インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)代表理事 小林りんさん [新年号スペシャルインタビュー]

カナダでの生活経験を糧に現在国際的な活躍をする著名日本人

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長野県軽井沢、大自然の中に、世界中から高校生が集まっている学び舎がある。日本で唯一の全寮制インターナショナルスクール(高等学校)である、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢、通称ISAKだ。様々なバックグラウンドを持つ若者が集う、多様性溢れる国際バカロレア認定校で展開される世界トップレベルの教育プログラム、また、2016年11月には、国際感覚が豊かな人材を育成することを目的に、英国、米国、インドなど世界16カ国に傘下の高校を持ち、世界各国から選抜された高校生を受け入れる民間教育機関UWC(United World College)に日本で初めての加盟校となることも正式に決定するなど、特筆すべき魅力は書ききれないほどだ。

このISAKが2014年に開校するまで、創設者としていつ何時も全力で奔走し続けたのが、代表理事を務める小林りんさん。ISAK構想から開校までの軌跡については、「茶色のシマウマ、世界を変える」(石川拓治著・ダイヤモンド社)に詳しい。

高校生の頃、カナダに単身留学した経験のある小林さん。今回は、小林さんがバケーションでカナダを訪れていた機会に、リーダー育成の観点から今後の社会で重要となっていくことや、ISAKで生まれているチェンジメーカーの具体的な事例、そして海外で生活している子どもや若者への思いなどをたっぷり伺った。

■カナダの学校では、多様性を重んじる教育が行われており、ISAKとも通ずるものがあると思います。カナダで教育を受けている子どもたち、そしてご家族に、将来リーダー育成の観点からメッセージをお願いします。

カナダにある多様性の環境、というのは何事にも代え難い非常に貴重なものだと思います。自分の当たり前を当たり前としない人がいる環境で、子ども同士の付き合いの中から多様性や世界の流れを肌で感じ、自分のアイデンティティーって何だろう、ということを自分で問うきっかけとなっていく。そんな、日本にいたらなかなか巡り会えないチャンスの中にお子様たちがいるということを親御さんにはぜひ大事にしていただきたいです。

また、これからの社会で重要になることが3つあると私は思っています。1つは多様性。これは、国籍や人種だけでなく、社会的・経済的なバックグラウンドの多様性を指します。今世界で起こっている多くのことは、経済格差や宗教観、歴史観の違いが原因となっています。ですから、表面的にわかる国籍や人種だけにとらわれず、目に見えない格差、目に見えないダイバーシティー、そういうものこそ幼少期に感覚的に知っておくことが大事だと思います。

そして2つ目は、「問いを立てる力」です。現在、世界ではテクノロジーが驚くほどのスピードで進化していて、近い将来には人工知能やロボットなどが既存の労働力の大部分を担い、多くの子どもが、現時点で存在していない職業に将来従事するだろうと言われています。つまり、今の子どもたちが大人になる頃には、我々が予想もできないような世界の中で想像もしなかった労働者になっていくということです。
そこで大事なのが、問いを立てる力。“What’s most important?”と自分に対しても、社会に対しても問える力です。

自分にとって何が一番大事で、社会が今一番何を必要としているのか、こういったことを自分にも社会にも問い続けていくことで、子どもたちはそれぞれの答えにたどり着いていくのだと思います。

これまでは問題解決能力が大事だと言われてきましたが、降ってくる問題を解決出来る能力だけではもう足りません。何が次に解かれるべき問題なのか、ということをきちんと問いを立てていけることが非常に大事になってきます。

そして3つ目に、困難に挑む力です。どれだけ多様な価値観の中で仕事ができても、自分で問いを立てる力があったとしても、何か新しいことをゼロから作り上げて成し遂げていく、という道のりには様々な衝撃や困難が待ち受けているものです。それでもリスクを恐れず、困難に直面したときにこそ自分で乗り越えるガッツを持っていることはとても大事です。

カナダでは、1つ目の多様性に関してはすでに環境として存在しています。この環境にいるうちに、お子さんにたくさんのことを惜しまず経験させてあげて欲しいです。

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■高校時代に感じられていたカナダへの思いや、カナダで生活したからこそ感じた日本の良さがありましたら、教えてください。

カナダの大自然が、私をすごく癒してくれていたな、と思っています。要求されるレベルの高い、厳しいカリキュラムの高校で、さらに親元を離れて海外で暮らすという環境の中、自分がいっぱいいっぱいになる瞬間が幾度もありました。その時に、学校の周りにある自然に包まれて、自分のこと、人生のことを考える時間が私にとってはとても大事でした。

実は、ISAKを軽井沢で開校することになったのも、その経験が大きな理由となっています。ISAKのカリキュラムも生徒に要求するレベルは高いものですから、どこかに逃げ込みたくなることがあると思います。そんな時、大自然の中に逃げ込むことができれば、自然が人を癒してくれます。だから、絶対に自然の中でやらなくてはダメだ、私のやりたい教育は大都会ではできない、と考えていました。それは、私のカナダでの経験があったからこそだと思います。

カナダに来て感じた日本の良さは、「行間を読みあう」という姿勢です。今となってはあまり指摘されませんが、カナダに来てすぐの頃はよく「あなたのイエスは本当にイエスなのかそれともノーなのかわからない」と言われていました。その時に初めて、日本では互いに行間を読みあう、ということが当たり前だったのだな、と気付きました。もちろん世界では自分の意見をはっきりと主張することも大事ですが、相手を慮りながら調和を重んじる、というところは日本人の持つ素晴らしいものだと思います。

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■ISAKでは、世の中にポジティブな影響をあたえられるチェンジメーカーを育てることをミッションとされていますが、貴校での具体的な例を挙げていただき、小林さんの考えられているリーダー像をお聞かせください。

2015年4月、ネパールで大地震が発生した際、当校には3人のネパール人が在校していました。彼らは、今こそ母国のために、と「ISAKプロジェクト・ネパール」を立ち上げ、クラウドファウンディングや募金で国内外から400万円以上の寄付金を集めました。さらにそうした援助マネーのほとんどが首都カトマンズにとどまってしまう問題に目を向け、壊滅的な被害を受けていた僻地に実際に足を運び、これまでにクリニックや学校の再建を実現させました。彼らのように、社会で何かが起こった時にそこに対して手を差し伸べる、いわゆる分かりやすいチェンジメーカーの例もあれば、次のような例もあります。

開校してから2年が経った頃、生徒たちのグループが「ISAKは生徒自治を大事にしているというけれど、もっと生徒の意見を聞き入れて欲しい!」と声をあげ、改善を求める運動が起こりました。これに対してある先生が彼らと真剣に向き合って、今後も脈々と受け継がれるISAKらしい生徒自治のあり方とは、ということを生徒たちと話し合い、今も様々な可能性を考えながら自分たちの自治を作りつつあるところです。こんな風に、既存の社会のシステムに対して疑問を持った時、それを創造的に破壊していくこともチェンジメーカーの例の1つだと思います。

そしてISAK自体も、日本の教育界において当たり前だと思われていたことを変え、全く新しい教育の形を作り出していくという意味で、実は日本の教育界でのチェンジメーカーなのかもしれません。

このように、人道的な支援に限らず、ビジネス界や政界、芸術の分野など、様々な分野でチェンジメーカーは生まれてきます。分野や立場を超えて変革を起こせる人たちが育ってくれれば良いな、と思っています。

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■これから育っていくチェンジメーカーが社会で受け入れられていくには、社会全体や大人たちの考え方にも変化が求められそうです。それには何が必要になってくるでしょうか。

これからは、私も含めて多くの大人が経験したことのないような時代へ突入していきます。ですから、「私たちの時代はこれがベストだった」という考えを20年後に生きる子どもたちに押し付けることは絶対にしてはいけないと思います。一番大事なのは、子どもたち自身が時代の匂いを嗅ぎ、時代の風を感じ、色々なリスクを取りながら「自分は何がやりたいのか」という想いに忠実に生きていくことです。

その意味で、冒頭にも申し上げましたが、多様性のある環境にできるだけ存在させていくこと、自分で問う力を伸ばしてあげること、そしてリスクをとることを見守ってあげること、これらが大事になってくると思います。特にリスクに関しては、大人になるほど取りにくくなります。子どもの頃に小さな失敗を繰り返すことで、「失敗してもこの程度の痛さか」と思えるようになる経験はすごく大事です。

実は、失敗する経験をさせることは多くの教育機関が行っていません。その点でISAKはユニークで、スタッフ全員でケーススタディなども通しながら、子どもたちにどこまで任せるか、組織として考え続けています。「それがやりたいなら、どれくらいのリスクをとるのか、自分で考えてごらん」と問いかけ、生徒と一緒になって考えていく。ISAKのスタッフは多様性、問いを立てる力、そしてリスクをとることの大事さを全員が本気で信じているからこそ、そうしたアプローチが可能になります。“What’s most important”の問いを彼らが追求していくことを応援し、リスクをとることを見守ってあげられる、そういう姿勢が大人や社会には求められているのだと思います。

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■ご両親の教育方針が小林さん自身にどのような影響を与えたか、エピソードをお聞かせください。また、ご自身も親としてお子様の教育で実践されていることなどあれば、ぜひ教えてください。

私の両親は、私のことを120%信じてくれました。両親は共働きでしたので、私は鍵っ子。ですから、しようと思えば何でもできたんです。でも親が徹底的に私を信じてくれていたので、その信頼を裏切ってはいけない、という一心でした。ですから、子どもの才能、人格を含めて丸ごと信頼してあげる、というのはすごく大事だなと思って、自分も実践したいと思っています。

また、父親は世界中を飛び回り、60歳を過ぎても色々なリスクをとりながら起業をしているような人です。そんな父に、「人生は一回しか起きない、好きなように生きろ。」と言われたことがあります。それは大きかったですね。また、私の「りん」という名前は平仮名なのですが、漢字にしなかったのは、意味を持たせて親の期待をそこに表したくなかったからだ、と話してくれました。「りん」という音は各国語に存在しているから選んだ、とも。父は、小一の私に「自分で自分の名前に色をつけていけ。世界中どこへ行っても生きていける人になれ。」と話したのです。

そして母は、ソーシャルワーカーとして社会のため、人のために常に何か行動している人でした。母は私に「ボランティアをしろ」とは一言も言いませんでしたが、母親の姿を見て、世の中、人のために何かをやっていくことが自分の喜びなんだ、ということを学んでいきました。彼らの愛情と信頼、そして後ろ姿から、私は生き方を学んできたのだと思います。

また自分の子どもには、自己肯定感を磨いてあげられるようにしています。寝る前に3つ、今日嬉しかったことや楽しかったことを子どもに言ってもらって、私も3つ、子どもたちの頑張ったところや良かったところを話して寝ています。それを繰り返すことで、自分は素晴らしい人生を生きているんだ、と思えるような自己肯定感を磨いていきたいと思っています。

また、一度自分で始めたことは絶対に最後までやり切る、ということも大事にしています。例えばスイミングをやりたい、と言うのなら、何が目標なのかをはっきりさせる。25メートル泳ぐことが目標というならば、その目標を達成するまでは絶対に辞めずに続けさせます。私からは子どもたちに一切押し付けず、彼ら自身が「やりたい」というまではじっと待っています。

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■海外で育つ日本人の子どもは、いわゆるアイデンティティークライシスに直面することがあります。そのような子どもたちにメッセージをいただけますか。また、海外で生活する日本人の子どもに期待したいことを教えてください。

私の人生の中で一番辛かった時期は、高校時代に過ごしたカナダでの2年間だと思います。本当に自分が何者なのかわからなくなってしまって、自信を完全に無くして。ゼロから自分を築き直したのが、その2年間だったと思うのです。でも今振り返って思うのは、一番つらい時期こそ、自分が一番成長している時期だったということです。ですから、今、海外でもがいている子たちには、自分が一番苦しい時期というのが、実は一番大事で、自分が成長している時期だということを伝えたいです。これは間違いありません。だから、悩んでいる時期こそ、大事に生きて欲しいなと思います。日本を出たからこそ経験する、そういう時期をくぐり抜けた子にしかわからない、本当のアイデンティティーがあると思うのです。それを見つけるためのジャーニーだと思います。

また、私自身もそうですが、一度でもマイノリティになったことのある人は、同じ立場の人の気持ちがわかるはずです。これからどこへ行っても、どのような立場の人の気持ちも慮れる人になっていってくれると信じていますし、それを期待したいと思います。

海外の日本人には、日本の良さを海外にアピールして欲しい、という人がよくいらっしゃいますが、私は、これは強要されるものではなく、自然と沸き起こってくるものだと思います。海外に出てこそわかる日本の美しさ、日本人の良さ、を感じられれば、自然と素晴らしいアンバサダーになってくれるはずです。


小林りん

経団連からの全額奨学金をうけて、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験を持つ。その原体験から、大学では開発経済を学び、前職では国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。2007年に発起人代表の谷家衛氏と出会い、学校設立をライフワークとすることを決意、2008年8月に帰国。1993年国際バカロレアディプロマ取得、1998年東京大学経済学部卒、2005年スタンフォード大学国際教育政策学修士。世界経済フォーラムから2012年度に「ヤング・グローバル・リーダーズ」として選出される。2013年には、日経ビジネスが選ぶ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞、2015年に日経ウーマンが選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞」、2016年に財界が選ぶ「経営者賞」受賞。

インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)

長野県 軽井沢にある日本で唯一の全寮制インターナショナルスクール(高等学校)。アジア太平洋地域、そしてグローバル社会のためにチェンジメーカーを育てることをミッションとしている。国際バカロレア認定校であるISAKは、世界トップレベルの教育プログラムである国際バカロレア(IB)ディプロマ・プログラムのカリキュラムを導入している。

また、充実した奨学金制度を用意することで真の多様性を実現し、異なる文化や社会経済的バックグランドを持つ生徒を世界中から受け入れている。2016年、世界各国から選抜された高校生を受け入れる民間教育機関、UWC(United World College)の日本で初の加盟校として承認を得る。