メイドインジャパンでカナダを攻めろ!|美濃焼を世界へ 高木正治社長 トロント訪問インタビュー

和食の普及と料理人の海外進出に背中を後押しされ、海外での営業活動の本格スタートを機にカナダ・トロント市場開拓へ


器の町として知られる岐阜県多治見市で陶磁器の製造販売を行う「丸モ高木陶器」の代表取締役社長である高木正治氏が日本食市場が著しく成長するカナダ・トロントを訪れ、市場調査とともに美濃焼の素晴らしさや日本食と自社陶器のマッチング提案などを飲食業界関係者にマーカム市にあるZen Japanese Restaurantで行った。TORJAでは、丸モ高木陶器の代表取締役社長を務める高木正治氏に、精力的に海外活動を続ける原動力や故郷への思い、飲食器への情熱について伺った。
〈取材協力: Zen Japanese Restaurant〉

◆ 貴社の製品が誇る美濃焼は1300年もの歴史があり、日本の伝統を受け継いできた陶磁器と言われています。美濃焼の魅力、そして御社の歩みについて聞かせていただけますか?

焼き物の産地としては、日本は世界に類を見ないほど特徴があります。世界標準が白い土だとしたら、日本は茶色の土や黒い土がとれて、いろいろなモノづくりができます。もともとは須恵器の時代からですから、焼き物は最古の産業といえます。そんな好条件に恵まれて、焼き物の町、美濃ができあがっていったわけです。岐阜県は日本の中心に位置していることもあり、他の焼き物の産地よりも拡大した産地になったのではないかと思います。現在でも岐阜がすべての焼き物生産量の70%のシェアを誇っています。業務用で使われるようなものに関しては、それ以上のシェアになっていると思われます。

弊社は多治見市にあるのですが、1887年に創業し、今年で140周年を迎えます。モノづくりと卸売りの両方をおこなっていて、地元の職人のみなさんに助けてもらいながら、これまでの歴史を歩んできました。平成2年には宮内庁にも製品を納めることができたほか、平成9年に1つ目のショールーム、平成18年には2つ目をオープンさせ、日本最大の展示スペースを誕生させ、キッチンスペースも併設するなど、国内外から飲食業界関係者の方が見学に訪れています。

私自身は、学校を卒業したあと洋食器メーカーであるノリタケに就職し、経験を積みました。地元の岐阜県では和食器が盛んだったので、洋食器に関わる仕事をすることで、また飲食器の新たな側面を学ぶことができたと思っています。とはいえ、昨今は和洋中の垣根がなくなってきており、フュージョンやコンテンポラリー、トラディショナルなど、様々な要素を混ぜ合わせながら考えるマーケティングを念頭に置いています。

◆ 2013年から本格的に海外で営業活動をされるようになったとのことですが、どのようなきっかけがありましたか?

それまでも仕事で海外に足を運ぶ機会はありましたが、2013年に和食がユネスコ世界遺産に登録されたのは私にとって大きなきっかけになり、メイドインジャパンの我々の飲食器を世界に広めていこうと、海外にあるレストランに営業するようになりました。

海外で活躍している料理人はたくさんいますが、彼らは自分の腕一本で世界に出て行っていますよね。その生き様がまさにサムライのようで、以前からすごいなと思っていましたし、そういう方たちと話をすると想いが通じるところも多々あり、飲食器でシェフの方々をサポートしていきたいとお話してきました。また、もともとお付き合いのあった和食の名店が世界進出するにあたり、食材を日本から持っていくのなら、食器も日本から、という要望をいただいたことも世界を意識するようになったきっかけの一つです。

◆ トロントには初訪問だそうですね。印象はいかがですか?

今回、初訪問になるのですが、正直言うと大自然がいっぱいあるイメージだったのですが、ダウンタウンは賑わっていますし、不動産価値が急激に上がっているという話も耳にしました。それだけグローバルな街だということですよね。そして、やはりいろんな人種が集う街というのは食文化も多彩ですし、まだまだ成長していく可能性を感じますね。

◆ 欧米やアジアの各地によく足を運ばれていると思いますが、国やエリアによって求められる飲食器はそれぞれ異なるのでしょうか。

一昔前の日本では、提灯の下で料理を出される光景がありました。ドバイの和食料理屋などではあえて同じように料理を提供しているところもあります。日本人からすれば昔を思い出して懐かしいという感覚ですが、海外の人にとっては、それが分かりやすい日本料理の提供の仕方なのではないかと思います。かといって、分かりやすく古いものが必ずしも世界各地で受け入れられるわけではありません。何を古く、新しく感じるのかは人や場所によります。たとえ古いものだったとしても、その人の目に新鮮に映れば、新しいものと捉えてもらうことができるからです。昔からあるデザインでも、現代の人が知らないものというのもたくさんありますしね。

◆ 世界各地で様々な日本料理を見ている高木さんが考える和食の定義を教えてください。また、料理と器の関係性はどういうものだと考え、飲食器の提案を心がけているのでしょうか?

和食というのは日本人の技術とアイデアが詰まったものですし、定義できるとは思っていません。同じジャンルの店であっても、日本と海外では人気の出る店が異なる場合もありますから。そのお店の料理にマッチする飲食器の提案はもちろんですが、店側としては安い食器を使った方が、コストがかからないと言う方もいますので、そういう場合は、私からは、軽かったり、割れにくかったり、少しでもお客様のニーズを汲み取り、さらに質の良い飲食器を提案しています。

また、時代が進むにつれ、料理の過程がシステム化されているということもあり、この食材にどんな器が合うのかを料理人が考える機会も少なくなってきています。中には、料理で器を選ぶのではなく、器で料理や食材を決める料理人もいる一方で、どういった器を選んでいいか分からないという方がいるのも事実です。そういう人たちに対しては、積極的に一歩踏み込んだ提案をしていますね。そもそも、料理人が考える器の在り方と、私たちのような飲食器のサプライヤーから見た器の在り方は違っていると思います。ただ製品の写真をホームページに並べて「さぁ選んでください」というだけでは、あまりにも一方的です。器を売る側からもどんどん提案をして、料理と器の在り方を模索しなくてはいけません。実際はコストを抑えた料理だとしても、いい飲食器を使うことで総合的な価値が上がることもあります。とある日本食レストランの料理長に聞いたことがあるのですが、北大路魯山人の器を使うなら、同じ料理内容でも1万円上乗せすることができるそうです。それくらい、器はお店のコストに大きく関わってくるものだということだと思っています。

◆ 高木さんの海外での営業活動は、和食器を広げると同時に、日本食を世界に広めていくことでもありますよね。日本文化と欧米文化、和と洋の融合についてはどう思われますか?

日本に住んでいると、これは「洋」だな、あれは「和」だなといった線引きの感覚がはっきりしているなと感じます。ですが、国外では和食=アジア料理といった見方をされることも少なくありません。実際、ボーダーレスになってきている部分も多いです。なので、和食だからこの食器を使ってほしいというのではなく、和食器を進化させた日本製品を使ってほしいというのが正直な気持ちです。さらに言えば、和だから、洋だからといった固定観念にとらわれたくはありません。和食器の進化の可能性が洋食器の中にもあるとも考えていますし。

一番大事なのは、器がどこで作られたものかというよりは、どういったものなのかということですね。その器で料理を食べる人に語れるようなストーリーがあるかどうかが重要だと思います。

◆ 高木さんを海外での活動へと突き動かすものは何でしょうか?

焼き物の仕事に携わる若い人たちがどんどん減りつつある現況があります。地元では、家業だったとしても、なかなか売れないから跡を継がないという声も耳にします。ですが、今世界でこれだけ和食が支持され成長しているのも事実です。そのようなポジティブなことも知らなければ、目の前の注文量だけで売れるか売れないかを判断するしかありません。ですので、こうやって私たちの活動を示すことは、焼き物に携わる人たちのモチベーションを高めることにもつながるのではないかと希望を持っています。もちろん大前提として、焼き物の町に生まれた者としての使命感も感じています。「地元の名産品は?」という質問に対して必ず「美濃焼」という答えが出てくるのを聞くたびに、立派な産業だということを年齢を重ねるごとに実感するようになりました。

◆ 伝統工芸品をはじめ、日本生まれの優れたものが今後もっと世界中に普及し、繁栄していくには、どういった意識や活動が必要だと思いますか?

伝統工芸品がいかに素晴らしいものとはいえ、10個の注文に対応できても、100個の注文になると多すぎてその生産が難しい場合が多々あります。多くの方にその素晴らしい製品が届かなければ意味がないので、伝統技術を大事にしつつも、ある程度量産できるようにしていかなくてはいけません。ただ、そのために適した人材――たとえば美術大学を卒業した人を確保しようと思っても、彼らが弊社のことを知らなければなかなかマッチングは難しいのです。なので、今後はそういったマッチングを合理的に行っていかなければならないと思っています。また、人材を育成するために、休日には会社の「土」や「ろくろ」といったハードの部分を自由に使って好きな焼き物を作り、技術やインスピレーションをさらに磨いてもらえるような環境も整えていくつもりです。

また、最近ですが、オープンファクトリーも始めました。一般のお客さんに工場を来てもらい、製造のプロセスを見てもらうという見学ツアーを1週間に1度開催しています。大人の社会科見学という感じで、気軽に参加してもらい、美濃焼の素晴らしさを体感してもらえると嬉しいです。


(株)丸モ高木陶器/(株)センチュリー/(有)たかぎ工芸

岐阜県多治見市市之倉町にあり、平成2年には宮内庁にも食器を納めるなどの実績を誇る日本国内最大規模の業務用食器総合カンパニー。国内で最大級の規模を誇るショールームは、4万点もの陶磁器製の飲食器のほか、金属製の器やガラス製品などが展示されている。また、ショールーム内にはキッチンコーナーも設置されており、国内外から業務関係者の見学を受け入れている。2015年には東京浅草の商業施設「まるごとにっぽん」に地元美濃焼の窯元の食器や酒器などおよそ500点と展示、販売する直営店をオープンし、外国人観光客などで賑わっている。

高木正治(たかぎ・まさはる)

(株)丸モ高木陶器・代表取締役社長。和食文化がユネスコ世界遺産に登録された前年の2012年より、自ら海外に赴き、現地のレストランにて営業活動を開始。岐阜県にて生まれ育ち、名産「美濃焼」の魅力を世界中に広めるべく、海外を飛び回る。海外の食イベントなどに参加し、食と絡めたアプローチで「美濃焼」の認知度を着実に高めている。