中村義洋監督インタビュー

『アヒルと鴨のコインロッカー』や『チーム・バチスタの栄光』など数々の小説を映画化。 最新作『白ゆき姫殺人事件』を携え「トロント日本映画祭」のために来加
中村義洋監督と上映作品「白ゆき姫殺人事件」ポスター

中村義洋監督と上映作品「白ゆき姫殺人事件」ポスター

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1. Grand Jury Prize 銀賞受賞の賞状を受け取る中村義洋監督 2. Q&Aで一つ一つ丁寧に回答する中村義洋監督3. 受賞後の中村義洋監督、プレゼンターKate Scullinさん、ジェームス・ヘロンさん、高畠晶さん4. 満員の小林ホール 5. クロージングレセプションの様子6. 一般客参加のお楽しみ抽選会の司会をする小林マーティンさん


海堂尊の医療ミステリー『チーム・バチスタの栄光』や『ジェネラル・ルージュの凱旋』、『アヒルと鴨のコインロッカー』をはじめとした数々の伊坂幸太郎作品を映画化し、数多くのヒット作を手掛けている中村義洋監督が、6月27日に日系文化会館で行われた「トロント日本映画祭」の最終日のために来加。当日は約470名の観客が訪れ、座席を追加するほど超満員となった。クロージングナイト上映作品『白ゆき姫殺人事件』の上映前に、トロントの印象や作品に対する思いなどを語っていただいた。

トロントの印象

昨日の夕方トロントに到着しました。今朝は街を歩いたり、CNタワーに登ったりしました。こちらの人は朝みんなコーヒー持っていますよね(笑)そして、人種が本当にバラバラだという印象を持ちました。観光としては、ナイアガラの滝にも行く予定です。

海外での上映を意識した作品づくり

いつも映画をつくる時は、公開日や舞台挨拶を想像しながら脚本を書いたり撮影・編集をしたりしています。しかし数年前から海外の映画祭に行くようになり、今まで想像していたもののその先にまた違うお客さんがいるという感覚が芽生えてきました。海外の映画祭に来るお客さんは前のめりに映画を観るんですよ。笑うシーンで笑おうとしてきたり、泣こうとしてきたり、ハラハラしようとしてきたり…。日本の劇場に来るお客さんのちょっと引いた感じとは全然違います。なので、一回笑うとドカーンと笑うので、その収まり待ちの時間を編集でつくるという工夫はしています。ただし今回は文字情報が多い映画なので、字幕でしか見られないお客さんには少し厳しいかも知れないと思っていましたが、香港で公開した時は大丈夫でした。

Twitterと“表現欲”

映画ではTwitterの書き込みを写す場面が多いですが、僕自身はやりません。以前、期間限定でブログを書いたことがありますが、表現者として「どうせやるなら楽しませよう」と思って頑張ってしまって…。そうすると、ブログを書いたことで表現力が満たされてしまったんですよね。その頃ちょうど『ちょんまげぷりん』という映画の撮影中だったのですが、映画監督は常に表現欲がないといけないなと思いました。今の若者は「誰かに認められたい」という承認欲求でTwitterをやっていますよね。もし僕が学生時代にTwitterに出合っていて言いたいことをその場で発信していたら、映画監督にはなっていなかったかもしれません。

映画監督を目指したきっかけ

高校3年生の時、『マルサの女』という映画をテレビで放送していたのを受験勉強の合間に見ていて、それに加えて映画の撮影日記本『「マルサの女」日記』を読んでいました。当時、映画のメイキングをみせるというのは伊丹十三さんくらいしかいなくて珍しかったんです。それを見て映画をつくる仕事があるということに気がつき、大学の入学願書を出す頃には全部映画をつくる勉強ができるところを選んでいました。大学入学後はすぐに映画研究部に入り、映画製作をしていました。

撮りたいものを素直に撮る

入学前はあまり映画を観てきませんでしたが、浪人時代に映画館に通っていたという後輩にカメラを持たせたらとてもうまかったので「これは映画を観なきゃだめだな」と思ってそこから観はじめました。映画をたくさん観ると、日常生活の見るもの全てが映画に見えてきて、つくりたいものが自然と出てきます。面白いと思ったものを素直につくっていくと周りから評価されて褒められて、「自分は映画監督になれるかもしれない」と思うんですけど、そうすると今度は映画監督になるためのつくり方になってしまいます。そうすると、何も褒められません。25歳から26歳くらいまでは、ずっとその繰り返しでした。
プロの映画監督になってから、自主制作で映画を撮っている若者のコンクールで審査員を務めることもありますが、人に褒められたくてつくっているものはすぐに分かります。彼らには「プロになったら撮りたくないものも撮らなくちゃいけなくなるから、今は撮りたいものを撮ったほうがいい」と言っていますが、それは昔の自分自身に対する言葉なのかもしれません。

原作ものを映画化することについて

作家さんの言いたいことにどれだけ共感できるかというのを大事にしています。また、原作ファンに対して「君たちより俺のほうが絶対に原作を好きだよ」というくらいの気持ちがないと引き受けません。例えば、冗談でケンカするのは作家さんと一緒に作品をつくってきた編集者さんです。「この原作を一番読み込めているのは僕だと思いますよ」なんて言うと編集者さんを怒らせてしまいますが、それくらいファン代表のような気持ちで原作と向き合っています。
また、実際に劇場で原作を読んだことがあるかどうか観客にアンケートを取ってみると、その割合は5%くらいと意外と少ないです。それが全体数になるとどうか分かりませんが、そのくらいの割合しかいないので、初めて映画を観る人を対象に映画をつくっています。

喜びを感じる瞬間

充実感というのは分からないですけど…。昨年、イタリアの「ウディネ・ファーイースト映画祭」というアジア映画ばかりの映画祭に行った際、『フィッシュストーリー』のヨーロッパ版のDVDを持ってサインを求めてきた人に会った時はズキュンときました。この作品は4年ほど前のものなので、それからずっと観てくれている人と話をしたりすると嬉しいですよね。でも、そういう出会いはたまにしかないので、ミュージシャンのようなお客さんとライブでやる仕事に憧れています。映画監督が頑張っている姿はスタッフしか見てくれていないですからね(笑)

自分の「面白い」に自信を持つ

これだという何か大事なものではなく、日々の小さなことでも自分が「面白い」と思ったものに自信を持つことが大事です。いま25歳だとしたら、そこで見つけた「面白い」は25年かけて見つけた「面白い」なんです。映画づくりも同じで、色々やっていくうちに自信がなくなり他人の意見を聞いて「そっちの方が面白いかな」なんて思ってしまうのは、自分を否定していることになります。本を読むにしても映画を観るにしても、自分の否定にならないように頑張っています。


中村義洋(なかむら よしひろ)
成城大学文芸学部芸術学科卒業。大学在学中の自主制作映画『五月雨厨房』が1993年の「ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリを受賞。その後、崔洋一監督、平山秀幸監督、伊丹十三監督らの助監督時代、脚本家時代を経て、『ローカルニュース』(1999)で監督デビュー。その後、伊坂幸太郎の人気小説『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)、海堂尊の医療ミステリー小説『チーム・バチスタの栄光』(2008)、青森のリンゴ農家の実話を題材とした『奇跡のリンゴ』(2013)などを映画化し、コンスタントにヒット作を生み出している。湊かなえのサスペンス小説が原作の『白ゆき姫殺人事件』(2014)は日本での反響も大きい。