Hiroの部屋 旅人美容師 桑原 淳さん [中編]

Hiroさん(左)と桑原淳さん(右)


世界を旅しながら1000人の髪を切る」今まで誰もやったことのない偉業に挑戦し、見事目標を達成、現在は東京で美容室を営んでいる旅人美容師の桑原淳さん。今回はHiroさんと桑原さんが海外経験を経て感じてきた日本と海外の美容室に対する人々の意識の違いや、目指す美容室の形について語っていただいた。

Hiro:そうやって世界中で1000人のヘアカットをやっていく中で、何か自分の中での変化はありましたか?

桑原:海外に出る前はやはりそれぞれの国や人種に対しての先入観が多少なりともありましたが、髪を切らせてもらうとなった時に、本音で話してくれる方も多く、その中で人間一人一人をその国や人種のイメージでは一括りにできない、ということに気付かされました。また髪質の違いなど最初は少し不安もあったのですが、結局どんな髪色でも髪質であっても髪型であることに変わりはなく、やってみたら意外とできるんだ、という印象でしたね。

Hiro:結局〝髪は髪〟なんですよね。お客様が自分の施術に納得し満足してくだされば、それが〝答え〟であって。

桑原:あとはプロへの信頼性も非常に高いなと感じましたね。

Hiro:それも、とても共感します。カナダに来たばかりの頃、大して英語力もなかった自分にでさえ“You are professional. I trust you.(あなたはプロなのだから信頼していますよ)”と言われることが多々あり、もしも自分が逆の立場だったら、そんなことを外国人美容師に対して言えないだろうなと思ったのを覚えています。

桑原:そのプロへの信頼性があるため、お客様の思いを形にするだけじゃなくて、こちらも色々機能性やデザインなど提案させてもらえる部分が生まれるのは、こちらとしてもやっていて楽しいですし、出来上がりを見て「ありがとう」と言っていただけたことはすごく自信につながりました。

Hiro:ちなみに淳君が旅をしていた時のカット料は“It’s up to you.(お任せです)”ということだったようですが、あえて値段設定をしなかったのに理由はありますか?

桑原:そもそも初めは無料でカットしていたんですが、「自分の大切な時間やお金を使って学んできたことをタダでやってしまうのは違うのかな?」と少しモヤモヤが生まれるようになったんですね。でも、美容室のようにシャンプーやドライなどちゃんとした環境下や工程の中でできるわけではなかったこともあり、じゃあお客様に決めてもらうのが良いのでは?と思いついて始めたんです。あとはその方のお金のあるなしに関わらず、髪を切りたいと思っている方に施術をしたいという思いから、値段をおまかせにしてもらうようにしました。

旅先でのヘアカットの様子


Hiro:僕もグアテマラにスペイン語留学していた頃、少しだけですが淳君と同じようなことをしていたことがありました。やはり根底に髪を切るのが好きだ、という気持ちがあるからこそできることなのかなと思います。

桑原:そうですね。あと自分の中で一つ〝もらったお金は見ない〟、ということだけは決めていて、例えばある人は1円をくれて、またある人は1万円をくれた時に、それを見て感じることが違うような気がしたんです。お金目的でやっていたわけでは決してなかったので、そこはあえて見ないようにしていました。またお金ではなく、別のものを提供してくれる人もいました。観光案内してくれたり、食事やビールをご馳走してくれたり。逆にお金じゃないものの方が、自分にとって貴重で面白い経験ができた、ということがありましたね。

Hiro:“Up to You”は現在の淳君の美容室の名前にもなっていますが、そこに込めた意味や由来とは何だったんですか?

桑原:“Up to You”という言葉自体が好きで、「全てはあなた(自分)次第」と言いますか、何かをしたいなって思った時というのは、結局自分次第なんですよね。そして、僕は美容室っぽくない美容室を目指していて「カルピスが飲める美容室」と謳っているのですが、ここでの時間の過ごし方も〝あなた次第〟で、カルピスを飲んでもらったり、漫画を読んでゆっくりしてもらったりと自由に過ごしてもらえるようにしているんです。

桑原さんのサロン


Hiro:昔は美容室が髪を切る場所というだけでなく、近所の方がふらっと立ち寄って軽くおしゃべりができるような、そんな憩いの場のようになっていた美容室も多かったそうです。淳君とちょうど出会った頃は、僕もそんな美容室を目指せたらと思っていました。そういった目指す美容室のあり方も僕ら二人共、似ていますね。

桑原:日本はカリスマ美容師ブームのようなものも経て、美容室のあり方がどんどん変化してきているのだと思います。様々な国の美容室を訪れて感じたのが、自分はもっと庶民的で人間味のある美容室を目指したいなということでした。

Hiro:カナダにはまさにそのような雰囲気が漂っている美容室が多いと思います。トロントで最初に衝撃的だったのが、あの有名なヴィダルサスーンでさえ、当時TONI&GUY勤務中の若手だった僕がフラッとに行っても、接客中の美容師仲間がわざわざ僕に声をかけに来てくれたり、時には僕をそこに呼んで、その接客中のお客様を交えて会話が始まったりしました。逆に僕の仕事中でも、友人やお客様がたまたま近所を立ち寄ったからと遊びに来てくれたり。淳君がやっているように、日本にもそんな美容室が増えていくといいですよね。

次回はいよいよHiroさんと桑原さんの対談〈後編〉です。どんなお話が登場するのかお楽しみに!

(聞き手・文章構成 TORJA編集部)


桑原淳さん

日本美容専門学校卒業後、都内の美容院に勤務。2014年4月より「世界を旅しながら1000人のヘアカットをする」という目標を掲げ、世界一周の旅を開始。1年2ヶ月後の2015年6月、ペルーのクスコにて目標の1000人カットを達成。国内外のメディアに多数出演、2016年には著書『世界を知るために旅に出たら日本を知る旅だった』を宝島社より出版。現在は東京高円寺で美容室Up to Youを経営するかたわら全国各地で出張美容室を行う。講演会、執筆活動、イベント企画、居酒屋、ブログなど美容師以外にも様々な活動を精力的に行っている。オンラインの全国シェアサロンコミュニティ、サロカリ代表。
HP: junkuwabara.com


Hiroさん

名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。若い頃から憧れた、NYの有名サロンやVidal Sassoonからの誘いを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。1年目から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再び、トロントのTONI&GUYへ復帰。クリエイティブディレクターとして活躍し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今現在も、サロンワークを中心に著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。

salon bespoke Tel: 647-346-8468
130 Cumberland St. 2nd floor / salonbespoke.ca
PV: “Hiro salon bespoke”と動画検索