アルバータ州(3)バンフ周辺で遊ぶ | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第13回
雪山のバンフしか知らなかった私は思い切って夏のバンフ体験にやってきた。自然力一杯のカナダ旅行は景色や食べ物だけでなく、アクティビティーに参加してひと味違う旅にしたい。日本に行くことが頻繁になり、モントリオールの娘に会う機会はあまりなかったのであえて遠いアルバータを選んで夏休みと称して誘った。コンピューター持参、仕事持ち込みで娘は合流。ハイキング(11月号参照)のあとのお遊びも親娘の旅に華を添えた。
ホワイトウォーター・ラフティング(Whitewater Rafting)
やった人でなければ分からないスリリングで超楽しい夏の川遊びである。娘が高校生の時オタワ・リバーで体験してから病み付きに。水着の上からウェットスーツを着、ライフジャケットをつけてヘルメットをかぶる。ゴムボートで水しぶきを浴びながら濁流を乗り切る川下りだ。
終わるとバーベキューのランチが待っている。カナダには豪快なホワイトウォーター・ラフティングができる河川が7本あるが、オンタリオ州のオタワ・リバー(Ottawa River)とアルバータ州のキッキングホース・リバー(Kicking Horse River)はそのうちの2つである。
バンフから1時間余り西、ブリテイッシュ・コロンビア(BC)州境のゴールデン(Golden)にラフティングの基地がある。町はBC州側にあるが、バンフに近いため、客は殆どアルバータからくる。ランダムに集まった他人同士の乗組員にまずリーダーから説明がある。
不思議なもので、赤の他人と同じボートに乗ると、一緒に頑張ろうという暗黙の結束が生まれる。私はそれが好きなのかもしれない。勢いで落ちてしまった人の救い方、救われ方なども練習する。
観光用としては最高難度のクラス4に指定された流れがこの川に数カ所ある。8人乗りの先頭のペア位置に座らせられた私は、兎に角、指示通りにオールを操作する。いよいよ急流にさしかかる。が、オールなど有ってもなくても変わりない程の濁流につっこむ。風呂の浴槽一杯分の水が一度に目の前に立ちはだかり、あっという間に私を包み込む。視界ゼロ。無力なオールが宙に浮く。漕ぐどころか水圧に体当たりされ、ボートの中で尻餅をつく。
空が目に入るまで何秒かかっただろうか。流れが静かになったところで位置替え。後方にいた娘が私と交代した。彼女のほうがずっと体力もあるのに自分の身丈より高く勢いのよい瀑水を全身に受け、彼女もダイビングしたみたいに濡れた。男女かまわず奇声を上げながら何も考えずに目前の危機を共に乗り越えることだけに全員集中する。
最後の怒り狂った飛沫の流れを制覇するとボートは滑らかな流れに身をまかせ、何もなかったかのように2時間半の川旅を終えて岸に着くと皆の顔に安堵の笑みがうかぶ。12歳以上なら誰でも楽しめるカナダならではのレクリエーションだ。
乗馬とお茶
自然に動物はつきもの。と言っても人間と一体になって遊んでくれる動物は限られてしまう。馬だ。私が今回どうしても試みたかったのは馬に乗って川を渡る、という体験。山から流れ出る冷たいボー・リバー(Bow River)の水深50㎝の深さを馬は平気でバシャバシャと音を立てながら渡る。西部劇に出てくるような光景だ。
歩くだけなのだが、前の馬にくっつき過ぎても離れすぎてもいけない。馬同士相性のいいのと、むれから離れようとする勝手なのがいる。かかとで馬のハラを蹴り手綱を操作しながら列について歩かせる。言う通りに歩いてくれれば「いい子、いい子」と馬の長い首をパタパタとたたく。自然と一体になった感のあるこんな乗馬もカナダの貴重な体験かもしれない。
乗馬の後はカナダのランドマークでもあるバンフ・スプリングス・ホテルヘ立寄る。19世紀にスコテイッシュスタイルで建築されたホテルは宿泊客でなくても見学する価値がある。青空のもと、カフェテラスでロッキー山脈を眺めながら過ごす時間はまた格別だ。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
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