イタリア(1) 小さな避暑地 セストリ・レヴアンテ(Sestri Levante) | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第26回

学校の窓から見る地中海ビーチ


 イタリアに行く目的は3つあった。一つはイタリア語を学ぶこと。イタリアのオペラや歌曲が好きというのもイタリア語を学習するきっかけではあったが、イタリア系の合唱団に入っている関係上イタリア語が少しは分かっても損にはならないし、イタリア人とも会話ができれば楽しい、という単純な理由がきっかけだ。9年ほど前にトロントのカレッジでイタリア語入門の夜間コースを面白半分でとったが、それ以来手付かずになっていた。9年間のブランクは大きいが、なんとか初歩より上のクラスに配属された。

 二つ目の目的はトスカニー地方を旅すること。以前からの夢だったが、語学研修を機会にその夢を果たすことにした。

 そして最後の目的は写真。トスカニー州のシエナ(Siena)でフォトグラファーのワークショップがあることを知ったのでトロントから応募した。講師がナショナル・ジオグラフィックの写真家、ときては逃すわけには行かない。そんな訳で今年は個人的な目的を達成する中で見たり感じたりしたことから記していこうと思う。

 語学学校はトロント市内のイタリアン・カルチャー・インスティチュートでもらったリストの中から選んだ。フィレンツェ(Firenze)に本校、セストリ・レヴアンテ(Sestri Levante)に分校を持つABCスクオラ(学校)を選択。初めの1週間は分校、2〜3週目は本校でと合計3週間通うことにした。それ以上は保たないような気がした。

真ん中のビルの中に学校がある


 学校が世話をしてくれた下宿先の家主が駅まで車で迎えにきてくれた。セストリは地中海に面した小さな避暑地であることが行ってみて初めて分かった。地名を言ってもイタリア人でも知っている人はあまりいない。ジェノバ(Genova)のそばと言えば分かってもらえる。燦々と照る太陽に映える青い海、水着さえ着ていれば休み時間に学校から飛び出せる、そんな思いもよらない立地条件なのだ。スタートしたのは10月。気温は26度。泳いでいる人がいる。こんなところで学習に身が入るのだろうか。

 小さな街ではオートバイが一般人の移動の手段だ。街の案内をしてくれた先生も実はオートバイで出勤する。集中講座をとれば午後も授業があるが私は半日のみの一般コース。午後はアイスクリーム製造店見学、お料理教室、近郊観光地訪問、など。私は貪欲にほとんど参加した。ちょっとでも英語を使うとたしなめられる。語彙が足りなければジェスチャーに頼るしかない。

バイクで通勤する先生


 クラス構成は年齢も国籍もまちまちで、米国、ドイツ、スイス、英国、ロシアの人たちが多い。午後は遊びたいので皆下宿に戻ってさっさと宿題を終える。私のクラスは皆成人で見た目40代~80代だろうか。学校の話では昔は若い人が多かった近年は高齢者が多いとのこと。先生は30~40代。文法と会話の授業があり、休み時間には生徒間で自国語でなまったイタリア語を使いながら、面白おかしく勝手に盛り上がっている。

下宿先と学校の間にあるレストラン


 現地の人にイタリア語で通じるか確かめてみたくてビーチで船の修理をしていた男性に声をかけてみた。台所から持ち出したような小道具がいっぱいある。初め漁師かと思って話していたら、リタイアする前は地図を描く仕事をしていた地理学者だった。日本には行ったことはないが、韓国、タイ、フィリピンなどには行ったと言う。「学校でイタリア語を勉強して僕と喋ってもまた勉強になるね。」なんて言ってくれた。笑顔が素敵な初老の男性。クラスの仲間は私にボーイフレンドができたといってはやし立てる。

地理学者のロベルトさん


 セストリには街中から高台に登れるハイキングコースがある。古い石の塀ずたいに歩いていくとオリーブの樹々が山の傾斜に連立する。収穫時期には網を広げてオリーブを落とすのだろう。1リットルのエキストラバージンオイルを取り出すのに5~6キロのオリーブが要るのだから高価にもなる。山の上から眺めるセストリは島のようだが実は陸続きで岬へとつずく細長い地形だ。地中海の夕日が眩しい。

地中海の夕日に岬の学校もひっそりと


 日本人にはあまり知られていないようだがヨーロッパでは名高いイタリアの観光地チンクエテッレ(Cinque Terre)が近隣にある。セストリ・レヴァンテの学校から半日旅行に出かけた。次回はそのお話を。


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石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com