氷の国グリーンランド(2) | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第25回

おとぎの国のようなカンガムイット漁村


 クルーズ船はグリーンランドの西海岸を北上している。お伽の国のような集落が見えて来た。カンガムイット(Kangaamuit)だ。赤、青、緑と色とりどりの可愛い家が海に向かって立っている。どの家の屋根も同じような傾斜だからだろうか、それとも窓の形が同じだからだろうか、お店で売っているクリスマスツリーの飾りを連想させる。漁村というと日本のイメージでは錆感があるのだが、カンガムイットは見た目に明るくチャーミングだ。ここで厳しい自然に順応しながら約350人の人たちが質素に生活しているのだ。

 さて、我々が上陸するともう〝おもてなし〟が始まっていた。クルーズ船を歓迎するイヌイット語の張り紙がしてあったり、首都ヌーク(Nuuk)から英語の分かる若いイヌイットの青年が通訳として現れたり、民族衣装を身にまとって丘でドラムを叩いて歌う女性が目に入る。山の中腹にあるコミュニティセンターに入って見た。丸々と肉好きのいい子供達が珍しそうに私たちをジロジロと観察している。お茶と素朴な手づくりのお菓子をご婦人方に勧められるまま、有り難くいただく。ここは体育館でもあるようで、その広い館内でテーブルにこれまた手づくりの小物が少量だが申し訳なさそうに値段つきで売られていた。グリーンランド語がわかれば有難うの一言でも言いたかったのだが。Thank youといって階段をおりた。

村の女性がアザラシを手際よく解体


 海岸では何やら人だかりが。いってみるとアザラシの解体の実演真っ最中だった。クルーズ船の観光客はみんな何とも言えない表情をしてその過程を見守っている。狩猟は男性、解体は女性の仕事らしい。素手で内臓も手さばき良く綺麗に取り出して行く。グロテスクだが仕事が早い。長い腸も海の水につけられると肌色の紐のように広がって行く。牛肉がとてつもなく高級品なここではアザラシの肉が常備品だ。毛皮はもちろんのことアザラシの体は余すところなく利用される。使われている半円のナイフは持ち主の名前が刻まれているほど貴重品であり、解体技術を持つ者の誇りのシンボルでもある。

フィヨルドで見る絶壁の断層模様は圧巻


 カンガムイットを後に船は190㎞のソンダーストームフィヨルド(Sondrestorm Fijord)に入る。何千年もかけて氷に削られ剥き出しになった見事な山の断層模様は圧巻だ。フィヨルドの終着点にはカンゲルルースアク(Kangerlussuaq)の空港がある。1992年までアメリカの空軍基地だったところだ。今はグリーンランド航空やヨーロッパやカナダのチャーター便が飛び交う。

温暖化で溶け始めている氷床


 ここで私のクルーズ船の旅も終焉を迎え、この空港からトロントに直行するわけだが、その前に希望者だけバスでグリーンランドの氷床(Ice Cap)へ向かうことになった。バスから見える景色はラブラドールとはまた違った趣がある。クリスマスでおなじみのトナカイが飛び跳ねていたり、不時着してコッパ微塵になった小型飛行機の残骸がそのまま置き去りになっていたりする。この地域はマスコックス(Muskox)の生殖地としても知られ、その毛で編まれた衣類はアンゴラ以上にソフトで超高級品として売られている。ラブラドールとグリーンランドの航海の記念に私も奮発して帽子を1つ買った。

マスコックスの群


 グリーンランドの8割を覆う氷の世界は真っ白な銀世界ではなくまず温暖化で氷が溶けて剥き出しになった岩場を10分ほど登って行く。その先は風雨にさらされた砂混じりの氷の荒野。太陽熱で表面が溶けているのでツルツルの足場とザラメの足場の繰り返しで一瞬でも油断していると転ぶ。ちょろちょろと靴の下で小さな流れが生まれている。川になったところもあり、その流れは警戒を要するほどの勢いだ。地球の温暖化で50年先はどうなっているのだろう。大量に流れ出す水量はフィヨルドの水深を増し、水際の部落は避難を余儀なくされるだろう。カンゲルルースアク空港も危ないかもしれない。

砂利と岩の傾斜を登る


 北極圏の空港カフェでコーヒーを飲みチャーター機でトロントに向かう。6月から7回に分けてこのコラムで取り上げたがこれまでで一番心に残る旅になった。最後になったが私が満喫したラブラドールとグリーンランド航海はAdventure Canada社(www.adventurecanada.com)の企画であることを記しておきたい。


ishihara-makiko

石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com