イタリア(2) 世界遺産 チンクエテッレ(Cinque Terre) | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第27回

チンクエテッレの典型的な岩壁村、マナローラ


 ローマ、ベニス、フィレンツェ等に並んでイタリアの6大名所の一つにチンクエテッレがある。そこは私が通っていたイタリア語学校のあるセストリ・レヴァンテ(1月号参照)から電車で簡単にいける距離にあった。有志達で散策に出かけることにした。チンクエテッレ国立公園(Parco nazionale delle Cinque Terre)はリグーリア州の地中海側海岸沿い約10キロの距離に並ぶ5つの集落のことである。1997年に世界遺産に登録された。5つの集落は北から順にモンテロッソ・アルマーレ(Monterosso al Mare)、ヴェルナッツア(Vernazza)、コルニーリア (Corniglia)、マナローラ(Manarola)、リオマッジョーレ(Riomaggiore)。どの村も狭くて急で長い階段が特徴だ。村か ら見る地中海はどれも絶景。健脚な人なら村から村へと20分から90分間隔のハイキングコースを歩くのもいいかもしれない。我々は電車を利用した。

ヴェルナッツアの港に面したゴシック教会


 5つの村の中でも人口5百人のヴェルナッツアは美しい港とこぢんまりしたビーチ、リグーリア海が一望できるタワー、カステロ・ドリア(Castello Doria)で人気が高い。このタワーは戦時中はナチスの戦略にも利用されたとい う。長く狭い階段をやっと登り切り一息着くと、タワーを見る前に1.5ユーロを徴収される。入江の桟橋で水遊びする観光客が見え、崖に立つ建物の住民の生活も垣間見える。桟橋の対岸のゴシック建築の教会は14世紀に建立されたもの。イタリアには珍しく中はグレー調の石の柱が目立つ素朴で荘厳な建築だ。

海岸通りが輝く夜のモンテロッソ


 一番避暑地的雰囲気を持つのはモンテロッソ・アルマーレだろうか。ビーチも広く、夜は海沿いのレストランのライトでキラキラ輝く。駅から10分ほど平地を歩けば歴史ある街中にでる。他の村に比べ一番アクセスしやすいかもしれない。桟橋からはビーチを横切る電車の鉄橋が見えて箱庭のような眺めだ。ロマネスク建築の教会は白と緑の大理石の横縞模様が目を引く。2011年日本の東日本大地震の7ヶ月後、イタリアでは6時間にも及ぶ豪雨がヴェルナッツアとモンテロッソを襲った。丘から岩屑と泥が水流によって3階まで到達し数人の死者を出した。いまは立派に復興している。

コルニーリア駅から海抜100メートルの村へ続く階段


 唯一海に接していないのはコルニーリアだ。かつてはあったと言われるビーチもいまはない。駅を降りると延々とジグザグに続く階段を登るように〝仕向け〟られている。シャトルを利用すれば街の入り口まで楽にいけたのだ が、知らない人はヒーヒー言いながら登っていた。わたしも知らなかった人間の一人で、仲間と一緒に約400段の階段を登り切る。海を見下ろす景色は天下一品で山の傾斜にある民家のオリーブ、レモン、ぶどうの木やサボテン系が視界に入り地中海感は最高。マナローラは典型的な岩壁村。45分程度の葡萄畑ハイキングができる。コースの最終地点は景観の素晴らしい港。防波堤は10年ほど前のものでまだ新しい。

チンクエテッレ国立公園の海岸線


 リオマッジョーレは他の地域ほどは観光地化していない。古い歴史を重んじるというよりチンクエテッレの中でも最も現実的な村とも言える。駅から長い坂道を登るかシャトルバスを利用できる。

世紀ものの建物の入口は階段のため高さが皆違う


 チンクエテッレの建物は皆古く、長い階段の上り下りの生活は難儀だと思われるが、価値ある環境のため住民は伝統を守りながら住み続ける。建物は高価で外部者が購入するのは難しい。農漁業に従事する以外、住民は近隣の都市ジェノヴァ(Genova)かスーペーツィア(La Spezia)に通勤する。大型のホテルやリゾートはない。旅行者の宿泊は階段をいく段も登った賃貸の部屋が主だ。入口も小さい。重いスーツケースを引きずりながら狭い階段を登って行く宿泊客に何人か出会ったが、エレベーターがないとは思っていなかったらしい。

 面白いのはこのチンクエテッレが中国の万里の長城と2006年に姉妹都市提携を結んでいること。そのわりには中国人観光客はあまりいなかった。大人数でのグループ泊が難しいからか団体客らしい集団には会わなかった。

 いつの日かまた訪れることがあれば10キロのハイキングにチャレンジしたい。そして絶壁の上の猫の額ほどのベランダから紺青の海に登る朝日を眺めてみたいものだ。


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石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com