STORY.4 前田典子さん インタビュー [JCCC×TORJA]

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カナダ建国150周年そしてトロント新移住者50周年を迎えた2017年。TORJAでは日系文化会館と協力し、日系カナダ人の歴史とともに日本の文化・伝統などを継承しながら日系コミュニティを築いてきた方々にフォーカスを当て、過去・現在のストーリーと未来への想いを通して、さらなる日系コミュニティの発展に向けた意見を語ってもらう。



前田 典子さん

書道家として日系文化会館内のロゴ製作や文化クラスの講師を担当し、書を通してカナダに住む人々に本物の日本を伝えるべく活躍している


まずは、カナダへ来た経緯をお聞かせください。

私は日本では書道家、コピーライターとして働いていたのですが、カナダの学校などで日本文化を紹介するための文化交流プログラムの仕事のオファーがあり、初めは一年だけの滞在のつもりで8歳と10歳の子どもたちを連れてカナダへやってきました。カナダは異文化に対する姿勢が非常におおらかで快適に暮らすことができ、子どもたちもいろんなチャンスや可能性に囲まれた環境ですくすくと育っていたので、そのまま移住を決意し現在に至ります。

日系文化会館では書道のクラスを担当されている前田さんですが、どのような経緯でクラスがスタートしていったのでしょうか?

当時、日系文化会館に書道のクラスがなく、「書道の講座の講師を担当してほしい。」という依頼を受けて、書道のクラスを開講するようになったところから始まりました。現在はおかげさまで入会待ちの方が続出するほどのクラスへと成長し、生徒さんの割合で言うと三分の二は日系・日本人が、残りの三分の一はカナダ人が占めています。

生徒の皆さんに共通して言えることはいろんな形で日本に興味を持ってくれているということです。書道以外に生花や武道などをしていたり、日本の食べ物が好きだったり、その人によって様々です。中には小さい頃に字を書くのが下手だったなど、一種のトラウマのようなものを抱えている方もいるかとは思うのですが、まずは純粋に書の良さを楽しんでいただけたらいいなと思っています。

日系文化会館で日本文化の〝書道〟を伝えていく中で、何か感じられることはありますか?

他の場所でも書道のクラスは開いていますが、やはり我々日本人にはこの〝日系文化会館〟という場所を是非、有意義に活用していただきたいと思っています。日系文化会館には様々な世代や多種多様なバックグラウンドを持った方々が集まり、その方々の日本の文化の捉え方や解釈は非常に幅広くなっています。その中で、今ここにいる日本人として何を伝えられるのか、何を継続していけるのかを、日本人としての矜持を持ってこれからも書に取り組んでいきたいと思っています。

桜アワード受賞のデヴィッド鈴木氏に作品を贈呈

書道のクラス以外で日系文化会館とはどのような活動をされてきましたか?

日系文化会館内では例えば池田タワー、小林ホール、もと通り、森山ヘリテージセンターなどの各種サインの作成や、トロント日本映画祭のロゴとなった書の文字も私が担当しました。フォントの文字が当たり前になった現代において、書の醸し出す雰囲気はアイキャッチャーでチャーミング、また迫力があると思います。

例えば、小林ホールのサインの場合はマーティー小林の個性が出るように、またホールの汎用性も意識しながらできるだけオープンな明るい文字になるようにしました。森山ヘリテージセンターの「森山」の文字は完成までに一年を要し、初めはカタカナで書いたりひらがなで書いたりと時間をかけましたが、いろいろなプロセスを経て完成したものにはストーリーが必ずありますから、それを書を通して表現することができたのではないかと思います。

JCCCで行われた書道カナダ展での書のデモンストレーション

日系文化会館に対する想いを教えてください。

日系文化会館は日本の文化発信を多面的に行える、非常に大事なベースだと感じています。二十年ほどカナダに住んで感じるのですが、「相手を受け入れることのできる日本人のメンタリティ」と「主張しなければいけない北米人のメンタリティ」の違いは非常に大きいものです。どちらにも良さはあるのですが、ただただ受け入れてばかりでは自分の主張はできないですし、主張をすることは相手を否定することにもつながるなど、互いに弱みも含んでいると思います。全く違う二つの文化が共存している中で、この日系文化会館が両方の文化を理解し、受け入れることのできる基地であってほしいと思います。

前田さんが制作担当された作品の数々

これからの日系コミュニティに期待することはありますか?

文化にしても何にしても、まだまだ日本は発信不足だと感じています。日本のいいところはいっぱいあるのに、それを伝えきれていないのではと思うのです。日本の味、情緒、風情、四季の移ろい、文学、精神性など、数え切れないほど日本の良さはあると思うのですが、実際には日本の人々が十分にその良さを理解できていないことが原因なのかもしれません。

日本はとても歴史が長い国ですから、例えば風呂敷の包み方、お箸の使い方などの所作においても一つ一つ理由が隠されています。それらを表面的に捉えるのではなく、深く、正しく日本を理解することが必要であり、もっと日本人であることに誇りを持ちたいと思います。

最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

日系文化会館はいろいろな文化を学べる場所であり、例えば書道のクラス以外にも生花、茶道、剣道などのクラス、また最新の日本の映画の上映、日本からの各種のイベントなど多彩です。そういった様々な伝統的な日本の文化に触れて、〝本当の日本〟をこれからも継承していってほしいと心から思います。
www.norikomaeda.com/


トロント日系文化会館

(JCCC−Japanese Canadian Cultural Centre)
1964年に会館創立以来、お正月会や四季の祭りなどに代表される様々な文化プログラムを通して多くの人々に日本文化を紹介するとともに、日系カナダ人の歴史体験を伝え、学ぶ機会を提供している。
www.jccc.on.ca/jp/