再びラブラドールへ(5) ラブラドールからグリーンランドへ | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第23回

ポーラーベアが見えるところまで行く


 トーンガット・マウンテンズ国立公園(Torngat Mountains National Park)の最後の探索は幅2㎞、長さ20㎞のナクバック・フィヨルド(Nachvak Fjord)。フィヨルドは氷河によって削られたU字谷に海水が流入した地形で、ラブラドールの東海岸には無数にある。前号で記述したサグレクのリサーチ基地もサグレク・フィヨルドにある。海と断崖絶壁に囲まれているので、イヌイットの夏の狩猟活動やクルーズ船が訪れる以外ナクバックの奥まで入る者はいない。船内ではポーラーベア親子の目撃を知らせる放送が流れていた。我々は20艘のゾディアック(ゴムボート)に乗り移って探検開始。

 空と水の間に地層があり、生物はその全ての恵みを受けて共存する。慣れた人の目には数キロ先にいるポーラーベア親子が水辺で日向ぼっこしているのも肉眼で簡単に見えるらしい。ナクバックにはラブラドールで一番高い1700m級の山が二つある。そんな山のお陰か、時折なだらかな傾斜が見える。そういうところに動物が潜んでいるのだ。モーター音が動物を驚かせないギリギリの距離まできて操者がスイッチを切った。それ以上は近づかない。一瞬静寂に包まれる。澄み切った空気に遮るものがないこの環境でなんとか私も自分の目でも確かめたいと、大きな双眼鏡を借りてやっと遠くの動物が見えた。望遠レンズを使っても写真では白の点でしかなかったが、それが自然というものなのかもしれない。

 クルーズ船はいよいよラブラドールを後にデービス海峡(Davis Strait)を北東に進みながらグリーンランドへ向かう。航海時間が長いので様々なイベントが企画されるが、その一つに仮装大会がある。海にちなんだ物であればなんでもよく、探検家、アザラシ、魚のコスチュームを身にまとった人たちが集まった。私はトロントで買ったシャークの帽子をかぶり、シャークが私の頭にかじりついているようなインスタント仮装をした。楽器の弾ける人は持ってきたギターやバイオリンで船内のエンタメに一役かってでた。

消えることのない赤の水平線。デービス海峡


有志による音楽会


 船の操縦室ツアーや調理室ツアーもあり、技術の凄さを再認識。あまりにも私が質問するので、キャプテンと一緒に写真を撮ってあげると誰かに言われ、ツーショットに収まった私。キャプテンズ・ディナーのくじ引きにあたり、ドレ スアップしてスタッフと一緒のテーブルで歓談できたのも楽しい思い出の一つだ。デッキはラブラドールで見る最後の夕陽を写真に収めたり、トーンガットとの別れを惜しむ人たちで溢れていた。

操縦室見学。キャプテンとツーショットの筆者


ラブラドールの夕陽を名残り惜む


 〝白夜〟というのは太陽が沈まない北緯 66・6度以北の北極圏で観られる現象だが、ラブラドールは北緯60度ぐらいなので、どこまで太陽が地平線に沈むのか私は確かめたかった。深夜前から朝の3時まで毛布を被り甲板に出て真実を目撃すべく構える。何時間経っても地平線 は真っ赤。太陽は沈んでいるのにその光が見えなくなることはなかった。太陽が再び昇り始め、その赤が次第に空を埋め尽くしながら新しい1日を作って行く。私は慌てて船室に戻って仮眠した。

 外ではガッタンゴットンと大きな物音を立てて船が錨をおろしている。港に着いたのだ。体格のいいアフリカ人がロープを投げる。ここはグリーンランドの首都ヌーク。ニューファンドランドのセントジョンズ港を出港してから初めての港町だ。タラップを降りる船客も今日は濡れる心配もなく上陸。港には貨物船用のコンテナが目立つ。都会に来た感がある。とは言ってもヌーク市の人口は約2万人。それでもグリーンランドの中では一大都市なので、大学、ミュージアム、ホテル、マーケットがある。道路が敷かれているのは市内だけ。

目前に迫るグリーンランド首都ヌーク


 グリーンランドは世界最大の島。日本国土の5.7倍の広さを持つが、人間が住めない万年雪と氷の部分が80%以上を占める。もともとヨーロッパから来たノース民族と呼ばれるバイキングと古代エスキモー原住民が共存していたが、16世紀以降はイヌイットが主民族となる。一度はノルウェーの植民地でもあったが、ノルウェー人の人口は減少、その後デンマーク王国の支配下になり、現在は植民地でなく王国の一部として存在する。さてここで何が私を待っているのだろうか。


ishihara-makiko

石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com