取り組んでいます。

近藤氏:アメリカ市場とカナダ市場は重なる部分もありますが、「カナダ独自」の部分もたくさんあります。例えば壁アルバムですと、写真屋さんだけでなく、家具屋さんも新たな販売チャネルになる可能性がありますが、こうした新しいチャネルを開拓していく為にはカナダ独自の活動が重要になってきます。

山元氏:確かにアメリカ市場と比べると規模は小さいですが、カナダには独自の文化もありますし、ローカルのビジネスもたくさんあります。フットワークを軽く、という点はまさしくその通りで、カナダでは新しいことをどんどん始められる環境だと思うので、今後様々なことが出来るのではないかと考えています。

毎号貴社とのチェキを活用したコラボ企画には多くの読者の声が集まります。読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

遠藤氏:写真をたくさん撮っても、プリントされずにそのままになっているのはとても寂しいことだと思います。自分自身、子どもが生まれ、「この子の写真を残してあげたい」と思うようになりました。たくさんの人に写真を残す楽しみを知ってほしいので、ぜひ店舗に来ていただければと思います。

近藤氏:ご自身が持っている画像から「こんなものができるんだ!」という驚きを是非味わっていただきたいと思います。専門のスタッフもおりますし、様々なアイデアをご提供できると思いますので、是非、お店に足を運んでいただきたいと思います。

山元氏:日本発のコンセプトやソリューション、技術を日本企業である富士フイルムとして世界中に広げて、トロントやカナダ、世界各地にいる人に同じように楽しんでもらえる場の提供をしたいと考えています。その最初のきっかけとして、ぜひお店に来て楽しんでいただき、ご自身なりに写真を通して生活を豊かにしていただければ嬉しく思います。富士フイルム、頑張りますので、みなさま応援よろしくお願いいたします。



カナダ、米国を含めた北中南米を統括する山元氏

カナダ、米国を含めた北中南米を統括する山元氏

山元正人 プロフィール

1986年に富士フイルムに入社。プロフェッショナル写真部コマーシャルフォト課に配属。91年に輸出本部に異動、感材関係の海外担当となった。94年に米国に渡り、MITでMBAを取得。96年に日本に戻り、商品企画や『写ルンです』の海外生産拠点立ち上げに携わった。2000年3月にニューヨークへ。富士フイルムの米国現地法人に10年間勤務後、2012年6月にイメージング事業部長に就任。インスタントカメラ『チェキ』の世界展開や写真で人生を豊かにする『フォトルネッサンス』運動、『ワンダーフォトショップ』プロジェクトを推進しイメージング事業の業績をV字回復に導いた後、2015年6月には再度米国に渡りFujifilm North America Corp.の社長に就任。2016年6月からは米国ホールディングス会社Fujifilm Holdings America Corp.の社長にも就任した。



アメリカからカナダに赴任されて間もない近藤氏

アメリカからカナダに赴任されて間もない近藤氏

近藤道夫 プロフィール

1991年に富士フイルムに入社、磁気材料事業本部に配属、1998年に足柄工場生産管理部、2004年にはFUJIFILM Manufacturing USAに異動、インクジェットプラントの立ち上げに携わった後、2010年には帰国し、イメージング事業部海外マーケティング所属、2014年に米国に戻り、イメージング事業米州地域担当を経た後、2016年より現職。