カナダ最年少のTapestry Operaの芸術監督 Michael Moriさん [新年号スペシャルインタビュー]

カナダで活躍する日系カナディアン

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トロントでTapestry Operaの芸術監督に就任して2年になるMichael Moriさん。今回Moriさん率いるTapestry OperaがJoy Kogawaさんの代表作“Naomi’s Road”が原作のオペラがトロントで初公演された。Moriさんには今回のオペラに対する想いをはじめ、オペラの内容でもある戦時中、戦後の日系カナディアンについての苦労、そして次なる挑戦などを、日系カナディアンという視点から語ってもらった。

Tapestry Operaの芸術監督に就任して2年経ちましたが、この2年間はどうでしたか?

とても良かったです。多くの人は「現代オペラ」についてよく知らないと思うのですが、トロントはとても好奇心旺盛な街なので、美しい音楽や物語、“Naomi’s Road”のような説得力のある深い物語を取り入れることで、観に来てくれる人が増えたと思います。更に少しずつですが、人々のオペラへの関心が古臭いもの、格式張ったものという認識からもっと活動的な芸術として興味を持つようになってきていると感じています。

“Naomi’s Road”がバンクーバーで初めてオペラ化されてから時間が経っていますが、今回ついにトロントで初公演を迎えます。トロント公演が実現したきっかけを教えてください

きっかけはNaomi’s Road作者のJoyさんが直接私のところへ来て、オペラをトロントでも公演したいと持ちかけてくれたからです。普通ならこのようなオペラを準備するのに3年、最低でも2年かかるのですが、Joyさんに「私を含めて、戦争を生き抜いた人たちは高齢化が進み、そんなに長いこと待てないわ」と言われ、なんとかしなければと色々模索しました。

Michael Moriさん公演前挨拶

Michael Moriさん公演前挨拶


そこでStephen役のSam Chungから3年前のツアーキャストは主演のHiatherを除いて現在全員トロントに住んでいるので、そのメンバーなら実現可能なのではと提案されました。Joyさんからこの話を持ちかけられたのは昨年の春のことで、Tapestry Operaとしては今年は過去15年で最も大きなプロジェクトを計画していたので予算に全く余裕はありませんでしたが、Joyさん自身も周りに相談してくれることになり、最終的にはThe Frank H. Hori Charitable Foundationがメインスポンサーとして援助してくれることになり、実現することが出来ました。

トロントでの初公演に向けて思いの丈を聞かせてください。

日系カナダ人のコミュニティーにとって、この日系文化会館のような場所は非常に少なく特別な空間です。通常、日系カナダ人は自尊心が高く、2世、3世、4世の人は表立ってはもちろん、家庭内でも不快に感じる歴史について触れようとしません。そんな中でこの“Naomi’s Road”はアートの一部としてその歴史についての知識や経験を共有し、話し合うきっかけを作ることができると思います。

また、世の中は今まさに同じ過ちを繰り返そうとしているように感じます。ただ、今回は我々日本人ではなく、イスラム教徒の人たちがターゲットになっており、私はそれが本当に恐ろしいことだと感じています。初めは高齢化が進んだ日系カナダ人の歴史保全のためにオペラをトロントでも公演したい、となりましたが、このタイミングでこの作品を公演できるのはある種の運命だと思います。

私たちはカナダで70数年前には自分たちも虐げられる立場にいたことを忘れてはいけません。人間は人種差別の障害に打ち勝つ可能性を持っており、私たちすべてが同じ人間だということを覚えておくべきです。あまり語られなくなってきた今、それについて知ることは重要なことだと思います。

左: (left to right) Hiather Darnel-Kadonaga (Naomi), Erica Iris Huang (Mother, Mitzi, Obasan), Sung Taek Chung (Daddy, Bully, Rough Lock Bill, Trainmaster), and Sam Chung (Stephen). 右: Erica Iris Huang (Mother, Mitzi, Obasan). Vancouver Opera's tour of Naomi's Road.  Photo by Tim Matheson. Photo Courtesy of Vancouver Opera.

左: (left to right) Hiather Darnel-Kadonaga (Naomi), Erica Iris Huang (Mother, Mitzi, Obasan), Sung Taek Chung (Daddy, Bully, Rough Lock Bill, Trainmaster), and Sam Chung (Stephen). 右: Erica Iris Huang (Mother, Mitzi, Obasan). Vancouver Opera’s tour of Naomi’s Road.
Photo by Tim Matheson. Photo Courtesy of Vancouver Opera.

原作“Naomi’s Road”は小説“Obasan”を子供向けにしたものですが、オペラ“Naomi’s Road”に特別なターゲット層はありますか?

ピクサー映画がアニメでも子供向けというわけではなくすべての世代向けであるように、このオペラも家族でも見れるような、すべての世代向けです。取り扱っているトピックが深刻なので大人向けに比べて残酷な表現は控えてありますが、大切な内容を伝えるには十分な作品です。

“Naomi’s Road”はすでにオペラとして公演されていますが、この作品を日系カナダ人として監督することは難しかったですか?

大人が子供役を演じることに関して難しいと感じましたが、私が日系カナダ人だからといって特に難しいことはありませんでした。私自身も人種差別を経験したことがありますし、当時“Enemy Alien”と呼ばれていた日本人家族の話も、バンク―バーに住むカナダ人家族の話も聞いたことがあるので、ある意味、他の作品と比べて簡単でした。私にとってオペラを監督する上で一番難しいことはその作品について歴史的背景などを調べることです。2月公演のプッチーニ作品に関してはたくさんのリサーチをしましたが、今回は自分の経験を反映することもできたのが逆に良かったと思います。

今、日本とカナダはとても仲が良いと認識されていますが、カナダの歴史の中でどのようにカナダと日本の関係は変化していったと思いますか?

人間は一緒に十分な時間を過ごすことができれば、みんな同じ人間として平等に認識できると信じています。戦後、日本人、日系人は虐げられた経験から日本人であることを隠すようにカナダ各地に散り、イタリアや韓国、中国などの他の国のようにコミュニティーを作ることをせずにカナダに溶け込んでいきました。そうすることで日本人ではなく、普通の人であることを証明したかったのでしょう。

その後、1950~60年代に日本政府からカナダ政府へと何千もの桜の木が平和の象徴としてバンク―バーに贈られ、企業間のビジネス関係も復興していきました。子供にとって「エイリアン」といえば、地球の外に住む宇宙人のことですが、大人たちは自分とは違った人種の全く知らない人たちのことを「エイリアン」と呼び、嫌い、距離を置いていました。それでも一緒に時間を過ごすことでお互いのことを認め、当時は白人ばかりだったバンクーバーも大きく変わりました。

今では、学校に行けばクラスメイトに様々なバックグラウンドを持った人がいて当たり前になり、特定の人種を毛嫌いすることも難しくなったでしょう。カナダは本当の意味で移民に対して友好的な国だと思います。ただ、日本側には未だに人種差別の意識が残っており、黒人系や中国系のカナダ人を区別したりすることがあるので、カナダと日本がより良い関係を築くにはそういう面を改善していく必要がありますね。

Hiather Darnel-Kadonaga (Naomi) and Sam Chung (Stephen).

Hiather Darnel-Kadonaga (Naomi) and Sam Chung (Stephen).

Hiather Darnel-Kadonaga (Naomi). Vancouver Opera's tour of Naomi's Road. Photo by Tim Matheson. Photo Courtesy of Vancouver Opera

Hiather Darnel-Kadonaga (Naomi). Vancouver Opera’s tour of Naomi’s Road. Photo by Tim Matheson. Photo Courtesy of Vancouver Opera

日本人が作ったオペラはあるのでしょうか?日本らしいオペラを創るとして、日本の伝統文化をオペラと融合することはできると思いますか?

日本人で有名な作曲家は映像楽曲を手掛ける人が主です。他にはたまに交響曲を作る人がいるくらいで、日本人が作曲したオペラというのは聞かないですね。私が考える理由の一つは既に日本には独特な伝統音楽があるからでしょう。日本に訪れるだけの私から見た印象だと、日本では伝統を変えることはとても難しく、能や歌舞伎はただ歴史的、伝統的なもので、大きく変化しているようには思えません。

成長や進化することが止まってしまえばその文化は廃れてしまうと思います。日本には様々な分野で優れた作曲家たちがいるので、その現代音楽の作曲家や新しいことに挑戦することを厭わない伝統芸能のパフォーマーと一緒に現代オペラを作ることができたら面白いでしょうね。

次はどのようなことに挑戦をしたいですか?

Joyさんの願いでもあるのですが、“Naomi’s Road”で東カナダツアーをしたいと思っています。私が初めて“Naomi’s Road”を知ったのは11年前バンクーバーに住んでいた頃です。しかし、当時の私はこの話に出てくる収容所での出来事についてすべて知っていたわけではありません。それは珍しくないことで、3世以上の日系人はこの話を学校で学ぶわけでもないですし、語られていないので知らないのです。

知らない、ということはとても危険で、同じ過ちを繰り返してしまう可能性を秘めています。だからこそ、まだ上映されたことのない地域を回る必要があり、ちょうど今、政府に支援をお願いしているところです。無料で公演することは難しいかもしれませんが、オンタリオ、ケベック、ノバスコシアなどの学校で上演し、このオペラで感動を与えることができれば、きっと子供たちにとって生涯忘れないものになるでしょう。

更に東カナダツアーがうまく行った後には海外でも公演をしてみたいですね。私たちはトロントで十分な成功を収めてきましたし、多民族都市であるトロントは様々な文化が集まる非常にユニークな場所です。そんな様々な文化や人種に対して理解のあるトロントやカナダを題材にした作品は他の国にとって興味深いと思いますし、みんながお互いに理解を深めるきっかけになればとてもいいことだと思います。

oy Kogawaさん(左)、Michael Moriさん(右)

oy Kogawaさん(左)、Michael Moriさん(右)

TORJA読者にコメントをお願いします。

戦後当時、我々日本人をすぐに受け入れてくれた国の人がいました。今、カナダや日本は裕福な国として認識されており、私たちは受け入れて助けることのできる立場にいるので、難民や移民に関わらず人々を迎え入れるべきだと思います。ただ様々な面で恐怖政治は続き、難しい場面もあるかもしれませんが、この素晴らしいカナダを守る必要があります。

トロントには様々なバックグラウンドを持った人が当たり前に生活していますが、東カナダを中心にまだまだカナダ国内でも違う人種の人を恐れている人たちがいます。その人たちが違いを受け入れる手段を見つけだし、カナダの外のものを上手にカナダに取り入れることに前向きになれるといいと思います。

Naomi's Road©Tapestry Opera

Naomi’s Road©Tapestry Opera




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Michael Mori

tapestryopera.com
子供の頃から音楽に慣れ親しんで育つ。オペラの他にもジャズやオーケストラの演奏者、ダンスや演劇などのパフォーマーと幅広く芸術関連に携わる。オペラパフォーマンス(学位)とミュージックパフォーマンス(修士)をブリティッシュコロンビア大学で取得した。その後はバンクーバーのMusica Intimaに在籍中Juno Awardを受賞し、ヨーロッパ、カナダツアーを行う。Tapestry Opera前Artistic DirectorのWayne Strongmanと意気投合し、2012年にTapestryに参加。2014年春にカナダ国内では最年少の33歳でArtistic Directorに就任した。