漫画家 松本大洋さん

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5月11日、12日に行われたTCAF(Toronto Art Comic Festival)に日本からのゲストとして、漫画家・松本大洋さんが登場した。松本さんはアニメ化された「鉄コン筋クリート」、映画化された「ピンポン」を始めとする多くの代表作を持つ漫画家で、その独特の絵と心に響く言葉が散りばめられたストーリーで多くの根強いファンを持つ。
滞在中にはアニメーション映画”鉄コン筋クリート”の上映会やサイン会、公開インタビューやパネルディスカッションなどが行われた他、現在ジャパンファウンデーションで行われている原画展「THE WORLD OF TAIYO MATSUMOTO」のオープニングレセプションも行われた。TCAF会場では最新作「Sunny」一巻が北米でのオフィシャル販売に先駆けて販売され、多くの人々がその本を手に、サインを求めて長蛇の列を成していた。
今回TORJAでは松本さんにインタビューを行い、TCAFや作品などについてお話を伺った。

TCAF参加のきっかけと感想
今回のTCAFへの参加は、今描いている「Sunny」という漫画を、北米の人やトロントの人たちが見たらどういう感じがするのか、それを見に行ってみたいという思いと、カナダのコミックフェスティバルを見てみたいという二つの思いが大きかったです。
僕自身、あまり自分の漫画が海外で読まれているという実感はなく、ときどき「大洋の漫画すごく好きだよ」といってくれる海外の人に会うと「あぁ、海外でも読まれているんだなー」と思うくらいです。実感という意味では日本でも書店に本が並んでいることを見るくらいですし、僕のところにはあまりファンレターも来なくて、年に3通くらいおじいさんのような人が送ってくださるくらいです(笑)ですから、こういうフェスティバルに来ないとわからないことが多いのです。
僕にとって今回が初めてのトロント訪問で、海外コミックフェスティバルへの参加はフランス、スペインに次いで3回目です。コミックフェスティバルにはいろいろとあり、もっと少年誌的なものもあれば、ヨーロッパ的なものもあるのですが、TCAFはその中間といった感じですね。僕の描く漫画もそのような感じなので、すごく自分も居心地が良いです。

海外初の原画展
「THE WORLD OF TAIYO MATSUMOTO」
今までに海外で原画展をしたことはなかったですね。出版社としても海外に原画を出すということは取り扱い上基本的にしないということで、かなり珍しいことのようです。TCAF主催者のブッチャーさんがすごく漫画愛の深い人で、彼が自ら日本まで原画を取りに来てくれたことに、驚くと同時に、力になりたい、そして力になってもらいたいという気持ちになりました。

matsumoto-taiyo2漫画家になろうとしたきっかけ
大友克洋という有名な漫画家がいて、彼の「童夢」という作品を高校2年生のときに初めて読んで「この人みたいになりたい。こんな漫画が描ける人になりたい」と思ったことがきっかけです。
実は僕の従兄弟は漫画家で、それ以前にも関心はあったのですけど、漫画を仕事として生活をしていくということは難しいだろうなと思っていましたし、ミュージシャンやスポーツマンといった「もうちょっとカッコいい職業」に憧れていたのです。ですが、「童夢」の絵やストーリーは、それまでの日本の漫画とは全く違ったもので、どんなミュージシャンよりもカッコいいなと思ったのです。

フリーハンドへのこだわりと絵のタッチ
以前は枠線以外をフリーハンドで描いていましたが、最近では枠線も含めてフリーハンドで描くようになりました。やはり暖かみが出ますし、僕自身があまり定規を使うのが得意じゃないということもあります(笑)定規を使うとパースを合わせなくてはいけないので、僕には不便なのです。定規を使わないと、バランスが崩れていてもそれが味になるのですよね。だから、最初から定規を使うことは捨てていました。ですが、”読者がだんだん疲れてきてしまう”と最初のころは編集さんに不評で…。今では、フリーハンドで描く人が増えてきたこともあって、何も言われなくなりましたね。
僕の漫画は「作品ごとに絵のタッチが変わる」と言われることがあるのですが、僕としてはあまり意識的に変えようとは思っていませんね。その時に影響を受けているものとか、試してみたいものが表れていると思います。

北米作品からの影響
僕はヨーロッパから影響を強く受けているのですが、北米ではアメリカの作家、フランク・ミラーの描く絵は好きですね。絵がすごく上手いのです。マイク・ミニョーラも好きですし、マイナーですがおもしろいなという作家の人もいます。ですが、あまりどこの国の作品ということは気にしていないので、後にどこの国の作家なのか知るということがほとんどですね。

題材としてのスポーツ
新人のころは、スポーツ漫画を描く方が雑誌に載りやすいということを意識していた部分もありましたが、それ以外にもエンターテインメントに引き上げやすいジャンルだということ、そしてスパイクなどの道具、グラウンドやスタジアム、照明が絵になるという要素から、スポーツを題材にしたものが多くなっていると思います。いろいろなスポーツを観るのが好きですが、とくに相撲は子供のころからずっと観ていますね。
実は何度か相撲の漫画を描いてみようとトライしたこともあるのですが、相撲は土俵と観客の距離が近すぎて、背景も含めて全部描くとうるさくなってしまい、構図としてもなかなか難しい部分があります。「白抜き」という、周りをぼやかして描く技法もありますが、僕はあまりそれが好きではないので、なかなか実現は難しいですね。

電子書籍という新しいツール
将来的には、電子書籍というツールにも興味があります。やはり自分としては、電子書籍よりも紙で読んでもらいたいという気持ちがありますが、一番悲しいことは読まれないことなので、それだったら電子書籍ででも読んでほしいという思いがあります。たとえば、「一度この漫画を読んでみたい」というときに、電子書籍であれば検索してダウンロードをするだけなので、そんなに本を買わなくても良い。そういう便利さはあると思いますし、読んでもらえるチャンスが広がるだろうなと思いますね。

TORJA読者へのメッセージ
今回の原画展は、ブッチャーさんとジャパンファウンデーションさんのご協力がなければ、絶対に実現できないものでした。今回のことを通して、非常にカナダの方々の情熱を感じ、感激しました。ぜひ原画展に足を運んでもらいたいですし、漫画も読んでもらいたいですね。

※松本さんの原画展「THE WORLD OF TAIYO MATSUMOTO」は6月7日まで開催中。
詳細:www.jftor.org/whatson/2013Matsumoto.php

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