カナダ トロント初訪問 鈴木 英敬三重県知事 特別インタビュー

ジャスティン・トルドー首相が「伝統とモダンが融合した美しい都市」と絶賛した三重県。
2016年の伊勢志摩サミット開催を経て国内外より注目を浴び続けている三重県鈴木知事のカナダ初訪問に迫る。

9月4日から9日、カナダを初訪問することとなった三重県知事、鈴木英敬氏。今回の訪問では、2020年に控える東京オリンピック・パラリンピックの事前キャンプ地誘致アピールや、三重県が産業の柱として掲げる航空宇宙産業、また児童福祉政策についての意見交換会などが行われた。

まだ記憶に新しい2016年の伊勢志摩サミットでは、ジャスティン・トルドー首相夫妻が世界の首脳陣の中で最も長く滞在したことも話題となったが、サミットによって得られたことや、グローバルにその名が知られるようになった三重県の今後の国際戦略や、カナダとの関係についてお話を伺った。

はじめに、今回のカナダ訪問の目的をお聞かせください。

大きく分けて四つの目的があります。一つ目は東京オリンピック、パラリンピックの事前キャンプ地誘致です。既にカナダの体操選手チームが三重県の四日市市で事前キャンプをしていただくことが決定しておりますので、さらにそこからレスリングやシンクロナイズドスイミング、伊勢で国内初の国際大会が予定されているボッチャ(ヨーロッパで生まれた重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツで、パラリンピックの正式競技)など、誘致競技を広げていきたいと考えています。

また、レスリングに関してはアテネ・北京・ロンドン五輪の金メダリストである吉田沙保里選手が三重県津市の出身ということもあり、是非とも誘致に力を入れたい競技の一つです。

二つ目は、児童福祉の政策を視察することです。カナダは国民の多様性を重視した国であり、子どもの権利を非常に大切にしている国なので、子どもの家庭養育推進官民協議会会長としてもカナダで行われている児童福祉政策を視察し、国内政策に反映させていきたいです。

三つ目は、三重県の次の産業の柱として航空宇宙産業を掲げていることから、モントリオールを中心とした航空宇宙関連企業の皆さんと意見交換し、今後の連携体制を整えることです。

そして四つ目は、伊勢志摩サミット時にトルドー首相にはプライベートでもご夫婦で三重県にご滞在いただいたのでその御礼と、来年カナダのシャルルボアで開催される予定となっているG7サミットの激励を述べに参りました。

三重県の魅力について熱弁する鈴木知事

現在カナダ訪問三日目となりますが、これまでの各省・協会訪問にて得られた成果などはいかがですか?

オタワでカナダのレスリング協会に足を運んだ際には、10月にオープンを控えている津市産業・スポーツセンター「サオリーナ」に対して非常に高い評価を受け、3月に視察をしていただける予定となりましたので、さらに事前キャンプ地誘致への働きかけを強めていきたいと考えています。グローバル連携省を訪問した際には伊勢志摩サミット時に受けた三重県民の歓迎に対し感動したとおっしゃっていただき、またジュニア・サミットにも関心を示していただきました。

モントリオールで行ったエアロモントリオールやCRIAQとの意見交換会では、三重県とアメリカのシアトルやフランスのヴァルドワーズ県などの都市間パートナーシップにも興味を示していただきましたので、今後モントリオールとも関係を築けるよう方策を考えていきたいと思っています。三日目ではありますが、非常に濃く、実りある訪問を行うことができていると実感しております。

イクメン知事としても知られる鈴木知事ですが、カナダの児童福祉や子どもの権利などで参考になった部分はありましたでしょうか?

子ども・青年サービス省とトロント大学を訪問し、児童虐待に対するデータベースを再発防止のためにどのように活用していくかという意見交換を行いましたが、児童虐待のケースをデータベース化、ビックデータとしてその傾向を分析し政策にフィードバックしたり、子どもの家庭の見守りに活かしていると知りました。行政という限られた予算の中で、効率的に子どもたちの成長や未来を守るためには、いかに問題を早期発見できるかということが大事になってきますから、カナダの先進的な取り組みを三重県の児童虐待再発防止策としても活かしていきたいと思いました。またオンタリオの子ども・青年サービス省コトー大臣とお話しした際も「私たちの取り組みは、すべて子どもが中心なのだ。」と何度も語気を強めておられたので、その姿勢にも感銘を受けました。

イクメン知事としても国内で表彰され、TORJAの育児特集記事にも隈なく目を通す鈴木知事

2016年に開催された伊勢志摩サミットでは、トルドー首相がご夫婦で三重県に滞在されたことで世界から大きな注目を浴びましたが、あらためて三重県の魅力をお聞かせください。

歓迎行事が伊勢神宮で行われトルドー首相をお迎えした際に、三重県の印象はいかがですか?とお伺いすると「伝統とモダンの融合する極めて美しい場所」だとおっしゃっていただき、まさに三重の魅力を一言に凝縮し表現してくださいました。三重県は伊勢神宮、世界遺産の熊野古道、忍者、海女といった伝統文化と、航空機や自動車などの最先端技術といったモダンな一面が融合しており、また美しい大自然も魅力の一つです。

私は一言で三重県を「日本の文化聖地」と呼んでいますが、目に見えない日本人の精神性の原点が溢れる場所だと思うのです。例えば、伊勢神宮はカナダの多様性と同じように、もともと人種・性別・宗教等を超えて人々を寛容に受け入れる神道の考え方が息づく場所です。他にも三重県の伊賀市出身である松尾芭蕉は「不易流行」という言葉を残しましたが、これは、いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくことという精神を表しています。トルドー首相のお言葉はそれらの本質をついた言葉であり、また夫人とともに初めてのサミット参加にもかかわらず非常にリラックスした雰囲気でご滞在いただけたことを大変嬉しく思います。

伊勢志摩サミット時には三重県の名産品の数々が振る舞われたと思いますが、各首脳の皆様を始めとする参加者の皆様の反応はいかがでしたか?

安倍総理からお伺いしたところによると、志摩観光ホテルの伊勢海老のクリームスープはとても評判が良かったようです。また松阪牛のステーキや鮑のポワレも評判が良く、カナダから来ていた記者の方からは「20年ほどサミットを取材しているが、これまでで一番美味しい食事だった。」というお言葉をいただきました。トロントには非常に多くの日本食レストランがありますので、三重県のお茶やお酒、海産物、水産物の加工品など、少しずつでも三重県の美味しい食をこちらでも味わっていただけるようになる活路が見出されればと思っています。そのためにまずはマーケット状況もしっかり視察し、信頼の置けるネットワークづくりから始めたいと考えています。

伊勢志摩サミットを経て、その後三重県にどのような経済効果や波及効果が見られましたでしょうか?

まず2016年の観光レクリエーション入込客数は過去最高の4189万人となり、観光消費額も過去二番目に高い数字を記録しました。そして海外の方にも三重県の素晴らしさがアピールできたことで、来年からコスタクルーズ社のコスタロマンチカやプリンセスクルーズ社のダイヤモンド・プリンセスという外国客船が四日市港に初寄港することが決定し、また外資系企業の誘致としては、ダンデライオン・チョコレート(サンフランシスコ)が日本で東京に続く2店舗目をオープンしたり、自動車向けプレス部品最大手のゲスタンプ(スペイン)の工場開設が決まるなど、海外の方に認知していただくための裾野が着実に広がっています。他にもトリップアドバイザーのデスティネーションアカデミーという海外の観光事業者が集う勉強会の実施や、観光庁が国連世界観光機関(UNWTO)と協力して実施する国際会議の三重県開催が決まるなどの波及効果が見られました。

何より一番良かったと感じていることは、伊勢志摩サミットを経て、県民の皆さんが自信を得て次なるチャンスを掴もうという意欲やモチベーションが生まれていることではないかと思います。一例ですが、インターナショナルワインチャレンジというお酒の国際品評会では、サミットの後では三重県の日本酒が前年比2倍の16銘柄入賞することができました。

サミットの影響を受け観光業が活性化されていますが、海外から三重県にやってくる訪日観光客も増えているのでしょうか?

関西・名古屋の宿泊が充実し、中国からの団体のお客様などがそちらのエリアへと流れつつあることで、トータルの数字としては若干減少してしまったのですが、G7各国からの宿泊客としては、対前年で64%増になりました。ちなみにカナダからのお客様は対前年で93%増という結果です。日本全体のカナダ人訪日観光客が対前年比20%増の中、三重県でそれだけの数字を記録できたことはありがたいことです。これからも観光の産業化のさらなる推進を目指し、人数だけでなく観光消費額に重きを置き、欧米の富裕層の方を中心に三重県を訪れていただけるような戦略を考えています。

一昨年にはパリで三重県と三重大学等の共催で「忍者セミナー」を開催したのですが、欧州や北米の皆様はパフォーマンスに着眼されるというよりも、忍者の指揮命令や普段の生活や食事など、非常に論理的なことを質問される方が多く、我々としても日本の伝統の部分にしっかりと興味をお持ちいただけているという実感と、またそれらの伝統をしっかりと深めていきたいという思いが湧きました。

今後のカナダと三重県の交流強化について述べる

非常に多くの結果を得ることができた伊勢志摩サミットですが、それらの遺産をこれからどのようにブランディングし、さらなる発展へと活かされていくのでしょうか?

観光をターゲットにお話しすると、先述しましたように富裕層の方や日本の伝統に興味を示していただける方を中心にブランディングしていきたいと考えており、他には国際会議等の誘致(MICE)、観光とゴルフを結びつけたゴルフツーリズムや昨年オープンしたアマンリゾーツにて長期滞在していただけるような方々をターゲットにした戦略を練りたいですね。また来年、外国客船が四日市港に寄港することで、県北部の観光も活性化できると考えています。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック、またその翌年には国民体育大会及び全国障害者スポーツ大会も控えている三重県ですが、今回のカナダ訪問を経て、カナダと三重県の関係をどのようなものにしていきたいですか?

トルドー首相が青少年担当大臣も務められていることもあり、各役所へと訪問した際には、青少年の交流を進めたいというお話しを皆様におっしゃっていただきました。カナダの体操チームが四日市市で事前キャンプを行うことが決まっているように、スポーツを中心とした青少年の交流、また航空宇宙産業でカナダとのパートナーシップが組めていけば、そのような分野に興味を持っているカナダと日本の学生らの交流などを進めていきたいと考えています。

最後にトロント在住の日本の皆様へメッセージをお願いします。

皆様、まずは三重県に一度ぜひお越しください。特に伊勢神宮や熊野古道といった場所は何かものを見る場所というよりは、〝感じていただく場所〟です。ご自身が置かれている状況によって、その時の感じ方も違ってくると思いますので、一度だけとは言わず、何度でも訪れていただきたいです。そしてこれから我々がトロントに三重県の食や日本酒などに代表されるものを広めていった際にはぜひご贔屓にしていただければ幸いですし、トロントの三重県人会も今回再発足していただいたことで、さらに三重の魅力を発信していきたいと考えておりますので、皆様のお力をお借りできればと思います。

カナダ体操協会のピーター・ニコル(CEO)とイアン・モス(ハイパフォーマンスディレクター)、カール・バリッシュ(コーポレイト サービス デベロップメント ディレクター)と面会し、四日市市とカナダとの交流について意見交換を行った。


カナダ連邦政府グローバル連携省を訪問し、ピーター・ビーム次官やアジア大洋州との連携を担当するサラ・テイラー次官補代理と面談。

鈴木知事から伊勢志摩サミットへのトルドー首相夫妻の来日に対するお礼を述べるとともに、今回のカナダ訪問の目的について説明し、特に航空宇宙産業を中心とした経済交流について、意見交換を行った。

在カナダ日本国大使主催の歓迎昼食会に出席し、東京オリンピック・パラリンピックの事前キャンプ地誘致への協力要請や、食の販路拡大、航空宇宙産業振興等におけるカナダと三重県の連携等について意見交換を行った。

カナダレスリング協会タマラ・メドウィスキー事務局長と面会し、津市産業・スポーツセンター「サオリーナ」での事前キャンプ地誘致についてPRを行った。

カナダシンクロ連盟ジュリー・ヒーリー(チーフスポーツオフィサー)と面会し、県有施設である鈴鹿スポーツガーデン水泳場への事前キャンプ地誘致についてPRを行った。

ギレーヌ・ロイ次官補とダン・スミススポーツ局長と面会し、三重県の事前キャンプ地誘致の取り組みについて、各競技団体に周知していただくよう依頼した。

倉光総領事及びモントリオール日本商工会の出席者からは、ケベック州はIT関連の人材育成に昨今、力を入れていることや、フランス語を公用語としているケベック州における多様性や、異なる文化を寛容に受け入れるケベック州の地域特性について体験談を交えた話を聞くとともに、若者の人材交流などについて、三重大学における人材交流の現状等について意見交換を行った。

ケベック州政府、経済・科学・イノベーション省のマルコ・ブレイン科学・イノベーション総局長と面会し、航空宇宙産業における中小企業に対する支援について意見交換を行った。

エアロモントリオール及びCRIAQ(Consortium for Research and Innovation in Aerospace in Quebec)と面談し、航空宇宙産業における中小企業に対する支援や人材育成について、意見交換を行った。

オンタリオ州の子どもの福祉政策を主に担っている子ども青年サービス省を訪問し、マイケル・コトー大臣と面談。

トロント大学ソーシャルワーク学部を訪問し、オンタリオ子ども虐待データシステム(Ontario Child Abuse and Neglect Data System: OCANDS)を構築し、分析、研究を行っているバーバラ・ファロン准教授らと面談。

トロント市で日本食レストラン向けに食材やアルコール類等を輸入販売するオザワ・カナダと、同市で寿司や刺身等の主に水産加工物の製造・販売を行うあづまフーズと意見交換を行い、カナダにおける日本食の情報収集を行うとともに、三重の食材や飲料等のPRを行った。

重篤な児童虐待事案に対して、多数の専門職が集まり、途切れのない支援、また予防活動を行っている ブースト子どもと若者のための権利擁護センターを訪問し、カリン・ケンディ氏らと面談。

オンタリオ州政府国際貿易省を訪問し、マイケル・チャン大臣らと面談。鈴木知事は、「今回の訪問では別行程で経済ミッション団もカナダに来ている。本県の中小企業が 航空産業のサプライチェーンに入っていけるよう目指していきたい。また、航空宇宙産業を視野に入れて、若者の交流を今後どのように進めていけるか前向きに検討したい。」と発言した。

オンタリオ州政府教育省を訪問し、ミッツィー・ハンター大臣から、多くの移民を受け入れてきたカナダの多様性と教育現場の状況について説明を受けるとともに、いじめ対策について、州をあげてのいじめ防止週間や積極的な取組を行っている学校への表彰制度、子どもからの電話相談を受けるヘルプライン等の施策について説明を受けた。

州政府が成立する以前から児童福祉分野で活動し、北米で最も古い歴史を持つ民間団体CASトロントを訪問し、デイビッド・リバード氏らと面談。児童虐待対応にあたっての基本ポリシーやトロントにおける児童虐待や社会的養護の現状について意見交換した。

宇宙空間で使用するロボット・衛星通信システム・自社の衛星を使ったデータ通信サービスをメイン事業とするカナダ最大の宇宙関連企業で、宇宙分野での技術を応用して医療現場等で使用するロボットを製造しているMDA(MacDonald Dettwiler Associates)を訪問。

トロント日本商工会及び三重県人会等現地関係者との意見交換の場として夕食交流会を開催し、現地関係者とのネットワーク構築を図った。