日本のゆる山歩き ー 乗鞍岳 | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第15回

東京の新宿駅や池袋駅のホームにいると必ずと言っていいほどバックパックを背に帽子をかぶり足はトレッキングシューズ、といったいで立ちのシニア層に出会う。そう、この国は高齢者社会まっただ中で健康意識も世界中で一番高いのではないかと思う。

メディアが日夜、長生きするための身体機能の話をしている。スーパーにもかつてなかった健康食品がずらりと列ぶ。この流れにあやかり長生きするために私も友と日本の山歩きをスタートすることにした。

カナダのバンフ(前年11月号)の長時間ハイキングで私も少し自信がついた。友人も上から下まで用具をすべて取り揃えチャレンジに備える。

私達の選んだ目的地は北アルプス乗鞍岳。有名だが、じつは「乗鞍岳」という名前の山が有る訳ではなく、23峰々が連なって馬の鞍のようになったのを乗鞍岳という。その中の最高峰が剣ヶ峰(3026m)で、乗鞍岳の標高が3026mと言うのもこの剣ヶ峰から来ている。

標高日本一の駐車場、乗鞍岳畳平。春は下がお花畑に


連山は約3億年前にできた秩父古生層の上に噴火物が蓄積して出来たといわれ、初めて噴火したのは約100万年前で現在は休火山。我々の目指すのは2817mの富士見岳。だが、初心者が麓から山頂までいけるはずはない。しかし交通機関をみれば、かなり楽に富士見岳山頂へ行けることがわかる。

バスターミナルから楽に登れる富士見岳


松本駅から新島々駅までは電車。新島々からはバス。乗鞍高原観光センターで乗り換えれば終点の乗鞍山頂畳平までバスで一気に行けてしまうのだ。この畳平は標高2700mにあり乗鞍エコーライン(長野県)と乗鞍スカイライン(岐阜県)の接点でもある。

休暇村乗鞍高原の裏から牛留池へ


乗鞍エコーラインからの眺めは季節の織りなす自然の敷物のようで素晴らしい。車で行ける日本最高地点として知られる。つまり私達はここから富士見岳に登ったわけで写真を撮る時間をいれても往復2時間という短時間登山。しかし高度なため高山病にならないように、ゆっくり呼吸を意識して整えながら登る。

乗鞍エコーラインからみる自然の敷物


紅葉の時季でもこの辺は気温が零度に下がる。自分と雲とが同じ高さにあると山頂に立った実感がこみ上げる。初心者にはうってつけの場所だ。登りたくなければ畳平にはレストランや売店もあるから飽きることはない。夏は早朝ご来光バスが運行する。

富士見岳から下山した所で通りがかりの男性に写真を撮ってもらおうと頼んだらカナダ人だったのに驚く。日本語が出来なくても日本に関する情報はインターネットに満載、あとは日本人の〝おもてなし〟を享受する精神で誰でも気軽に旅行できてしまうのがこの国の良さなのだろう。

宿泊は標高1500mに広がる乗鞍高原にある休暇村。富士見岳を登った後のハイキングは比較的楽なコース。休暇村の裏にある牛留池には晴れていれば池に乗鞍岳連山が映え、絶景の一つとされる。シカがひょっこり顔をだしそうな小径を歩けば日本の滝百選に入っている三本滝にたどり着く。道々せせらぎが心地よくエコな響きをかなで、コメズカ、シラビソ、カツラの森を歩けば鼻歌の一つや二つは出てくる。

日本の滝百選に選ばれている三本滝


ゴーゴーと自然の瀑水音が聞こえてくると気持ちがおのずと高鳴る。岩肌を伝うように落ちる水。飛び散る水しぶきを観ている間、私の頭の中は空っぽ。自然としばし一体になると心身ともにリセットされる。

一泊した翌日は休暇村から観光センターめがけて歩き出す。歩く道はどこも可愛い名前がついていて〝歩いてみよう〟気分をそそる。休暇村裏から「口笛の小径」を通り、青空と紅葉のコントラストが美しい〝あざみ池〟を半周し、ススキに見送られながらあるけば中間地点に当たる〝一の瀬ネイチャープラザ〟に出る。

青空と紅葉が美しいあざみ池


この辺は農園になっていて名物ソフトクリームがハイカーをタイミングよく癒してくれる。食べることに集中していると足下に静かに咲く子供のこぶし大のアザミは見過ごすだろう。「白樺の小径」を道なりに歩けば難なく観光センターに到着。かくして日本のゆる山歩きその1は無事終了。


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石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com